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第132話 湖の魔獣

 今日は港から来る途中に見た、湖へ行こうと言うことになった。

 人工知能のメイによると、あそこは水爆製造中の事故によってできた湖だと言う。放射能は起爆用の原爆によるものだけで、量も少なく爆散している。

 以前は飲み水に使用していたそうだし、メイも自然界以外の危険な放射能は検知していないと言っていたから、心配はないだろう。


「ユヅキさん、きれいな湖ですね」


 ハルミナは海を見た事はあるが、こんな湖を見るのは初めてのようだ。対岸の岸辺には樹木が生い茂り、この国には珍しく林に囲まれた自然豊かな場所だ。

 丸い湖に透明度の高い水が満たされ、風もなく湖面の波も静かだな。湖畔に生えた木々が水面に映って素晴らしい景色が見れた。


「大きな湖ね。馬でゆっくり一周歩いたら、鐘半分ぐらいかかりそうね」


 対岸まで500mといったところか。350年前の事とはいえ、巨大な穴を開けた爆発がいかに凄まじいものだったか、これを見るとよく分かるな。

 カリン達とゆっくり湖の周りを馬で歩いていく。山や林の見える景色のいい所で馬を降り、シートを敷いて荷物を降ろす。


「ヒャア、冷たいわね」


 カリンが湖に足をつけたが、さすがにまだ水は冷たいようだ。雪を頂く山脈から川が流れ込んでいるからな。


「でもきれいな水だな。夏になって泳ぐと気持ちいいだろうな」

「こんな綺麗な場所なのに、周りには町が1つも無いのね」

「ここから港までの町は、みんな首都に引っ越ししたらしいぞ」

「これだけ土地が広くて魔獣もいないのに、町が少ないなんてもったいないわね」


 これだけ広大で安全な場所は、大陸中探しても無いだろうな。昔はここに人族が5万人近く居たそうだが、寂しい国になってしまったんだな。

 するとタティナが横の林の奥を注視しながら、注意を促す。


「ユヅキ、あの林の中で何か動いた。警戒してくれ」

「この国には魔獣はいないそうだが、獣か? 見に行ってみるか」


 警戒しながら林に近づき、単眼鏡で辺りを探ってみる。


「あそこでカマキリとトカゲが戦っているな」

「少し見せてくれるか」


 タティナにも見てもらったが、双方とも普通の大きさではなく子供くらいある。


「あれは魔獣だな」


 タティナが言うには魔獣としては小さい部類だが、ふつうの昆虫ではない。あんなでかいトカゲと戦うカマキリなどいないからな。


「ここで倒そう。本当に魔獣かどうか分からんが、危険かもしれない」


 魔獣に気づかれずに、この距離から魔道弓とカリンとハルミナの風魔法を使う。


「それじゃ、攻撃するわよ。エアカッター!」


 戦闘に夢中になっていたトカゲとカマキリは、俺達の最初の攻撃で簡単に倒すことができた。しかしカマキリは風魔法の刃をカマで斬り裂いていたな。


「あいつ小さいけど魔獣のカマキリと同じね。たぶん魔石を持っているわ」


 倒した魔獣を回収し解体すると、両方共やはり魔石を持っていた。カマキリもトカゲも魔法の力でカマを強くしたり、動きを速くするなどしているのだろう。魔法で攻撃しないから、人族は魔獣と思わず見逃していたようだな。


「それほど危険な魔獣じゃないし、放っておいても大丈夫だな」


 カマキリは食べる所もないし魔石だけ回収した。トカゲの皮は何かに使えたはずだし、肉は焼いて食うか。命を粗末にしてはならんからな。

 湖の岸でかまどを作り、持ってきた食材と一緒に焼く。


「ユヅキさん、ユヅキさん。これ、わたしが焼いたパンなの」


 ハルミナが発酵したパンを作って持ってきたようだ。


「ほほう、これはバターロールか。うまく焼けているじゃないか」

「ユヅキさんが、宿泊施設のコックさんに頼んでくれたお陰よ。親切に教えてくれたわ」


 俺がいない間にハルミナはイースト菌をもらって、このパンを自分で焼いたと言う


「これ美味しいわね。今度からパンはハルミナが焼いてね」

「なに言ってるのかしら、これはすごい手間がかかるんですからね。特別な時にしか焼かないわよ」


 湖畔で食事を楽しみ、辺りを馬で散策する。時々さっきの昆虫の魔獣がいるようだが、草むらに隠れて襲ってくることはない。

 今日一日、のんびりときれいな林と湖を堪能する。やはり俺には、こんな自然の中で過ごす方が性に合っているようだ。


 リフレッシュして宿泊施設へ帰って来て中に入ると、政府関係者と名乗る男が俺の帰りを待っていた。


「ユヅキさん、少し相談があります。すみませんが、談話室に来ていただけますか」


 1階の食堂の隣にある部屋にその男と入るが、ややこしい話を持ってきたんじゃないだろうな。


「実はこの近くに政府の方針に反対している町がありまして、その代表を説得していただけないかと思い伺いました」

「俺が説得?」

「今回の戦争への参加と住民の避難をしてくれるよう、説得していただきたいのです。政府に反対していますが同じ国民ですし、協力を願いたいのです」


 簡素なローブを着ていて、側近のケンヤと同じような役人のようだが、えらく低姿勢だな。


「そのようなことは政府の仕事のはずだが、なぜ俺なんだ」

「その者達は前政権で大陸との和平を結び、獣人達をこの国に入れようと主張していました。あなたが獣人の奥様と行けば話ができると思います」


 今まで何度も使者を送ったそうだが、その度追い返されているそうだ。俺と考えが似ているから、話しが通じると思ったようだな。モフモフを愛してくれるというなら、会うこともやぶさかではないのだが……。

 俺が返事を渋っていると、とにかく話だけでもしてほしいと言ってくる。


「こちらとしては戦争に参加できなくとも、住民の避難だけでも応じてもらいたいのです」


 確かに、住民の避難まで拒否しているのはいただけないな。


「説得するしないは別として、話を聞きに行くだけならやってもいいだろう」

「はい、それで結構です。こちらに首相からの書状を持ってきています。これをイザール市長のツバキ ハルト氏にお渡しください」


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