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第101話 ダークエルフの里2

「タティナよ、昼からは皆に稽古をつけてやるそうじゃな」

「ああ、そのつもりだ」

「おぬしの持っておる剣を見せてくれぬか」

「お師匠様に作ってもらった剣は、今は使っていない。これはシャウラ村で新しく作った物だ」


 第3の泉から持ち帰った魔鉄刀木に魔石を取り付け、俺とタティナでデザインした2振りの剣だ。


「ほほう、これは魔鉄刀木じゃな。刃以外のすべてを魔鉄刀木で作るとは……。この材料は自らが持ち帰った物か」

「ああ。だがその時あたいは守るべき者を守れなかった。あたいは未熟だ。自戒の念を持ちながら、今もこの剣を振るっている」

「そうか。タティナよ、その剣はおぬしとその周りの者を守る剣となるじゃろう。大事に使えよ」


 昼過ぎ。タティナとセルシャが稽古をするため、里近くの開けた場所まで行くそうだ。俺とカリンも稽古を見せてもらうため一緒について行く。他のダークエルフも何人か一緒に来るようだ。


「さあ、お姉さま。私の実力を見て驚いてください」


 ふたりの練習は真剣でやり合うものだった。セルシャがつっかけていき、タティナがいなしている感じだ。


「真剣とはな。危なっかしい練習してんだな」

「でも、タティナは余裕あるじゃない」


 双方とも二刀流の魔剣士だ。魔法を放ちながら剣をぶつけ合う。

 セルシャは焦っているのか、手数は出しているものの有効な攻撃を出せないでいるようだ。他のダークエルフからも声援が飛ぶ。


「ほら、タティナは高速移動も炎の鞭も使ってないでしょう。実力の半分も出してないわよ」


 しばらく打ち合った後、双方が剣を引いた。これで終了のようだ。


「ユヅキ。セルシャの相手をしてやってくれんか」

「俺が戦うのか! それは無茶だろう」


 手練れの魔法剣士相手に、俺では到底かなわない。


「カリンも一緒に2対1での稽古をしてくれ」

「お姉さま! もう一度私と戦ってください」

「おまえは気が入りすぎているようだ。違う相手と稽古した方がいい」


 あくまで稽古なんだろうな。こんな戦闘民族と本気でやりあったら死んでしまうぞ。


「では、この者達に勝ったら、お姉さまともう一度戦わせてもらえますか」

「その時、考えてみよう。ユヅキどうだ、できるか?」

「真剣で稽古なんて危ないだろう」

「なら、私の剣には鉄の鞘をつけましょう。あなた方は真剣で結構よ。なんでしたら片手でお相手しましょうか」

「ユヅキ。そこまで言われて引けないわね。こんな奴けちょんけちょんにしてやるわ」

「カリン、分かったよ。だが大魔法は使うなよ」


 言ってみたが、カリンの奴すごい目でセルシャを睨んでいる。何をしでかすか分からんな。頼むから、お前の本気は出さんでくれよ。


「では、双方、礼。始め!」


 タティナの合図でカリンが初っ端から仕掛けた。


「アイシクルランス!」


 無数の氷の槍がセルシャ目掛けて襲い掛かる。武闘大会で使って反則負けになった魔法だ。

 大魔法は使うなと言ったのに、仕方ない奴だ。まあ、カリンにすればこれは大魔法ではないのだがな。


 セルシャは氷の槍を剣で叩き落としたり躱したりしているが、その場から動けないでいる。俺も接近戦を仕掛けるか。

 氷を躱しきれず横に逃げたところに剣を打ちこむ。体勢は崩れていたが剣で受け止められた。


「メテオストライク!」


 セルシャが飛び退いたところに、カリンの高速の隕石魔法が狙いすましたように撃ち込まれた。

 僅かに躱して肩当てに当てたが、多少はダメージを受けたようだ。

 追撃をかけようと接近したが、岩魔法が飛んできてかろうじて躱した。これだから魔法剣士は厄介だ。


 カリンの魔法攻撃で隙を作って俺が斬り込む。この連携なら魔法剣士とも渡り合えるか。

 おっ、背後が取れそうだ。そう思い追撃するとセルシャは樹木を利用して三角飛びで俺の頭上を舞う。俺はタティナに教わった体術で、一瞬にして後方へと方向転換して着地の瞬間を狙う。2本の剣で受けられたが、バランスを崩し背中を地面に付きながら転がる。武闘大会のルールならこれで決着だが、この稽古はそうでないようだ。


 そのような応酬を何度か繰り返したが、セルシャも反撃するなどなかなか決着がつかない。


「このっ! ギガストーン!」


 カリンの奴、イラついてきて、とうとう大魔法を使ってきやがった。森の木々が音を立てて破壊されていく。周りで見てるダークエルフにも被害が出ちまうだろうが。これは早く決着つけんと、えらい事になってしまうぞ。


 巨大な岩の攻撃を避けたセルシャに高速移動で接近する。俺の靴にも火魔法ジェットと魔力電池を取り付けていて、タティナよりは遅いが自分で高速移動できるようにしている。その速度に驚きつつも、セルシャが岩魔法を撃ちこんできた。それを左右に躱しながら至近距離まで接近し剣を振るう。

 横なぎの剣をセルシャが受け止めるが、俺は超音波振動を起動している。体には当てないように受け止めた剣だけを破壊した。


「それまで!」


 ようやく決着か。


「セルシャさん、すまない。剣を折ってしまった」

「これがあなたの剣技ですか……剣が折れたのは私が未熟だったせいです。お姉さまが選んだ婿殿、あなたの実力を認めましょう」


 荒い息を整えつつ、折れた剣を無念そうに見つめ負けを認めてくれたようだ。まあ、カリンとふたりだから勝てたんだがな。


「はんっ! 身の程を知ったかしら」

「あなたに負けたのではありません。ユヅキ様に負けたのです」

「何ですって! もう一度勝負しましょうか」

「あなただけだったら負ける気はしませんわ」


 こいつらには困ったものだな。



 翌日。セルシャが俺達の泊まっている里長の家にやって来た。


「ユヅキ様。お姉さまにあなたが使った足技の事を聞いたら、お姉さまも特別な靴を作ってもらったと聞きました。私にも同じものを作っていただけないでしょうか」


 風の靴の事だな。


「作ってやりたいが、ここには材料がなくてな。王国から取り寄せる魔道部品が必要なんだ」

「そうなのですか、それは残念ですわね」

「一度俺の靴を履いてみるか? タティナと同じ構造の物だ」


 足のサイズは合わないが、試しに履いてもらってどのようなものか体験してもらおう。


「靴はどんな感じだ」

「少し大きいようですが、先端の金属に足の指はかかっていますわ」

「足先に炎以外の魔力を流してくれるか。まずは風の靴だけを起動しよう」


 セルシャは土と火の魔法が使えるようだ。土魔法を足から流してもらう。


「これで体が浮いた状態だ。少し腰を押すぞ」


 セルシャの腰を押し出して、地面の上を滑らせる。ふらついているが転ぶこともなく滑って行った。


「じゃあ次に炎魔法を靴に流してくれ。前に進む力が生まれるから足元に注意してくれよ」

「分かりましたわ」


 少し魔力が大きすぎたか、靴から炎が噴き出し足をすくわれてしまった。


「危ない!」


 セルシャが転ばないように体を支えたが、俺は草履を履いていて踏ん張りが効かない。そのままの勢いで抱きかかえるように転んでしまった。カリンが家の中からこちらに走って来た。


「ユヅキ。あんたこんな所で何をしているのよ!」

「いや、うぐぐ……。あのな……」


 豊満な胸に顔をうずめてしまい、うまくしゃべれない。


「あの、ユヅキ様。このようなことはお姉さまにしてあげてくださいませ」


 いや、これは事故で俺が悪い訳ではないのだがな。あっ、でも少し得した気分だ。そう思っているとカリンにどやしつけられ、頬にビンタを食らった。

 カリンも容赦がないな。赤く腫れた頬をさすりながら、セルシャに説明する。


「まあ、そのなんだ。この足技を使おうと思うとドライヤー魔法も習得せんと使えんわけだ」

「なるほど、靴だけでなくそれなりの修業が必要という訳ですね。まずそちらの修練からやってみますわ」


 材料がそろえば風の靴を作ると約束して、その場はセルシャと別れた。


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