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第98話 帝国国境の町へ

 新年のお祭りを皆で過ごし少し寝た後、俺達は明日からの旅支度をする。セルンは初めて深夜まで起きていたからか、まだベッドで眠っている。11歳の子供だ、仕方ないだろう。


「大体できたわね。今日の夕方にセルンを魔術師学園まで送っていくけど、ユヅキはどうするの?」

「そうだな。学園がどんなところか見ておきたいし、一緒に行こうか」


 スティリアさんの実家からもらった、セルンの服など荷物もある。旅の邪魔になるのでカリンがもらった服はセルンに預かってもらい、帰りに取りに来ると言っていたしな。俺が荷物を持って行ってやらんとな。


 昼前に起きてきたセルンに食事を摂らせて、街中に出て学園で使う物などの買い物をする。それらの荷物を持って魔術師学園に向かった。

 初めて見る魔術師学園は思っていたよりも広く、大学のキャンパスを思い起こさせる。広大な敷地には校舎が何棟もあり、時を告げる塔も立っていた。


「なかなか綺麗なところだな」


 門には門番が立っていて関係者以外入る事ができないが、セルンが書類を見せて俺達も一緒に敷地内に入る。


「こっちが私の寮なの」


 セルンに連れられ寮の前まで荷物を運んでいると、建物の中から学生の女の子が何人か迎えに出て来た。友達のようで、セルンも小走りに駆け寄り話をしている。


「あの人がユヅキおじ様なの……」


 女学生がキャッキャッ言いながらこちらをチラチラと見ている。学園内に親しい友人がいるのはいい事だ。


「お師匠さま、ユヅキおじ様。来てくれてありがとうございました。この冬休み、すごく楽しかったです」

「あなたも、この学園でしっかりと勉強しなさい」

「はい、私頑張ります」

「セルン、元気でいるんだぞ」

「はい、ユヅキおじ様。あの、おじ様。少しお耳を……」


 何か秘密の話でもあるのかと片膝を突き顔を近づけると、セルンが唇の端に口づけしてきた。後ろの学生たちが一斉に黄色い声を上げる。

 別れの挨拶をし元気に手を振るセルンだが、こんな事どこで覚えたんだ?


「ユヅキ、嬉しかった?」

「お前かよ、セルンにあんなこと教えたの」

「別れ際に口づけするぐらい構わないでしょう、しばらく会えないんだし。挨拶よ、挨拶」


 仕方ない奴だな。自分の弟子なんだから、もっとまともなことを教えろよ。



 その翌日の朝。予定通り西門でナミディアさん達と落ち合い、チャーターした馬車に食料などの荷物を積み込む。御者付きの馬車は10人が乗れる幌馬車だ。乗合馬車と同じ大きさだが、2頭立てで速く長距離を進むことができる。

 その馬車に俺達5人が乗り込みレグルスを出発する。


「ユヅキ殿、帝国までよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく。同行するカリンとタティナだ。ふたりとも俺より強いから、安心して護衛を任せればいい」

「まあ、ユヅキ殿よりも。カリン殿とタティナ殿、よろしく。ナミディアとレウヌスです」

「その『殿』は要らないわ。カリンでいいわよ」

「あたいもタティナで」

「それなら俺も……」

「いえ、ユヅキ殿は人族ですし、そういう訳にはいきません」


 まあ、いいか。人族は唯一海洋族と国交があり、そういう慣習なんだろう。


「次の町まで4日間の馬車の旅になる。長旅になるがナミディアさん、体は大丈夫なのか」


 同行するふたりとも海洋族だ。地上に長くいても大丈夫なのか心配になる。


「この首に巻いているのは特殊な布でして、これに海水を染み込ませれば大丈夫なんですよ」


 今は寒いので首元まである服を着ているが、その下に灰色の布が見えている。息自体は肺呼吸できるようで、布はエラの汚れ防止のような役目があるそうだ。水陸両方で生きていけるというのはすごい事だな。これも進化のなせる技か。


 俺達は帝国国境がある南西に向かって馬車を進める。途中の町で帝国の噂話を聞いて回るが、やはり国境で閉鎖的な処置が取られているようだ。完全閉鎖ではないようだが検問が厳しいという。


「もともと共和国と帝国の貿易は食料品が主で、取引量はそれほど多くないようだな」

「それでも南にいくほど、影響は大きくなってます。ユヅキ殿、なぜ帝国は国境の制限をしているのでしょう」

「そうだな……荷の行き来はあるが、帝国の人を外に出していない感じだな。情報統制をしているのかもしれんが、やはり帝国国内に入らんと分からんな」


 皇帝が代わるだとか、内戦が起こっていると言う噂は聞かない。小競り合いがあって予防的に検問を強化している程度なら問題ないのだが、海洋族としては港が完全閉鎖されているのが気になるようだ。


「海は我々海洋族の領分なのですが、全ての場所で住めるわけではありません。広大な海ですが、中央付近は魚や他の生物もいない場所です。海洋族の多くは海岸に近い場所で暮らしているのです」


 海が深くなっている場所は、栄養がほとんどなく死の海となっているからな。通行はできるものの、住んでいる場所が海草や魚の豊富な海岸に近くなるのも道理だ。

 海洋族だからと言って、地上の者達と交わりを完全に絶つことはできないようだな。


「海岸近くで暮らす者にとって、港の閉鎖は重大な関心事なのです」

「そういえば、ナミディアさんは国境の管理官をしていたよな。こんな調査もよくやっているのか?」

「港付近の調査をする事はあったのですが、こんな内陸まで来るのは初めてです。前から内陸には興味があったので、今回の調査に志願したんですよ」


 陸に住む種族と多くの接点を持つ管理官は、そのような情報収集も同時に行なっているそうだ。ナミディアさんも長期間の調査は初めてだが、それなりに経験はあるようだ。

 その後、3つの町を経由し国境近くまで無事に来ることができた。


「ここが、共和国最南端の町か」


 帝国国境に一番近い町で、国境は目と鼻の先だ。


「ここなら色んな情報が手に入るだろう」


 馬車はここまでだ。この町には2、3日滞在する予定だ。宿を決めて、街中に出る。


「俺は先に冒険者ギルドに行ってくる」


 連絡役のレウヌスさんはギルドにデンデン貝を預けに行く。海洋族の国との連絡は主要な町で冒険者ギルドを介して行なっているそうだ。使用しているデンデン貝も特殊な操作をしないと聞くことができない物だと言っていたな。

 俺達は酒場や商店などに出向いて帝国の噂を聞いて回る。


「物流自体はそれほど制限してないようよ」


 カリンは貿易をしている店で色々聞いてきてくれた。


「ただ内陸まで物を運んだりはできないみたい。国境の反対側の町までしか行けないんだって」

「冒険者ギルドで聞いてきたが、国境を越えての依頼は無くなったそうだ」


 聞くとこのようなことは時々あるそうで、帝国内で何かあったことは確かなようだな。


「やはり帝国国内に入った方がいいようだ。ここでは港が閉鎖されたことも知らないようだしな」

「タティナがいれは出入りできるんだから、さっさと入っちゃった方が早くない?」

「カリンの言う通りかもな。どうするナミディアさん」

「実は今日、本国との連絡便がありまして。ユヅキ殿を護衛して無事人族の国まで連れてきてほしいと、人族から依頼が来ているそうです」

「保護? 俺をか?」

「余程、帝国の情勢が緊迫しているのかもしれません」


 人族は俺の事を海洋族の情報から知ったのだろうか。今まで人族に会った事もないし、邦人保護するなどと言われたこともない。

 どのみち、人族には会わんといけないから同じではあるのだが。


「ユヅキ殿の実力であれば自力で行けると思いますが、帝国の様子を探りつつ我々も一緒に人族の国まで行こうかと思っています」

「分かった。それなら明日朝ここを出て、帝国に入ろう」


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