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第94話 海洋族の依頼

 そろそろ海洋族の調査員が、俺を頼って冒険者ギルドに来るはずだ。セルンが寝ている間にカリンとタティナには、船でボノバ管理官と話したことを説明する。

 対外的には秘密だが、帝国内での調査が目的であることも話して、できれば護衛の依頼を受けたいと相談した。


「そう言う依頼もまあある事だ。あたいは依頼を受けても構わないと思う」

「ユヅキを頼って来てるんなら、依頼を受けてもいいと思うけど、条件次第でしょう。向こうの調査でユヅキの里帰りが遅れるのは嫌だからね」


 こちらの邪魔にならないようにすると言っていたが、その点はしっかりと確認しておかないとな。後は交渉次第だな。


 翌朝も俺達は冒険者ギルドへ向かう。タティナは軍からの指名依頼を受けに、俺はいつものように掲示板を見ていくと、海洋族からの依頼が貼り出されていた。指名依頼の判が押してあるから俺の事だな。


「ねえ、ユヅキ。昨日、倒した白い熊……スノーベアーだっけ。あの毛皮1頭分もらえるそうよ」


 タティナと一緒に窓口に行っていたカリン達が俺の元へやって来た。


「その毛皮でセルン用のローブを作ろうと思うの」

「それはいいな。専用の高性能ローブが作れそうだな」

「あたいの普通の剣だと斬れなかったからな。丈夫なローブができるだろう」

「いいんですか。ありがとうございます」


 スノーベアーは炎耐性があったから、水耐性を追加すればいいローブが出来上がるぞ。この後カリンとセルンは、ローブを作ってもらえる店を探しに行くようだ。


「タティナ、すまない。俺にも依頼が来ている。今日の軍との討伐はひとりで行ってくれるか」

「言っていた海洋族の依頼だな。軍の方はあたいへの指名依頼だから、ひとりでも差し支えない」


 外に向かうタティナの背中を見送り、俺は依頼書を持ち窓口で依頼について受付嬢に尋ねる。


「ユヅキ様、今日の昼過ぎに依頼者がこちらに来られると連絡がありました。その時に詳しい依頼内容を聞いていただけますか」

「分かった。鐘4つになったら、ここに来ればいいか」

「2階の個別依頼カウンターに来ていただければ、ご案内いたします」


 午前中はカリン達と一緒にローブ屋へ行き、その後、冒険者ギルドへ向かう。2階のカウンターで名前を言うと、依頼人はまだ来ておらず先に部屋に案内されて中に入る。

 小さな応接室で、テーブルを挟み3人掛けのソファーが左右に並び、下座にはひとり用の事務椅子が置かれていた。


 今日来るのは、帝国内を調査する海洋族と聞いているが、人数など詳しい事は聞いていない。

 お茶を飲みつつしばらく待っていると、ギルド職員に案内された海洋族の女性が入って来た。


「お久しぶりですね、ユヅキさん」


 この人はカイトスの港町で会ったナミディアさんだ。それともうひとり、知らない海洋族の男性と共に、向かいのソファーに腰掛ける。

 ナミディアさんは船の管理官のはずだが、調査員のような事もしているのか。そう言えば服装も、裕福なお嬢さん風の派手な服だな。前はキリッとした女教師のようだったが、今はおっとりとした表情と口調だ。


「やあ、お元気でしたか」


 この人とは知人の紹介で会った事になっている。話を合わせないといけないな。

 事務椅子に座るギルド職員が、書類を片手に依頼内容について説明してくれる。


「今回、ナミディア様は共和国内の観光をしたいと言うことで、その護衛依頼をされています」

「少し長い休暇がもらえたので、たまには陸地の方を巡ってみようと思っています。内陸の事はあまり分かりませんので、信用のおける優秀な方を希望しております」


 船の中で聞いた話と大体同じだな。ナミディアさんは裕福な豪商の娘、もうひとりの男性はその従者として話を進めていく。


「どれぐらいの期間を考えているんだ」

「そうですね。片道2週間くらいでしょうか。遠くに行ってみたいですね」

「帰りはこのレグルスまで送らないといけないのか」

「どこかの港でも結構です。帰りは別の冒険者の方に引き継いでいただいても結構ですよ」

「出発はすぐの方がいいか? できれば年始の休み明けの方がいいのだが」

「もう年末ですし、このレグルスも観光したいのでそれで結構です」


 人族の国へ行くのに支障はなさそうだし、こちらの要望も聞いてもらえたようだ。


「ユヅキ様、依頼を受けていただけるでしょうか」

「分かった。依頼を受けよう」

「ユヅキさん、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 ギルド内で手続きを終えて今後の打ち合わせをしようと、ふたりには俺の宿まで来てもらうことにした。


「ユヅキ殿。話を合わせていただきありがとうございます。こちらは私の付き人で連絡要員のレウヌスです」

「よろしくユヅキ殿。以前は冒険者をしていた。海中での戦闘が主だが、ある程度地上でも戦闘ができる」

「そうか、それは助かるな。俺の他に2名一緒に護衛をする。挨拶は出発する日になるな」


 気弱な令嬢を装っていたナミディアさんだったが、管理官らしくテキパキとした態度に変わている。こういう演技もできる器用な人なんだな。

 俺は地図を広げて、どのようなルートで帝国に入るか相談する。事前にタティナから一番入りやすい国境検問所の位置は聞いてある。


「現在帝国国境は封鎖されている。しかし帝国出身者のタティナが言うには、ここの国境で自分の里に帰ると言えば、通る事ができるだろうと言っている」


 大陸の中央部に向かい、ダークエルフの里に近い国境から帝国内に入る計画だ。


「帝国国境までは、乗り合い馬車を乗り継いでいくことができる」


 地図の町を指差しながらルートを示す。


「それなら馬車のチャーター便を用意できませんか。この最短の道を行けば早く着けます」

「かなり割高になるが」

「費用はこちらで出します。乗り合い馬車より気楽に旅できますし」


 確かに海洋族がふたりもいると珍しがられてしまうかもな。


「それにしてもこの地図はよくできていますね」


 シルスさんにもらった地図を簡単にした物だが、共和国の町の位置や街道を書いた詳しい地図だ。船で見せてもらった航路も書き加えてある。


「だが帝国内の町など正確な位置はまったく分からない。どこかで地図が手に入ればいいのだが」


 タティナから聞いた帝国内の帝都や町の位置を書き加えているが、大体の位置が分かる程度だ。

 今回は帝国までの道筋を定め、1月2日の朝に出発すると決定した。馬車の用意は俺がして、何かあればナミディアさんの宿へ連絡すると言って別れた。


 夕方、カリンとセルンが宿に戻って来た。午後、俺と別れたふたりは、このレグルスを観光していたようだ。


「ユヅキ、面白いとこいっぱいあったわよ。あんたも一緒に街を見て歩きましょうよ」

「そうだな、タティナの討伐依頼も今日までだしな、明日はみんなで街中に出てみるか」

「このレグルスは大きくて、私もまだ見てないところがいっぱいあるんですよ」

「共和国の首都だものな。タティナが詳しいはずだ。セルンの知らないところも教えてもらおうな」


「はい」と応えるセルンは、はじけるような笑顔を見せてくれる。冬休み、予定も無く学生寮内で過ごすはずだったからな、俺達と一緒に過ごせて楽しいのだろう。


「ところでカリン。今日依頼主が来てな、2日の朝に出発することが決まったぞ」

「前に言っていた海洋族の依頼ね。セルン、年末年始のお祭りは一緒に見れるわね」

「はい、楽しみです」


 タティナも帰って来たようだ。さあ、みんなで食事にしよう。


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