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第117話 猫族町長の依頼

「私は町長のモガーヒムと言う」


 俺は早く街を散歩したいんだ。要点だけ言ってほしいものだ。


「実はな、我らの種族の村が争いに巻き込まれて、隣町に多くの避難者が押し寄せている」

「他にも猫族の町があるのか?」

「隣町と、その先に村が1つある」


 ほほう、これが前に聞いた少数民族と言われるものか。この町以外にも猫族の町が存在するとは。是非とも行かねばなるまい。


「避難者の対応のために、この町から多くの冒険者を派遣したんじゃが、隣町からの連絡が届かなくなった。あんたらの事を聞いて冒険者が帰って来たと思ったが違ったようじゃ」

「山の反対側の町で、あんたら南の部族が共闘して戦っていると聞いたが」

「共闘? そんな話は聞いとらんな。また帝国が勝手にデタラメな噂を流しとるんだろう」


 帝国は何かと文句をつけて、南部地方の人達といざこざを起こしていると言う。

 見たところ、まだこの町は平和だ。共闘して内戦を起こしているようには見えない。

 だが隣町からの連絡が来ないという時点で、既に争いに巻き込まれている可能性は高いのだが……。


「そこで隣町まで、連絡用のデンデン貝を持って行ってもらいたい。この町の冒険者は町を守る人数しか残っておらん。あんたらに頼みたい」

「ここから隣町まではどれくらいかかるんだ」

「馬車だと終日かかるな。夜明け前に出て夜着く」

「それなら、あたいが行こう」

「タティナ、いいのか? 危ない仕事になるぞ」

「どのみち、周りの様子を調べに行くつもりだった。ちょうどいい」


 確かに、この先の道がどうなっているか見る必要はあるな。馬を走らせれば、早々に隣町まで行けるだろう。


「では、依頼を受けよう。明日の出発になるがそれでもいいか」

「ああ、よろしく頼むよ」


 受けたのはデンデン貝の輸送だが、争いの中に飛び込む危険な依頼だ。町長の紹介で宿はすぐに見つかった。寝るまでの間に、じっくりと作戦会議しないとな。


「隣町に避難民が来ていると言うことは、その先にある村が襲われたことは確実だ」

「隣町が危なくなれば、いずれここも争いに巻き込まれるわね」

「タティナに行ってもらうのはいいが、ひとりで大丈夫か?」

「もし帝国兵がいるのなら、ひとりで行った方が見つかりにくい。それにいざという時は、ひとりの方が動きやすい」


 タティナは強い。タティナの言うように単独で行動した方が安全か。


「危なくなったらすぐ逃げるのよ。こんな依頼なんてほっぽってもいいんだからね」


 タティナなら大丈夫だと思うが、カリンの言うように依頼よりは身の安全を確保してほしい。カリンの心配そうな顔を見ながら、タティナは笑顔で応えてくれる。


「分かっているさ。あたいは死ぬような真似はしない、これは絶対だ。だから安心してくれ。それより人族が狙われているようだ。ユヅキも注意してくれ」

「そうだな。俺も注意するよ」


 無茶をしないと言うタティナの言葉に、カリンも安心したようだ。


「あの、ユヅキ殿。我々もこの町の周辺を調べておいた方が良いと思います。帝国兵が来る前に、逃げ道を見つけておいた方がいいかと」


 確かにナミディアさんの言う通りだな。俺達が来た山道は一本道だ。あれを塞がれると逃げ場が無くなる。


「この町の西に以前使っていた港があるはずなんです」


 ナミディアさんが地図を指差しながら話す。


「今は航路から外れていて使っていませんが、ここなら隠れることもできます。それに海洋族の人達に連絡がつくかもしれません」


 地図に港の印は無いが、書き写した航路には点線で陸地に接している場所がある。


「そうだな。タティナが隣町に行っている間に、俺達は海岸線辺りを調べてみようか」


 さて、明日の予定も決まったし、今晩はこの宿でゆっくりと休むとするか。

 あっ、しまった! 町のモフモフ達を見に行くのを忘れていた。あわてて窓の外を見るが、すでに外は暗くなっていて人通りはもうない。


 あの町長の依頼がなかったら、今頃モフモフに囲まれてウハウハな気分になっていたかもしれないのに!

 イテ! カリンが俺の足を蹴る。イテ! 痛いじゃないか。そう何度も蹴るなよ。イテテ、いったいどうしたんだ?



 翌朝早くにタティナが町を出た。俺達も町の西側の海岸線に向かって馬を走らせる。


「カリン。こんなに朝早く出なくてもいいんじゃないか?」

「そうだよ~。わたしも眠いよ~」

「なに言ってんのよ。どこに港があるか分かんないのよ。タティナも依頼の仕事してるんだから、私達も頑張らないとダメでしょう」

「これもユヅキ殿のためです。頑張りましょう」


 ハルミナはカリンの後ろに、ナミディアさんは俺の後ろに乗って道のない森の中を進む。森を抜けて西に進むと海岸近くまで来ることができたが、崖が多く港らしき場所は見つからない。


「そうですね。航路的には南の半島がある方向でしょうか」


 ナミディアさんが、俺の背中から指差す。確かに北側は山がせり出しているな。

 小さく曲がりながら山の海岸線を航行するより、南から緩やかに山を越える航路の方が操船し易いそうだ。ナミディアさんの経験から、港を作るならもう少し南の方だろうと言っている。


 海岸線を横目に見ながら南へと進んでいく。さすが海の専門家だ、半島を越えた所に入り江があり港らしきものが見えた。

 港に近づいてみたが長年使っていないのか、瓦礫が散乱していて使えるのかどうか分からないな。


「ここですね。かなり古いですが港として使えなくもないですね」


 そうなのか? ずいぶん荒廃しているように見えるが。


「ユヅキ殿、私はこの近くの海に海洋族が住んでいないか調べに行きます」

「ここから海に入るのか?」

「はい、少し向こうで着替えてきます。カリンさん、一緒に来てくれますか」


 着替える? まあ、今の服のままじゃ泳ぐのは無理だが、水着を持ってきているのか?


「ユヅキ。あんたはここで大人しく待っていなさい。ハルミナ、ちゃんと見ておくのよ」

「はい、任せてください」


 カリンは俺を何だと思っているんだ。だがこんなチャンスは滅多にない。海洋族の体がどうなっているのかも興味がある。更衣室のような部屋がある訳じゃない、あの岩陰なら……。


「ちょっと、トイレにでも行ってこようかな」

「えへへ、ユヅキさん。ここから動いちゃダメですからね」


 俺の行動が読まれているのか! ハルミナ、いつの間にそんな技を身に付けたんだ!

 しばらくして岩陰から出てきたナミディアさんは、体にぴったり張りついた競泳用のような水着を着ていた。


「ナミディアさん。綺麗な水着じゃないですか」

「ユヅキ殿、あまり見ないでください。恥ずかしいです」


 海洋族の体は速く泳ぐのに適した、流線形のようなスリムなボディーだが筋肉はよく発達している。手には大きなフィンを持っているな。ドルフィンキックで使う2本の足で履くタイプのフィンだ。


「ユヅキはそこでじっとしていなさい」


 ナミディアさんはカリンと共に水際まで行くと、コバルトブルーの長い髪を束ねるように水泳キャップを被り、足にフィンを履いて水中へと飛び込んでいった。

 水中に入った途端、ものすごいスピードで沖へと泳いでいく。


「ほぉ~。さすが海洋族だな、すごいもんだ。泳ぐ時はあんな足カキを使うんだな」

「あの足カキはお魚のヒレみたいに折りたためるのよ。見せてもらってびっくりしちゃったわ」


 なるほどな。確かにあんな大きな物は持っていなかったな。折りたたんで水着と一緒に背中のリュックにでも入れていたようだ。


「さて、俺達はどうしよう」

「ナミディアは帰るまで時間がかかるだろうから、この港の瓦礫を片付けてほしいって言ってたわよ」


 カリンとハルミナと3人、桟橋の上の瓦礫や岩などをどけて綺麗にしていく。一部壊れている箇所もあるが船を着けようと思えばできそうな感じだ。

 そろそろ日も暮れてきたし、今日はここで野営になるな。砂浜でかまどを作り寝れそうな場所を確保しておくか。


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