表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

304/352

第131話 人族の首都の観光

 この宿泊施設に泊まって4日目。今日はみんなと、この国を見て回る予定だ。


「ユヅキがいないと町の方に行っちゃダメって言われて、この近くしか見てないの。今日は人族の町へ行きましょうよ」

「そうだな。俺も見て回りたいしな。近くに首都のガクルックスという町がある、そこに行こう」


 俺の疲れた顔を見て、みんなが気を回してくれたのかも知れないな。この国の観光に行こうと誘われた。


「ユヅキさん、人族ってすごい魔道具を作っているんでしょう。お土産とか売ってないかな」

「ハルミナ。ここは観光地じゃないから、多分そんなの売ってないぞ」

「え~、そうなの。お土産買って帰るって、里のみんなに言って来たのに~」



 俺達は馬に乗ってガクルックスの町を目指す。港から反対方向の南の山脈に向かって、馬で20分ほど走ると町に着くそうだ。

 この地方は冬でも温暖だが3000m級の山々には雪が積もっている。

 あの山の向こうは魔獣が住む魔の森だそうだが、巨大な城壁が建設されていて、山を越えてこちら側には来ないそうだ。ここは人族だけが住む土地になっていると言っていたな。


「見えてきたけど、あれかしら?」

「町のようだが城壁が無いな。ユヅキあそこが首都か?」


 タティナも驚いているようだが、この国には魔獣がいないからな。柵も城壁もなく、街道がそのまま街中の道になる。日本にある都市と同じように平地に民家などが建ち並ぶ。


「このまま町に入ってもいいの? 門番もいないし、なんだか不用心ね」

「まあな。この国ではこれが普通なんだよ」


 町外れに馬を停めて街中を見て歩く。街の道は、石畳だが十字に交差した整備された道だ。

 時々会う人達は俺達を見て驚いているが、俺が会釈すると会釈を返してくれる。

 獣人やエルフが珍しいようだが、歓迎されてない訳ではないようだ。珍しい外国人が来たという程度だろう。


「ねえユヅキさん、あっちに高い建物があるわ。行ってみましょうよ」

「何あれ? 教会の塔にパイプがいっぱい張り付いているわね」

「あれは高炉だな。鉄を生産する工場だ」

「えぇ~、あんな大きな塔で鉄を作っているの!」


 村にある鍛冶工房の炉しか見てないカリンが驚くのも無理ないな。材料を運ぶベルトコンベアもあるようだし、本格的な生産工場だな。


「ユヅキさん、下の方にある建物も?」

「多分色んな工房があそこに集まっているんだな。煙突から煙が出ているところもあるし、原料や製品なんかを作っているんだろう」


 鉄は豊富にあるようだな。すると街の建物は鉄骨か鉄筋コンクリート製かもしれないな。こっちは病院や役所なのか、大きな四角い建物が建ち並ぶ。


「ユヅキさん、ユヅキさん。こっちの店に食堂にあった魔道具が売っているわ」

「食堂にあった魔道具?」

「あれよ、カッチコッチと動く魔道具で、案内の人がトケイと言ってたやつよ」


 ああ、時計屋か。中に入ると大小さまざまな時計が飾られていた。

 人の背丈程ある大きな振り子が動いていたり、重りが鎖でぶら下げられている壁掛けの時計など、色んな種類が売られているな。


「ユヅキ。これで時を知るって言ってたけど、どういう事かさっぱり分からないんだけど」

「店主、この針を動かしてもいいか」

「ああ、結構じゃよ」


 年老いた店主が快く許可してくれた。


「この短い針を見ていてくれ。ここが鐘2つで、ここが鐘3つだ」


 壁掛けの時計の長針を回して、短針の動きを説明する。


「そしてお昼の鐘4つになると」


 ポッポ、ポッポ、ポッポ。


「うわっ! なんか出てきた」

「なっ、カリンすごいだろう。鐘が鳴る代わりに鳩が出てくるんだぞ」


 鳩の音を聞いて、一緒に見ていたタティナやハルミナも驚いているな。さすが人族の魔道具だと感心しきりだ。


「ねえ、ユヅキさん。そのハトって言うのは何なんですか?」

「これくらいの大きさで木の上に巣を作って住んでいる動物でな、ポッポっていうのが鳩の鳴き声なんだ」

「木の上? わたし達エルフ族と同じですね。だからこのトケイは家の形をしているのかしら」


 そういえば鳩のような鳥は、この世界にいなかったはずだが。


「店主、この鳩という動物を見たことはあるか」

「いや、それは昔からのデザインでな、想像上の動物じゃと思っとったよ」


 そうだな、遥か昔の生き物だ。だがよくこの時代までこのデザインを残してくれたものだ。


「ユヅキさん、これっていくらするのかしら。安いなら買っていきたいんだけど」


 店主に聞くと俺達の持っている王国のお金では買えないようだ。


「両替所は役所の中にあったはずじゃ」


 海洋族が持つお金を両替するための部署が、役所内にあるようだ。

 他に買い物もあるだろうし、今のうちに両替しておくか。役所の場所を聞いて俺は王国のお金を両替してもらう。


「ほほう、銀貨と金貨で替えられる金額が違うのか」

「はい、硬貨に含まれる銀と金の重さでお金に変えますので」


 金貨で両替した方が少しお得だな。金貨3枚を両替してもらった。

 あれ、もしかするとこれを銀貨に替えると、金貨3枚以上の銀貨がもらえるんじゃないか? これを繰り返せば、俺は大金持ちになれるかも。 いやいや、手数料を考えると損になるか……。

 そんなバカなことを考えつつも時計屋に戻った。


「ええっ、これが人族のお金なの! 紙に絵が描いてるだけじゃん、何これ」


 カリンが驚くのも無理ないか、紙幣なんて王国になかったからな。


「ねえ、ユヅキさん。それでこのトケイはいくらになるのかしら」

「王国のお金に直すと、金貨2枚だな」

「うわ~、それは高いわね」

「さすが、人族の作る魔道具ですね。それだとちょっと手が出ませんね」


 この壁掛けの鳩時計、王国通貨で20万円程か。高級な時計とはいえ、見る限り4、5万円程度の品物のようだ。人族の物価と4、5倍程違うみたいだな。お土産で買って帰るには少し高価だと、ハルミナは買うのを諦めて店を出て街中を歩く。


 おっ、あれは薬屋か? もしかすると女神様からもらった薬が手に入るかもしれないぞ。


「すまないが、ここに抗生物質の飲み薬はあるか?」


 持っていた白いカプセルが入った瓶を店員に見せる。


「はい、ありますよ。肺炎や化膿に効く薬ですね」

「ああ、それだ。それをくれ」


 人族は電気とバイオ技術が発達している。抗生物質の製造方法は伝わっていたようだ。少し高価だが、命の値段としては安い物だ。買えるだけ買っておこう。これで残り少なかった薬を補充できるぞ。


「ユヅキさん、あれ何かしら」


 露店でソフトクリームを売っていた。少し休憩しようと人数分注文してベンチに座る。今は冬だが、今日は少し暑いぐらいだしちょうどいいな。


「甘くて美味しいわね」

「ユヅキさん。こんな冷たくて柔らかいの、わたし初めて」


 うんうん、みんな喜んでくれて俺も嬉しいぞ。


「タティナ。最後はこのコーンをソフトと一緒に食べると美味しんだぞ」

「すごいな、手に持っている包みまで食べられるのか」


 指に付いたソフトを舐めながら、タティナも美味しそうに食べる。


「ほれ、カリン。ほっぺにソフトクリームが付いているぞ」


 俺が顔を舐めて取ってやる。


「わっ、バカ。人前で恥ずかしいでしょう」


 真っ赤になっているカリンも可愛いものだ。たまにはこういうデートのようなのもいいな。さて一頻り街を見て回ったし、今日はこれで帰るとするか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ