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第93話 レグルスでの討伐

 宿に戻るとカリンと一緒にセルンも部屋にいた。


「ユヅキおじ様、お久しぶりです」

「おお~、セルンじゃないか。元気にしていたか? 少し背が伸びたようだな」

「はい、少しは成長しました」


 いつもの可愛い笑顔を俺に向けてくれる。


「今、冬休みで寮の部屋にひとりでいたから連れて来たわ」


 学園に様子を見に行ったカリンが、外泊許可を取って宿に連れて来たようだ。休みの間、寮にひとりじゃ寂しいだろうしな。


「まあ、学園内には残っている友達がいたから、それほどでもないそうだけど。ねえ、年始のお休みまでこのレグルスにいちゃダメかな」

「実はな海洋族からの護衛依頼があってな。その依頼者が年末頃に来るんだ。その人がすぐに出発したいと言えば年明け前にここを出ないといけないんだよ」

「え~、そんな~。せっかくセルンと一緒に年始のお祭り見ようと思ってたのに」


 まあ、後2、3日は一緒に居れるが、セルンと年始のお祭りは見てみたいな。


「そうだな。依頼者が来たら交渉してみようか」

「うん、ありがとう。ユヅキ」


 今晩は討伐で受け取った報酬で、豪華な食事をしよう。セルンを連れ出して街のレストランへと出かける。


「セルン。学校は面白いか?」

「はい、いっぱいお友達もできましたし。あ~、ちょっと変な子もいますけど、みんな優しいです」


 両親や村の人達と離れて、ひとり魔術師学園に通うセルンを心配していたが、学園生活を楽しんでいるようだ。


「勉強はどうなの。さっさと進級して卒業しちゃいなさい」

「今度の期末試験でいい成績だったら、高等部へ編入してくれるって言ってました」

「体術の訓練などはあるのか」

「体術は教えてもらえないようですけど、剣なんかを教えている学校との交流会はあるそうです。タティナ師範に教えてもらった足技と、形の稽古は続けていますよ」


 セルンも11歳だ。この1年で体も成長し、体術の基本の動きをみっちりと練習しているらしい。明日の朝はタティナに稽古をつけてもらうと張り切っているな。


「ねえユヅキ達は今日、山で魔獣の討伐をしてきたんでしょう」

「ああ、軍と一緒にな」

「それでね、明日はセルンと一緒にその討伐に行きたいんだけど、いいかな。セルンの魔法を見てみたいの」


 そうだな。上達ぶりを見るなら、実戦の方が分かりやすいな。師匠のカリンとしては弟子の成長を見たいだろうし……いや、こいつは単にセルンと遊びたいだけかもしれんな。


「いいんじゃないか。明日も依頼者が現れなかったら、俺も魔獣討伐に行こう」


 翌朝、セルンを連れて冒険者ギルドへと向かう。掲示板に海洋族の依頼は無く、窓口でも聞いてみたが依頼者はまだ来ていないそうだ。

 昨日と同じ山へ行く討伐依頼を受けていたタティナが、俺のところへとやって来た。


「ユヅキ、あたいに指名依頼が来ていてな。軍と一緒に山での討伐にぜひ参加してほしいと言ってきている」


 聞くと、軍の一員として左翼で魔獣の討伐を行なうそうだ。討伐数に関係なく報酬が出るらしい。


「同じパーティーメンバーにも参加してほしいと言ってきている」

「セルンも一緒に行ってもいいのよね。じゃ早速、冒険者登録しておきましょう」

「いや待てよ、冒険者登録は12歳からだったはずだぞ」

「ええっ~。そんな~」


 窓口で聞いてみると、保護者と同じパーティー限定なら10歳から仮登録できるそうだ。自分の子供を鍛えるため、連れていく親もいるようだな。


「さあ、これでセルンも私達と同じパーティーメンバーよ」

「私で大丈夫でしょうか。お師匠様と同じ討伐なんて」

「なに言っているのよ。村で一緒に狩りしていたでしょう。どれだけ魔術が上手くなっているか私に見せなさい」

「はい、私頑張ります」


 昨日と同じ東門に行くと、軍の責任者に呼ばれて説明を受けて俺達は軍隊の最後尾に並ぶ。その後ろには今日集められた冒険者達が続いて山に入る。


「君達は左翼の私の指揮下に入る。訓練をしていないから緊密な連携は取れんだろうが、一番端で魔獣を逃さないようにしてもらいたい」

「端の位置で、ある程度自由にやってもいいか」

「ああ、上からもそのように聞いている。同士討ちだけは気を付けてくれ」

「了解した」


 タティナは傭兵として軍とも一緒に行動したことがある。隊長さんとテキパキと打ち合わせをしている。


「セルンは常に私達の後方で魔法攻撃をしなさい。フードはちゃんと被るのよ」


 いつもカリンが着ている最高級ローブをセルンに着せて、カリンは水属性だけに耐性のあるローブを着ている。

 そんな俺達を見ていた冒険者達が、ヒソヒソと話す声が聞こえた。


「あんなガキが俺達を差し置いて軍と討伐かよ。あいつら何もしなくても報酬がもらえるんだぜ」

「コネだよ。山に遠足気分で来てんだよ」


 そんな冒険者を余所に、早速討伐が始まった。追い立てられた魔獣が森の奥から出てくる。


「こんな端っこだと、魔獣もあまり来ないわね」


 群れから離れたスノーウルフを4匹倒したが、散発的で大した苦労もなく倒している。


「今日は軍の連中が頑張っているのだろう」


 昨日の失態で、兵士達は上官に絞られたのかもしれんな。

 すると中央付近で大きな物音がする。森の木もなぎ倒されているようで、悲鳴のようなものも聞こえてきた。

 中央付近にいた冒険者達がこちらに逃げて来た。


「し、白い熊の魔獣だ。逃げろ!」


 左翼部隊長が号令する。


「左翼! 左側面へ前進。中央部隊を援護する」

「あたい達は先行するぞ」

「ああ、君達の足ならすぐ駆けつけられるだろう」


 昨日の戦闘を見ていたのか、俺達の事が分かっているようだな。


「ユヅキ、手を繋いで! 高速移動するわよ」


 俺達4人は森の木を縫って中央部隊へと急ぐ。白い巨大な熊と兵士が戦っているのが見えた。灰色熊よりも大きいぞ。白い変異種か! いや違うな後ろにも同じ白い大型の熊が2頭いる。


「セルン、後ろの奴を足止めなさい」

「フレイム・サークル!」


 後ろ2頭の白い熊が円形の炎の壁に遮られる。炎の連続魔法の応用か、直径10mの範囲に連続して炎を立ち上がらせている。

 前の熊が立ち上り手に巨大な氷の塊が出現する。しかしその氷はすぐにかき消された。カリンのキャンセル魔法か!

 その間にもタティナは高速で接近し、剣で攻撃を仕掛けたが斬れていない。


「そいつの毛皮は、炎も剣も通用しないぞ」


 兵士から声が飛ぶ。


「ユヅキ! 行きなさい」


 俺はカリンの風魔法に押され、高速移動で白い熊に急接近する。


 ――ブゥ~ン


 超音波振動を起動した剣は難なく熊の腕から胸にかけて切り裂き、地響きを立てて熊が倒れた。

 その直後、足止めしていた後方の熊の周りから炎の壁が消えた。


 それと同時にタティナが走り出す。両手には炎を纏った剣が握られている。

 炎も剣も通用しない相手だが左腰に2本の剣を構え、捻った体を一気に高速回転させて2連撃を首に斬りつけた。首が切断され胴体から血を噴き出した巨大熊が、後方にゆっくりと倒れていく。


 魔鉄刀木で新たに作られたタティナの剣は、魔石の力も借りて刃の部分には白い炎が纏わりついている。少々の炎耐性があっても、鉄でも溶かせそうな強力な炎だ。それを同じ箇所に2回連続攻撃すれば、どんな物でも切り裂いてしまうだろう。


「ジャイアント・トルネイド」


 セルンの声だ。もう1頭の熊が竜巻のような風で空中に飛ばされている。

 巻き上げられ、毛の薄い腹が上向きになったところに氷の槍が何本も突き刺さる。これはカリンの攻撃だな。

 白い熊が地面に落ちた時には、もう動かなくなっていた。


 左翼の部隊が追いついてきたようだ。


「スノーベアーが3体も……。これを君達が倒したのか」

「怪我人が出ているようだ。部隊編成、陣形の指示をくれ」

「お、おう」


 タティナの言葉に左翼と中央の部隊長が話をする。怪我人を後方に下がらせ討伐は続行するようだ。

 元の陣形に戻り、その後数匹の狼を倒してその日の討伐は終了した。倒したスノーベアー3頭などを、参加していた冒険者が担ぎ山を降りる。俺達が倒した白い熊を見て、冒険者の俺達に対する不満はかき消されたようだ。


「セルン。あの炎の輪はなかなか良かったわね」

「ドライヤー魔法をいっぱい練習して、その応用で作ってみました」

「偉いわね。そうやって自分の魔術を作っていくのよ」

「でも、他の人から私の魔術は変だって言われます」

「そんなの気にしなくてもいいわよ。所詮、協会で教える魔術なんて大したことないんだからね」


 今日の報酬を受け取り、宿に戻る。セルンも一緒に今夜もレストランで楽しい夕食会だ。


 ◇

 ◇


「メロウ様。仰っていた冒険者達が軍と一緒に山狩りをしたそうです。その際、3体のスノーベアーをその者達が仕留めたと」

「どのような技で仕留めたのか聞いておるか」

「はい、男の剣士の武器はファルシオン。その剣で胴体を一刀両断にしたと。女剣士も2本の剣を振るい、毛皮を切り裂き首を両断したと報告を受けております」


 スノーベアーの毛皮は剣を通さない。口を槍で狙うか腹の弱い部分を切り裂かねば、俺であっても倒すことは難しい。あやつはさらに強くなっているようだな。

 残り1頭も仲間ふたりの女魔術師が倒したようだ。


「その者達は、縮地の足技を使っていたか?」

「はい、4人とも縮地の使い手だと。ひとりは10歳ほどの子供もいたと言っておりました」

「そうか、報告ご苦労」


 部下が部屋を出たあと、俺は椅子に深く腰掛け天井を見やる。


「あやつは仲間と共にあるか……。羨ましい限りだな」


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