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第108話 ハルミナの靴2

 翌日もハルミナは高速移動の練習をしたいと、朝から俺の所にやって来た。


「今日はこれを使って練習するわ」


 中指の指先に、付け爪のような物を付けている。


「何なのよ、それ」


 カリンが興味深げに見ていると、自慢げにハルミナが答える。


「あなた達は知らないでしょうけど、これがわたし達の魔法の杖よ」


 こんな小さいのに魔力の流れを整えたり、飛ばす方向を制御できたりするのか。全属性を使う時は左右8本の指にこの付け爪を付けると言うから、エルフではなく魔女の指みたいになっちゃうぞ。


「これには魔石もついているのか?」

「さすがに魔石付きはもっと大きいわ。これは木の杖の代わりね」


 よく見てみると、付け爪の根元は指輪のようになっていて、これを第一関節のところにはめて固定している。触ると樹脂のように硬質でつるつるした物だった。


「ほら、風が綺麗に渦巻いて出ているでしょう」


 埃を風で飛ばして俺達に風の流れを見せてくれた。カリンも感心しながら見ている。カリンは魔術の事については研究熱心だからな。どの程度の性能なのか興味があるようだ。


 今回はその付け爪を使い高速移動の練習をするそうだ。まあ、指先から風が綺麗に流れるからと言って、フィギュアスケーターのように可憐に滑れるはずもないのだが。

 転びそうになりながらも、バランスを取りハルミナは練習していく。


「少し広いところで練習したいわ」


 廊下である程度滑れるようになり、曲がる練習をしたいようだ。だがそんな場所はないぞ。


「俺達は外に出ると怒られちまうからな」

「じゃあ、こっちの部屋に来てよ」


 ハルミナは別棟にある広い部屋へと俺達を案内した。ここは体育館なのか講堂なのか、フローリングのように木の板が敷き詰めてある広い場所だ。

 これだけ広ければ曲がる練習もできそうだ。それにしても木の上に色々な種類の家があって、地上に降りなくても生活していけるんだな。

 今日はカリンも機嫌がいいようだ。曲がるコツをハルミナに教えている。


「こういう風に腰をクイッ、クイッとねじって曲がるのよ」


 まあ、教え方は感覚的なもので、どこまで伝わっているか分からないが……。それでも滑りながら自分の思う方向へ曲がれるようになってきた。


「少し休憩しようか」


 3人椅子に座り、持ってきた水筒の冷たい水を飲む。


「どうだハルミナ。その靴、面白いだろう」

「ええ、他のエルフ達にも自慢できるわ。靴を作ってくれてありがとう、ユヅキさん」

「ユヅキ、よく魔道部品を持っていたわね」


 風の靴に付けている魔道部品の事を言っているんだな。


「魔道部品を使わずに、ハルミナが直接靴底に魔法付与してるんだよ」

「わたし達エルフ族にかかれば、これぐらいの魔法、簡単な事なのよ」


 ハルミナがカリンに自分の靴底を自慢げに見せる。魔法技術では他の種族に負けないとの自負があるんだろう。

 そんなハルミナにカリンが小さな杖を持って、ドライヤー魔法の温風を顔に当てる。


「ええっ! なにこれ、どうなっているの! 暖かい風が……、エッ、なに!」


 この技術はエルフ族にも無いらしいな。

 アイシャは髪が早く乾く便利さに驚いていたが、魔法に精通している者ほどドライヤー魔法は驚くものな。


「そういえば、ハルミナ。裏属性が使えるとか言ってなかったか? 裏属性ってなんだ」


 まだドライヤー魔法に驚いて、カリンの杖を見つめていたハルミナが話してくれる。


「そ、そうね。この魔法はいくら何でも使えないでしょう。エルフ族の秘伝なんだからね」


 ハルミナは人差し指を立てて、小さな炎を指先に灯らせた。その指を曲げると同時に素早く手首を返して再度指を弾いた。すると人差し指から風魔法が発動した。


「うわっ! なんで人差し指から風が出てるんだ」

「驚いたでしょ。これが裏属性魔法よ。この靴を作ってもらったお礼よ。特別に見せてあげるわ」


 人差し指からは火魔法、中指からは風魔法しか発動しないはずだ。反発する魔法を1本の指から発動するとは……これがエルフ族の魔法技術か。


「はんっ、何よ! 別に人差し指から風を出さなくても、中指から出せるんだからそんな技使わなくてもいいわよ」


 そうなんだが、これは画期的な技だ。


「カリン、そんなことはないぞ。例えばタティナは火魔法しか扱えないが、裏属性が使えれば風属性も使えるようになる。そうだろうハルミナ」

「さすがユヅキさんね。だからエルフ族はほとんどの人が4属性以上を使いこなせるのよ」


 だが全属性が使えるカリンはまだ納得していないようだ。負けず嫌いのカリンは、この技術がすごい事だと認めたくないのかもしれないな。そんなの使えたって何の意味もないと言っている。いや、それは違うな……。


「ハルミナ。光魔法の裏属性は重力じゃないのか?」

「えっ! どうして、それを知っているの!」


 全属性を発動させると光魔法が発動する。これは4つの魔法が組み合わさるのではなく、別次元の光魔法に転移して発動するのだ。


 根源となるのが光属性で、それが分化して4属性になったと俺は思っている。その根源である光魔法の裏属性と言うなら、同じ根源である重力じゃないだろうか。宇宙が誕生したビッグバンの頃からあった、光と重力。これが魔法属性の根源じゃないのか。


「重力? 重たいチカラ? 私達が最初この里に来た時に受けた攻撃のことね!」

「それはエルフ族の秘術よ。あなた達に使える訳ないでしょう。わたしだってまだ使えないんだから」

「カリン、俺達も裏属性を練習してみようか」

「そうね、私にならできるわ」


 新しい属性が使えるかもしれないと、カリンが裏属性に興味を持ったようだ。さっきまでとはえらい違いだ。こいつは気まぐれだからな、興味を持ったのなら一緒に裏属性に挑戦してみよう。


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