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第116話 帝国南部地方

 宿の一室で地図を広げ、みんなと相談する。


「町を出て、この山と山の間の谷を抜けると南部地方の町に出る」


 この先は山脈が連なる。タティナが言うには、南部地方へ行くには谷沿いの細い街道しか無いらしい。この町に留まるか、進むか決めないといけない。


「ユヅキ殿。争い事が落ち着くまで待つとすると、この町になると思うのですが」

「え~、ずっとこの町にいるの~。山向こうの町に行こうよ」

「カリン。あなたはどうして危険な方へ行こうとするのかしら」

「だって村にはアイシャ達が待ってるし、さっさと里帰りして帰りたいんだもの」


 少しむくれたようにカリンは言う。俺も村に残してきたアイシャや子供達の事が気がかりだが、なだめるようにカリンに話す。


「ハルミナの言うように、南は危険だからな。俺も早く帰りたいとは思うが、カリンももう少し慎重になろうな」


 カリン達をあまり危険な目に遭わせる訳にはいかない。かといってこのまま帰る事はできない。いざとなったら、みんなを安全な場所に残して俺ひとりでも人族の国へ行かないと。


「帝国の軍隊は東から南部地方に入るだろう。この西側にはまだ来ていない可能性もある。タティナ。この谷を越えるのにどれくらい掛かる?」

「そうだな、馬だと鐘1つ半くらいだな。道幅の狭い峠道だ。速く走る事はできない」


 朝早くにこの町を出れば、昼前には向こうの町に到着できるか。


「それなら一度行ってみて、その日の内に帰ってくることもできるな」

「そうだな。向こうの町で馬を休憩させて、帰る時間はあるだろう」

「そうよね、実際に行って見てみないと。噂話だけじゃ分からないものね」


 俺達は陽が昇ると同時に、3頭の馬に乗り町を出て山に向かう。この道も一本道だ、迷うことはない。道を進んで行くと、谷の手前に馬が数頭とリザードマン達が集まっているのが見えた。


「街道に何かあったのか?」

「いや、あれは武装集団だ。ユヅキ、戦闘準備をしておいてくれ」


 少し手前の安全な場所に土の半球ドームを作り、ナミディアさんとハルミナを馬から降ろして隠れてもらう。俺達は馬に乗ったまま近づくと、剣を抜き弓を構えたリザードマンの集団が待ち構えていた。


「我々は初代皇帝の意思を受け継ぐ者だ。人族よ、お前達の犯した罪を我々が裁く」

「裁くと言っても、お前にそんな権利はないだろう。俺達に戦う意思はない、人族の国へ戻るだけだ」

「帝国の地に来た、自分の不幸を恨むんだな」


 これは話にならんな。どこかのカルト教団かよ。よく見ると、昨日酒場の隅に居た連中が何人かいた。俺達の事を知り、待ち伏せしていたのか。こりゃ戦闘は避けられんな。

 奴らが矢を放つと同時にカリンとタティナが魔法攻撃を仕掛ける。


「カリン。ここに土の壁を作ってくれ」


 弓や魔法の攻撃避けに壁を何枚か作ってもらう。

 ここで馬を殺られる訳にはいかない。3頭の馬を土壁の裏側に隠して、俺は魔道弓で攻撃を仕掛ける

 奴らも魔法と弓で攻撃してきて、引く気はないようだな。


「ユヅキ、ここで早めに全滅させた方がいい。谷の向こう側の仲間に連絡されるとまずい事になる」


 仕方ないか、攻撃してきたのは奴らの方だ。


「カリン、援護を頼む!」


 俺とタティナが前へ出る。カリンの氷の槍が敵目掛け降り注ぐ。相変わらず容赦ね~な。


 高速移動で接近し、魔法攻撃で分散したリザードマンをひとりずつ倒していく。10人いた武装集団はあっけなく全員倒れた。待ち伏せして大層な物言いをしていたが、盗賊よりも弱い連中だったな。いや、俺達が強すぎたのか。

 だが奴らの仲間がいる可能性がある。


 カリンとハルミナ達が壁の裏側に隠していた馬を持ってきてくれた。馬に乗りそのまま谷に入る、少しでも早く谷を抜けたい。

 谷の道は狭く、反対側に連絡されて挟み撃ちにされると危ない道だ。注意しながらも急いで谷を抜ける。


「ここで少し止まってくれ」


 谷を抜ける手前の高い位置で、この先の道や町の様子を単眼鏡で確かめる。

 谷のこちら側は緑が多く、森林地帯が続く。その先には遠くに海も見えている。観光で来ているならいい景色なんだがな。


「街道には誰もいない。町に破壊された跡もないし、まだ戦闘は起きていないようだ」


 坂道を下り、俺達は町に入る。低い城壁で囲まれた町だが、それなりの大きさの町で住民達が行き交っている。

 食事ができる店を見つけて中に入り、やっと落ち着けた。ウエイトレスにみんなの食事を頼んだが、ここの客も従業員もみんな猫族の獣人達だった。


「この町は猫族の町なのか?」

「そうだ。言ってなかったか?」


 タティナから聞いた覚えはないが、ウエイトレスは三毛猫族だったし、向こうに座っているカップルは凛々しい黒猫と山猫族か。毛の長いペルシャ猫風のお嬢さんもいるぞ。ここは天国か!!


「ユヅキ。キョロキョロしてんじゃないわよ」


 ソワソワと周りの客や従業員を見ていると、カリンに足を踏まれてしまった。


「そうですよ、ユヅキ殿。これからどうするか考えないと」

「そ、そうだな。しかしもう昼もかなり過ぎたし戻るのは無理じゃないか。今日はここに泊まっていかないか」


 そうだ、仕方がないんだ。街中の猫族を見て回りたいんじゃないんだ。これは仕方のない事なんだ~。


「帰りにまた谷の所で待ち伏せされても面倒だ」


 偉いぞ。タティナの言う通りだ。

 結局今日はこの町に泊まろうということになった。食事を終え街中の散策に行こうとしたら、小太りの猫族のオッサンが店に入ってきた。

 俺はブサイク系の太った猫は趣味じゃないんだがな。


「君達か、町に来てくれた冒険者と言うのは。少し頼まれ事を聞いてくれんか」


 何だよ、仕事の話かよ。俺はモフモフを愛でに行きたいんだがな。仕方ない、話だけは聞いてやるか。


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