第127話 プロローグ-0.5 ~とある時代~ 砂漠越え
第120話 プロローグ-0.4 の続きの話となります。
いよいよ砂漠越えの侵攻作戦が開始される。
ヘンリッチ教国は西海岸と東の山岳地帯の2ヶ所に兵力を集中している。俺達の戦車部隊が砂漠中央を越えてその背後から攻撃する作戦だ。
「兄さん。まさか真夏の砂漠を越えてくるなんて、敵も思っていないでしょうね」
「そりゃそうだろう。この戦車がなけりゃ無理だからな。しかしよく車内にクーラーを付けてくれたな。助かるよ」
「モーターと発電機は作れるんだから、蒸気機関での発電もコンプレッサーによるクーラーも簡単な事だわ」
鉄と銅の資源さえあれば、俺達の科学力でこの世界にない兵器を作る事は可能だ。
「後はこれで燃料電池か常温核融合ができれば文句ないんだがな。炭を燃やすのが暑くて敵わん」
「無い物ねだりはダメよ、兄さん。それより前見て運転してね。さっきみたいな巨大なワーム状のモンスターが出てきたら危ないわよ」
「ほんとこの世界はどうなっているんだろうな。早く人間だけの世界を作りたいものだな」
俺が部隊長となり、砂漠を越えて予定通り西海岸の背後から攻撃する。北部地方の味方と挟み撃ちにする形で敵軍を殲滅した。
そのまま大陸を横断して、山岳地帯の敵へと向かう。俺達の情報が敵に知られる前に敵の側面を突く。
意表を突き山岳地帯の防衛部隊も総崩れとなり排除できた。今回の侵攻で、敵の防衛兵力の大部分を減らせたようだな。
「後は街道沿いの拠点となる町を攻略していけば、勝利は見えてくる。ナナミ、国の父さん達は何と言っているんだ」
「予定通り進んでも大丈夫と言っているわ。メイの作戦成功率も上昇したんですって」
「よし、このままヘンリッチ教国の城を目指そう」
だがその後はなかなか進めなくなる。行く先々の町で住民の激しい抵抗に遭ったのだ。
「神の言葉に逆らうお前らのような悪魔は、神の裁きが降りるぞ」
「ならば今、その神をここに連れて来てみろ。お前達住民が抵抗するから、この町がこのような状況になったのだろう。お前達自身の過ちを悔いるんだな」
「神よ我に祝福を。この者達に鉄槌を」
そう言って住民は自らを炎に包んで、俺達に突っ込んできた。こうなれば槍で突いて排除する他ない。自ら家を燃やす者もいる。
これらはメイによると、カルト教団に見られる現象だそうだ。教義や一番上の者の命令に従って自分の命を投げ捨てる行為だと言っている。
この地域はトカゲ型の原住民ばかりで、1種族であればマインドコントロールも受けやすいと分析された。全く訳の分からない事をするものだ。
「仕方ない、全て殲滅していこう。占領して住民を働かせる必要もない。住居を焼き払っても問題ないだろう」
降伏勧告に応じなかった町は徹底的に破壊し、通過後に背後から攻撃されないように全滅させる。もしかしたら敵の焦土作戦かもしれないと思ったが、俺達の補給路は2本ある。補給は万全だ。
時間を掛けながらも侵攻を続けていき、人間だけが住める地域を拡大していく。ヘンリッチ教国の首都は南端に位置していて、小国が林立している国境沿いまで進まないといけない。
「あれがヘンリッチ城ね。やっとここまで来れたわね」
「後はあの城を落とせば、俺達の勝利だ」
この城には、全てを牛耳る教皇が居る。その教皇さえ排除すれば、この国は瓦解する。人類の戦争のように情報戦を仕掛けたり、経済力や兵士全体の数、士気を下げるようなややこしい事をしなくてもいいのは楽だな。
「でも、先遣隊の報告を聞いた? 人の背丈の3倍近くもある、巨人の原住民が城を守っているそうよ。なんだか怖いわ」
「それに首都の住民も人の壁となって抵抗していると言っていたな。大丈夫だよ、ナナミ。みんなで力を合わせて突破しよう」
今、本国で作戦立案してもらっている。しばらくここで待機し指示を仰ごう。
そして3週間、ヘンリッチ教国と睨み合いが続いた後、国からの連絡と共に新兵器が送られてきた。
「火薬材料を見つけたと思ったら、もう、弾道ロケットを開発するとはな」
「兄さん、あれ見て。大砲付きの新型の戦車も来ているわよ。これなら勝てるわね」
この地で僅かだが硫黄が発見されたらしい。これで火薬が製造できる。ロケットも固形燃料のみの単純な物だが、距離と角度を間違わなければ、確実に命中できると言っている。
短距離のロケット弾になるが、安全地帯の遠方から城を直接狙うことができる。
「俺達に必要なのはこの土地の資源だ、人も城も必要ない。完全に城を破壊するために8発のロケット弾で攻撃するそうだ。ナナミ、どう思う」
「城に居る教皇は捕まえなくてもいいの?」
「今までの行動から、住民を盾にして自らの保身を図る独裁者であるとメイが判断した。この場合、独裁者を抹殺すれば住民の抵抗はなくなると言っている」
「そうね。下手に逃亡されても後が面倒ね。その作戦でいきましょう」
作戦実行の日、新型の戦車に乗り込み戦闘準備をする。
「ロケット弾発射後、俺達はこの戦車で首都を包囲殲滅する。みんなの犠牲が一番少ない作戦だ、確実に作戦を実行しよう」
ロケット弾の白煙が一直線に城に向かうのが見えた。作戦開始だ。俺達も戦車を出撃させ城を包囲するために前進する。
発射されたロケット弾のうち2発は外れてしまったが、みごと6発が城に命中し炎と共に城が崩れ落ちる。
戦車で城を包囲するように、半円形に戦車を進めると前方から巨人の原住民が攻撃を仕掛けてきた。巨大な岩が俺達に向かって降り注ぐ。奴らは魔法を使っての攻撃は無いが、自身の力に物を言わせ近くにある岩や樹木を投げ、こん棒を使い襲って来る。直接攻撃を受ければこの戦車とて持たないぞ。
「砲撃を開始しろ」
巨人に向かい砲弾が一斉に発射される。
なんて奴らだ! 簡単な鎧と鉄の盾を持っているとはいえ、砲弾を受けても奴らは死なないぞ! 普通の生物の皮膚とは違うのか。他の戦車と連携し5発以上当ててやっと1体が倒せる。
「包囲作戦は中止する! 戦車を奴らの前面に展開させろ!」
他の戦車に連絡し、散開していた戦車を前面に集中させる。乱戦になり大きなこん棒で戦車が叩き潰される被害も出た。
後退しつつ機動力を生かして前面と側面から攻撃して、何とか巨人を殲滅していく。
「なんて原住民なの! やはり奴らはモンスターね」
「この新型戦車で対抗しても被害が出るとはな。あの巨人のせいで後方からトカゲの原住民の多くが逃げて行った。あの中に教皇がいないことを祈るだけだな」
全ての巨人達を倒して、その死骸を後に城に向かう。城壁を砲弾で破壊し城内に侵入するが、城は既に完全に破壊され抵抗する者もいない。
多数の死者が瓦礫の下敷きとなっていたが、その中に豪華なローブを着た人物を発見した。どうやらこいつが教皇のようだな。こいつさえ死ねば教国は降参する。
これでヘンリッチ教国との戦いも決着だな。俺達の勝利だ。これで神の言葉がどうのと言う連中も、現実を直視する事だろう。
「やっと終わったな、ナナミ。後は国境管理と、本国による外交交渉だけだ」
「これで大陸の3分の1を手に入れられたのね。他の国も私達を正式に国と認めて、交渉のテーブルに着いてくれるわよね」
戦争も終わり、これからは平和な世が訪れると俺達は思っていた。




