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第128話 プロローグ-0.6 ~とある時代~ 大戦

 ヘンリッチ教国との戦争が終結し、国境線の警備をしていた俺達の部隊に伝令がやって来た。


「どういうことだ! 西の国境が破られただと」

「小国の一部が国境を越えて侵攻してきた。守っていた国境警備隊が壊滅したそうだ」

「壊滅だと! あそこには最新型の戦車を配備していたはずだぞ」

「すごい数の魔術師がいたそうだ。今敗因の分析をしている」


 これは完全に戦争を仕掛けているな。


「宣戦布告はあったのか」

「いや、そんなものはなかった。本国の外交部とも連絡を取ったが、宣戦布告はなかったと言っている」


 まったくの奇襲か。なんて野蛮な連中だ。

 国境も確定し、他国からの労働者の派遣も決まりかけていたはずだが、これでまた戦時体制に逆戻りじゃないか。

 俺達には後退命令が出され、各地の国境警備隊と共に後方に移動する。


 前回の奇襲を受けた状況を分析すると、国境のすぐ南に位置する小国だけでなく、その後ろの王国が関与していることが分かった。外交で交渉のテーブルに着いていたのは小国が集まった団体だ。


 まとまりがなく交渉も長引いていた。それ自体が作戦だったのか、その間に小国は王国と同盟を結び軍備を整えたようだ。そして連合軍として俺達に戦いを挑んできた。

 国境警備隊を襲った魔術師は王国から派遣された兵のようだ。王国は魔法に特化した国だ。王による統率力もある。


「どうも俺達の戦術も研究しているようだ。各個撃破などの戦術もそうだが兵站をしっかり整えている」

「各小国と連携し補給物資の確保をしているようだ。最初から長期戦を見据えた構えをしているな。これは厄介だぞ」


 連合軍の勢力は、この大陸の3分の2に及ぶ。人口もけた違いに多く、長引けば俺達が不利になる。

 今は一進一退の戦いをしているが、この先どうなるか分からない状況だ。


「本国は何と言っている」

「今、新兵器の開発をしているそうだ。それまで持ち堪えてくれとの事だ」


 前の戦車やロケット弾のように、新兵器で戦局を変えられるかもしれない。だがその前に戦う物資が不足しているのだ。


「新兵器よりも、砲弾の補給を先にできないのか」

「火薬を作る材料があまり無いそうだ」


 俺達には科学技術も電力もある。作り方は分かってはいるが、材料がなく精密な物も作ることができない。電力はあっても電子制御はできないし、電力を蓄えるための高性能なバッテリーもない。

 キーとなる希少資源が無いのだ。変動を繰り返したこの地球にそのような資源はもう無いのかもしれない。


「せめて燃料電池があれば、モーター駆動の高速な戦車とレールガンができるのだが」


 連合軍の魔術師部隊は強かった。一部は後退しもう何ヶ月も膠着状態が続き、俺達の戦力も限界に近い。


「おい、本国から連絡があったぞ。新兵器の航空戦力を送るとの事だ」

「航空戦力だと。爆撃機を開発したのか?」


 この世界には石油燃料がなく、木炭による蒸気機関では重すぎて空を飛ぶことはできないと言っていなかったか。

 その後、戦地に送られてきた新兵器を見て驚いた。


「これはなんだ。空飛ぶモンスターか」

「はい、我々が開発した生物兵器で、通称Dragonと言います」


 白衣を着た開発担当者が連れてきた生物兵器は、人の3倍もある大きなトカゲのような体。広げると10mを超える翼で、空を自由に高速で飛び回るという。

 獣型のモンスターを掛け合わせて、このような生物兵器を開発したという。


 俺達には受精卵を解凍し、急速に成長させるバイオテクノロジーがある。この世界で俺達が作った物ではなく、最初から白い家にあった設備だ。

 この開発者の説明によると、人工子宮やDNA治療などの設備を活用してこの生物兵器を創り上げたそうだ。知能も高く俺達の言うことをよく聞いてくれるという。


「早速、実戦投入しよう」


 当初投入されたドラゴンは4体だけだったが、その戦果は目を見張るものだ。もとより地上戦闘での戦術しか持たない連合軍に対し、航空戦力を保有した我が軍は圧倒的だった。

 その後もドラゴンは順次増強され、戦局は有利に展開した。


 連合軍を圧倒しつつ小国軍の地帯を抜け、王国国境を越えて尚も侵攻中だ。このまま進めば、いずれ王国の宮殿を包囲することもできる。

 しかし、本国より全員に帰還命令が発出された。


「一体どういうことだ! 勝利は目前じゃないか」

「本国からは、『戦闘を中止し、物資を含め速やかに本国に帰還せよ』との命令だ。残念だがここまでだ。撤収準備を始めるぞ」

「これまで俺達がしてきた苦労はどうなるんだ!」


 だが命令には従わなければならない。その後1ヶ月以上かけ本国へと帰還した。

 そして本国の地を踏んだ俺達は唖然とした。遠くの地面に見える巨大な穴と荒れ果てた大地。人々が暮らしていた街は見る影もなく破壊されていた。


「いったい誰に攻撃されたんだ……」


 俺達が王国へと侵攻している間に本国が奇襲を受けたのか? いや本国にも防衛装備のドラゴンを配置していた。街をこれほど破壊する戦力は連合軍にはなかったはずだ。


「よく帰って来てくれた。ご苦労だったな」


 俺達を出迎えたのは、先代の評議委員の人達だった。だがそこに俺の父親はいなかった。


「みんな、気をしっかり持って聞いてくれ。君達の両親や家族、この国に残った我々の3分の2が亡くなった」

「俺の両親もか?」

「すまなかった。助けることができなかった」


 それを聞いたナナミは呆然と立ち尽くし、その後地面にうずくまり泣き崩れてしまった。俺達が守ろうとした家族や国民が失われてしまった。

 戦争のために国外に出て生き残った3千人を足しても、総人口の半分以上を失った事になる。残った多くの者も怪我をし、工業地帯も破壊され兵器製造もできない。


「新兵器の水爆の製造中に事故が起きてな」

「水素爆弾は安全ではなかったのか。製造もそれほど難しくないはずだ」

「水素爆弾自体ではなく、それを起爆させるための原子爆弾の製造時に事故が起きたんだよ」


 核分裂反応の制御に失敗したのか。ここに来る前に見た巨大な穴が、もしかしたらその爆発の跡なのか。だがこの市街地からはかなり離れている。


「その際に傷ついたドラゴンが暴走して、この街を攻撃した」


 片腕と片翼を失ったドラゴン2体が制御を失い暴れ回ったそうだ。そのドラゴンが力尽き倒れた頃、街はもう破壊し尽くされていたらしい。


「我々評議会はメイとも協議して、この島に立てこもる事を決定した」


 戦況が有利なこの時期に、敵国と講和条約を結んで戦争を終結させるつもりらしい。そして防衛に有利なこの島で鎖国政策をとる事で、この国の現状を他国に知られず、攻め込まれないようにしようとしているのか……。


 確かに今なら、この島を人類の国として認めさせ、対等な立場で渡り合えるだろう。講和条約も占領地域を明け渡すことで賠償責任もなく有利に事を運べる。ここまで本国が傷ついてしまった現状では一番いい方法かもしれない。

 既に王国に使者を送り交渉のテーブルを用意しているらしい。


「君ら全員の帰りを待って、皆で合同葬儀を執り行なう。その後、君達を含め新しい体制を築くつもりだ。我ら初代も今は8人しか残っていないからな」


 20体以上いるドラゴンは防衛用の4体を残して大陸に放った。どのみち武装の一部は放棄しないとダメだろうしな。ドラゴンは俺達の命令が無ければ襲うことはないが、大陸で人目に晒すことで俺達の力を示し抑止力とする。現状、この島に踏み込まれれば我々に勝ち目はない。抑止することが重要だ。


 無事、連合国と条約を結ぶことができた。不可侵条約だ。大陸最北端のサルガス港を我らの土地とする他は、占領地をどのように分割するかは連合国に委ねる。

 我ら人類はこの地でひっそりと暮らすことを決めた。


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