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第96話 スティリアの屋敷

 屋敷の中には、猫族とリザードマンのメイドさんがいて俺達を部屋に案内してくれた。衛兵も虎族だったな。元帝国貴族らしいが、リザードマンばかりでもないみたいだ。


「しばらくここでお休みください」


 通された部屋は大きなソファーとテーブルがあり、お茶とお菓子を持ってきてくれた。

 単なる応接室のようだが、調度品などは豪華なものばかりで向かいの椅子も素晴らしい彫刻が施してある。


「すごい部屋ね」

「こんな豪華な部屋、私初めてです」


 セルンだけじゃないさ。俺もこんなすごい部屋、漫画でしか見たことがない。王国貴族のコルセイヤさんの屋敷に泊まったことがあるが、別宅だったからか、これほど豪華ではなかったぞ。

 しばらくして、年老いたリザードマンが部屋に入ってきた。


「君達かね、孫のスティリアの知人と言うのは」


 俺は会社の上役を迎えるように立ち上がってしまい、直立不動の姿勢だ。


「よい、よい。気楽にしてくれ。こんな遠くまでよく来てくれたな」


 向かいの椅子に座ったのは、スティリアさんのおじいさんのようだな。さっきの執事もその後ろに控えている。


「俺はユヅキ、隣が妻のカリンだ。それと同じ村に住んでいるセルンと、タティナだ」

「ワシはルイヴァルス・アリントンという。孫が世話になっているようだな。ユヅキ君の事は送ってくる手紙によく書いてある。助けてもらっているそうだね」

「いや、薬師のスティリアさんが村に来てくれて、俺達の方こそ世話になっている」

「そうか、スティリアはよくやってくれているか。そちらにおられるのは武闘大会で準優勝されたタティナ殿かな」


 そうだよな。この首都で催された一大イベントの闘技大会の準優勝者だ。タティナは有名人だよな。


「ワシもあの武闘大会は見に行ってな。年甲斐もなく興奮した。いい試合だった」


 帝国の元貴族だと言うからもっと厳めしい人かと思ったが、話しやすい人じゃないか。


「スティリアは家を出てかなり経つが、元気にしているかな」

「俺達と一緒に裏山を登り薬草の採取なども行っている。体力が無いとは言っているが最近は歩くのも早くなってきたな」

「そうね。最初は山を歩くだけでも息が上がっていたのに、最近は泉まで平気に歩いているわね」


 俺達がスティリアさんの様子を話すと、ニコニコと嬉しそうに聞いている。


「あの子は部屋の中で過ごす事が多くて、あまり外には出たがらない子だったからな」

「家の中に本や薬に関する物があったお陰で、薬師になれたと感謝していたぞ」

「おお、そうか。そんな事を言っていたか。ユヅキ君。今日はこの屋敷に泊まっていってくれんか。息子ももうすぐ帰ってくる。スティリアの話をもっと聞きたい」


 俺達は宿も取っているし、突然押しかけて迷惑になるんじゃないか、そう言うと。


「まあ、そう言わず、食事でも一緒にどうだ。そうそう、この屋敷にもオフロがある。スティリアが良い物だと言うので作らせたが、あれは素晴らしいな」

「えっ、オフロがあるの。ねえ、ユヅキ。ここに泊まらせてもらおうよ」


 カリンは風呂に目がないからな。おや、タティナも風呂に入りたそうにしているようだ。


「あ、あの……私もお風呂があるなら入ってみたいです」


 セルンはこのレグルスに来て、お風呂に一度も入っていないそうだ。学園にも無いし、村にあった公衆浴場の施設もレグルスには無いみたいだしな。


「それではお言葉に甘えさせてもらおう」

「おい、ボルジナ。オフロの用意はできているか」

「はい、できております」

「それではユヅキ君、食事の前に入ってはどうだ」

「すまないな、そうさせてもらうよ」


 ここのお風呂はそれほど大きくはなかったが、床や浴槽が大理石だったり、壁にタイルで絵が描かれたりしている。

 照明も多くてすごく明るい。金持ちとはこういう所に金を使うのだな。スティリアさんってすごくいいところのお嬢さんじゃないか。なんで俺達の村に来たんだ。


 その後スティリアさんの両親と一緒に食事をする事になった。カリンやセルンは着替えてドレスのような服を着ている。タティナは動きやすい乗馬するような服で、剣は腰に差さず横に置いている。

 俺も服を勧められ、黒と茶のタキシードのようなジャケットを着せられたが、コスプレしているようで全然似合っていないぞ。


「ユヅキ君。わざわざスティリアからの手紙を持ってきてくれてありがとう。私が父親のジェドルドだ。こちらが母親のシェリアン。よろしく」


 こちらも名を名乗って挨拶をする。中央に父親で、その横にスティリアのおじいさんが座っている。家督は既に息子に譲っているのだろう。


「ゆっくり食事でもしながら、スティリアの話を聞かせてくれないか」


 夕食は豪華な肉料理だがナイフやホークが左右に並んでフルコースのような形だ。


「ユヅキい……」

「家族の料理を切り分けたい。失礼する」


 カリンやセルンは食べ方分からないようなので、切ってホークだけで食べられるようにする。

 タティナは貴族との付き合いもあるそうなので、こういう料理でも平気なようだ。隣のセルンの料理を切り分けてもらう。


「作法など気にしなくて結構よ。それよりスティリアは元気にしているのかしら」


 母親が心配そうに聞いてくる。


「ああ、毎日薬の調合や研究をしている。村でマンドレイクを育てていて、一緒に栽培をしているよ」

「まあ、あのマンドレイクの栽培を! 研究しているとは聞いていたけど」

「村にいる俺の家族と共同で研究論文も出している。ここの魔術師協会でも見れるんじゃないか」

「論文まで……あの子そういうことを何も言わないから」

「村は危険な所と聞いている。怪我などはしていないだろうか」


 父親も心配そうだな。


「最初は魔獣を怖がっていたけど、今じゃ平気にしているわよ。魔の森にも一緒に入って行くわ」

「やはり魔獣は出るのだな」

「ユヅキは強い、カリンもな。この者達が守る村は安全だ」


 タティナの言に、おじいさんが感心したように呟く。


「ほおう、タティナ殿がそこまで言われるとはな」

「村に残してきた者達も手練れだ。村の周囲には壁もある。魔獣による被害は出ていない」

「タティナ殿は、この国の連合師団長と五分以上に戦ったと父上から聞いている。その方のお墨付きがあるなら、娘を村に置いていても心配ないようだな」

「そうだぞ、タティナ殿の武闘大会での戦いはすごかった。3対1でも負けてはいなかったからな」


 スティリアのおじいさんは腕に覚えがあるのか、戦いの様子を嬉しそうに話してくれた。


「あの引っ込み思案のスティリアが、村にひとりでいると聞いて心配していました。村でちゃんと生活できているようですね、少し安心しました。ユヅキさんよく来てくれました。感謝します」


 母親は涙ぐむように話す。手紙で様子は聞いていたようだが、やはり不安に思っていたのだろう。ご両親は村人と仲良く暮らすスティリアさんの事を聞いて安心したようだ。


「ユヅキ君、何か困ったことがあれば言ってくれ。手伝える事があれば力になるよ」

「それなら、セルンがここの魔術師学園に通っている。村から離れてひとりだ。気を遣ってやってくれんか」


 何かしてくれると言うなら、セルンにしてやってほしい。


「それなら、休みの日はこの家に遊びに来ればいい。歓迎するよ」

「いいんですか。ありがとうございます」

「それと俺達はこれから人族の国に行く。もし帝国内の地図があれば見せてもらいたいのだが」

「それなら、ワシの書斎に来なさい。詳しい地図がある」

「そうか、それはありがたい」


 帝国内の地図が見れるなら、この先の旅が楽になる。スティリアさんの家族には感謝しないとな。


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