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第120話 プロローグ-0.4 ~とある時代~ 大陸進出

 そして25年の月日が流れた。


「では今日も、大陸への進出についての議論を始めようか」


 人口は子供を含め1万3千人に達しているが、この島だけでは資源が足りなくなってきている。

 その多くの同胞を率いるのは我ら(ひいらぎ)の一族。当初の50人から数は減らし歳も取ったが、現在も困難な状況の解決に取り組んでいる。

 この世界の事も分かってきた。海峡を隔てた大陸には言葉をしゃべる人型モンスター……、いや原住民の国がある。


 その国に対して、どのようにアプローチするかを話し合う。


「外交部からヘンリッチ教国に対して書簡を送っているが、いい回答は得られていない」

「あの国は宗教色が強すぎますからね。我らを悪魔と呼び、交渉のテーブルにすら着こうとしない困った連中ですわ」


 俺達の島は赤道付近の南半球側にある。狭い海峡の先は大陸で、多くの国家が存在しているようだ。

 海峡のすぐ向こう側には、国とは呼べない小さな部族集団の町が点在する。その先の砂漠を越えた南側には大きな宗教国家、ヘンリッチ教国がある。まずはその教国と交渉せねばならんのだが、なかなか進まない。


「ヘンリッチ教国のさらに南にある国々はどうなのだ」

「小国が多くてな。協力的な国もあるが、バラバラでまとまりがない」

「合理的な考えを持つ国も多いようだ。1つの国ではなく、商業都市が集まった共和国のような場所だな」

「合理的であるが故、利に沿わなければ反旗を翻すでしょう。信用はできませんね」

「大陸には海洋族のような、理知的な国はあまりないようですな」


 海洋族には、我々の技術を提供することで中立的な立場をとってもらっている。我らの技術により、出生後の育成に技術革新が起こったようだな。そのため死亡する子供の数が減り、海洋族の人口が増えたと感謝された。

 海洋族は大陸進出に対して、積極的に協力もしないが敵対もしない。利となる貿易は行なう、そんな政治的判断ができる国だ。


「今の我らの土地では資源もエネルギーも足りない状況だ。石油も見つかっていない。大陸に進出する他ないと思うがな」

「進出は合意しているわ。外交か武力かが問題になっているんじゃない」

「メイに聞いたが、人類の歴史を見る限りこのような場合、武力侵攻がほとんどだと言っている」


 重要な議論をする際は、メイの豊富な知識も参考にさせてもらっている。


「まあ、人類の歴史は戦いの歴史だからな……。俺達が侵攻した場合の勝率は」

「87%成功すると言っていますね。ただしどこまで侵攻するかによって違ってきます。大陸全土では算出不能だそうですわ」


 教国の南の都市国家群、その南の南極に近い位置にはエルトナ王国という大きな国があるようだが、詳細は不明だ。


「ヘンリッチ教国だけなら充分勝てると言うことだな」

「それも条件は様々ですね。侵攻後その土地の資源をどう活用できるのかが重要だそうよ」

「補給物資が無くては、戦いを続ける事はできないからな」

「国内の不満は高まりつつあるわね。早急に結論を出さないと」


 武力による大陸進出に議論は傾いているが、大敗し滅亡するリスクもある。

 日本のように大敗後、繁栄した特殊例もあるが、我らは全ての歴史から学ぶべきだろう。今までと同じように合理的に判断しなければいけない。

 その後、1週間かけ議論を行なった。


「大陸への進出方法についての決議をしようか」

「そうね。もう皆の意見も出尽くしたでしょう」


 41名のうち31名が武力侵攻に賛成という結果になった。


「では武力侵攻し原住民を排除した後に、我々の国を作る。そのための一番効率の良い方法を検討しようか」


 そして、戦争準備は順調に進み、ついにヘンリッチ教国を含む大陸との戦争が始まった。


 敵国への宣戦布告もした。海洋族へ海峡通過の事前報告もしている。新しい武器も準備し、訓練も怠りない。後は上陸作戦を決行するだけだ。

 その戦闘に参加するのは、私の子供を含む2世の若者達だ。志願した者達から訓練成績の良い者を選抜して戦闘に当たってもらう。その者達の前で、代表として訓示を行なう。


「我々人類の復興は君達の肩にかかっている。何としてもこの戦争に勝利し、成し遂げてほしい」


 我らの悲願を、若者達に託して送り出す。



「兄さん。いよいよ海峡を渡るのね」

「俺達の部隊が先鋒となっての上陸作戦だ。緊張はするが訓練通りにすれば成功する。心配するな」

「そうね。この戦車があれば怖いものはないわね」


 上陸船には第1陣の50輌の戦車が積み込まれている。最終的には150輌の戦車を送り込む予定だ。海峡を渡れる時間は極短い。3日間に分けて兵力を送り込む。


 上陸した戦車部隊は対岸で集結し、次々に小さな町を制圧していった。


「戦車、調子良さそうね。兄さん」

「この蒸気機関で自走する戦車は、こちらの文明には無いものだからな。残念ながら大砲はないが大型の矢を撃ち込める」

「火薬の材料が無いんだもの仕方ないわ。でもこれで次々拠点を制圧することができているわ。充分じゃない」


 俺達は3部隊に分かれて、大陸北端の港を含む地方を20日間で占領し原住民達を追い出す事に成功した。


「ここまでくれば、この地を拠点として使えそうだな。ナナミ、食料の調達を頼む」


 この先は砂漠地帯だ。占領した土地に入るには西岸の海岸沿いか、東の山の谷を抜けるしかない。そこさえ押さえればここは安全だ。


「それにしても原住民の抵抗が激しかったわね。兄さん、怪我はなかった」

「ああ、大丈夫だ。一般住民でもあれだけ魔法や武器で攻撃されたら、こちらも応戦しない訳にはいかないからな。もしかしたらゲリラの訓練を受けているのかもしれない。戦い慣れている様子だったからな」

「まあ、こちらの被害はほとんど無いから、いいんじゃないかしら。次の作戦の準備をしましょう」


 この大陸の北部地域を拠点に南極方向に向かって侵攻していく。そのためには物資、食料などの確保が大事だ。みんなで協力し、次の目標に向かう。


「結局この土地にも、火薬の材料となる硫黄がありませんでしたね」

「硝石の方は少ないが生産はできる。だが硫黄が無いと銃や大砲が作れない」

「かつての日本には、どこにでもあったみたいですけど」


 この地球はもう冷えてしまって、火山活動も停止している。温泉というものも見つかっていない。かつての大陸移動も起こっていないそうだし、地表の硫黄を探すのは難しいかもしれんな。

 一部戦車にはレーザー銃を改良し、連続照射可能な対人武器を装備しているが、やはり数が足りない。


「でも、あの魔法に対抗するためには大きな火力が必要だわ。何とかならないの」

「技術開発部には言っているが、難しいそうだ」

「やはり、別の土地へ行き、各地の資源を調査しないとダメだな」

「次は砂漠を越えての侵攻だ。成功すれば大陸の内陸まで行ける。それに期待するしかないな」


 俺達は次の侵攻作戦に備える。


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