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第121話 船内にて

「君がユヅキ殿だね。私は船長のボマティムという。お見知りおきを」


 俺達が乗り込んだ船は、海洋族の人達が操船していた。人族の船だと聞いていたが、見る限り人族はおらず、全て海洋族の人達ばかりだ。

 急ぎ出航するところで、錨を上げたり帆を張ったりと忙しそうにしている。船の後方からみんなを指揮しているのが、がっちりとした体格のこの船長だ。


 船は荷物の運搬船に比べれば小さかったが、遊覧船程の大きさだ。1本マストにはメインの帆が2枚と、船の先端に向かって三角形の縦帆が1枚ある。


「ナミディア君。ユヅキ殿を船室に案内してやってくれ」

「はい、船長」


 幸い先ほどの戦闘で怪我した者はなく、帝国兵が追ってくる様子もない。港奥の森に放った火も鎮火し、これ以上の騒ぎになる事もないだろう。


 服に付いた埃を落とし、ナミディアさんに連れられて階段を降り部屋に案内される。大きな船室にはテーブルとソファー、その奥にベッドが2つ並んでいた。

 その部屋に俺とカリン、隣の同じ部屋にタティナとハルミナが入る。ナミディアさんは別の船員用の部屋に行くそうだ。

 各自の部屋に荷物を置いて落ち着いていると、ナミディアさんが食事を部屋に運んできてくれた。


「ユヅキ殿。ここから約2日半ほどで人族の国へ行けるそうです。詳しくは明日船長がお話しすると言っていました。今日はゆっくり休んでください」

「そうか、ナミディアさんも疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」


 そう言っている横で、カリンが少し気分が悪いと言い出した。そうだった、カリンとタティナは船酔いするんだったな。


「ナミディアさん、酔い止めの薬をもらえないか。タティナとハルミナにも届けてやってくれ」

「はい、すぐに持ってきますね」


 船酔いはそれほど酷くなく、薬を飲んで楽になったようだ。食事もできたし後はゆっくりと休めそうだ。カリンをベッドに寝かせて様子を見たが、薬が効いたのかすぐに眠っていた。


 翌朝までぐっすり寝て、俺の部屋でみんな一緒に朝食を摂る。


「タティナ。昨日はゆっくり眠れたか」

「ああ、あの薬はよく効くな」

「ハルミナは、何ともなさそうだな」

「はい。その船酔がどういうものか知りませんけど、体調はばっちりですよ」


 そう答えた今朝のハルミナの肌は、元の透き通るような白い肌になっていた。


「ハルミナ、肌の色を褐色にしなくてもいいのか?」

「ええ、ここは海洋族の領域ですからね。帝国内でなければ大丈夫ですよ」


 扉がノックされ、返事をするとボマティム船長が扉を開けた。


「失礼するよ、ユヅキ殿」


 椅子をすすめると、大きな体でどっかと腰を降ろす。


「航海は順調に進んでいる。明日の朝にはサルガスの港に着く予定です」


 帝国南端の港はサルガスと地図には記載されていたな。そこだけは人族の土地で、港があるだけの飛び地となっている。


「今、サルガスの治安はどうなっている。帝国兵は港に来ていないか」

「サルガスを目指して軍が侵攻しているようですが、港自体は安全が保たれています」

「それなら一安心だな。港に着いて即戦闘はやめてほしいものだ」

「その港と海峡を挟んだ先が人族の国となりますが、海峡は潮の流れが速く渡れるのは今の時期、鐘4つの頃になりますな」


 鳴門海峡の渦潮のようなものか。地図で見ると大陸と人族の国に挟まれた狭い海峡だな。


「分かった、ありがとう。そういえばこの船には人族は乗っていないようだが」

「この船には海洋族しか乗ってませんな。我らが人族の長から、ユヅキ殿を国へ送り届けてくれるようにと依頼されたのでね」


 俺を保護するようにと、海洋族に依頼したと言っていたな。


「ナミディアさんもその依頼を受け、俺達に助力してくれた」

「彼女はよく働いてくれた。しばらく連絡がなく心配したが、昔の港を使うとはよく考えたものだ」

「依頼は俺を国へ送るまでだったな。その後、ナミディアさんはどうなる」

「そうですな。彼女は元の職場に戻る事になりますが、今は船がない。それまではこの地域で働いてもらう事になりますな」


 ナミディアさんとも明日までか。折角仲良くなれたのにな。


「ナミディアさんと送別会をしたいが、いいか」

「それなら少し大きな部屋を用意しよう。彼女もこの船では仕事が無いし、ちょうどいいでしょうな」


 船にある食材は自由に使っていいそうなので、食事を作ってテーブルに並べていく。お酒も各種あるようだし、木のグラスやジョッキと一緒にテーブルに置く。

 ナミディアさんを呼んでパーティーを始めよう。


「もうすぐ人族の国に着ける。これまで手助けしてくれたナミディアさんに感謝して、乾杯!」


 ワインやエールなど好きなものをグラスに注いで、みんなで祝杯を挙げる。


「ユヅキ殿。こんな祝宴を開いてもらい、恐縮です」

「今まで頑張ってくれたナミディアさんに対する、心ばかりのお礼がしたくてな」


 慣れない陸地をここまで付いて来てもらい、船に乗せてくれたんだ。本当に感謝していると言うと、ナミディアさんは少し涙ぐんでいた。


「ねえ、ねえ。ユヅキさん達って共和国のなんとかっていう村から来たんでしょう。すごい遠くから来たのよね」

「シャウラ村ね。共和国のちょっと北側。そこから首都のレグルスに寄ってからここまで来たのよ」

「そうだな。レグルス出たのが新年だったから1ヶ月と少しか、早かったな。これもナミディアさんのお陰だよ」

「いえいえ、私こそ助けてもらってばかりで」


 こちらの暦で今は2月中旬。途中色々あって約60日で共和国中央部からここまで来れたのは早いほうか。

 かなり南に来た。一番寒い時期のはずだが、ここは温暖だな。


「これ終わっちゃうとナミディアさんは共和国に帰るの?」

「そうなりますが、今は帝国南部に一時所属替えになるようです。でも少しは本当のお休みをもらえるので楽しみです」


 そういえば、お休みをもらえた海洋族のお嬢さんが、陸地を観光すると言う名目で俺達が護衛依頼を受けたんだったな。

 そして宴もたけなわ。


「あのね~、ユヅキ殿。私はね、ほんとはね、もっとみんなと旅をしたかったんですよ~」


 ナミディアさんは泣き上戸なのか。


「そうよね、分かるわ。誰よ、ナミディアを共和国に返すって言ってんのは! あのでかいボマなんとか言う船長でしょう。ユヅキ! ここに呼んできなさいよ」

「フュヅキさん、なんかこの船グルグル回ってますよ。どうなってんでしょうね~」


 どうかなってんのはハルミナだぞ。船に乗れて安心したとはいえ、みんな酒飲みすぎだ。

 タティナも床に座って剣を抱えたまま寝ていやがる。いくらここにあるもの全部使っていいとはいえ限度があるだろう。


「別れるぐらいなら、この船を沈めちゃいましょうか。ここですかね。ここに穴開ければいいですかね」

「いいぞ、やっちゃえ~」

「こらこら、なにする気だよ! 俺もナミディアさんと一緒がいいけど、ずっと陸に居るのも大変だろう。帰りにはちゃんと会いに来るから、な」

「えぇ~、ほんとですか~。大好きです、ユヅキ殿」

「あ~、ナミディアだけずる~い。私も~」


 酒の勢いに任せて、ふたりが俺に抱きついてきた。ほんとこいつらには困ったものだな。


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