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第92話 首都レグルス

 船に乗って2日目の夕方。やっとカリンがベッドから起き上がることができた。


「明日の朝にはレグルス港に着くから、もう少し辛抱してくれ」


 カリンは何とか夕食を食べることができたが、やはり船酔いは収まらないらしい。

 その後、船は予定通り朝に港に到着し、俺達は下船する。


「ユヅキ殿。お連れの方は大丈夫ですかな」

「なんとか大丈夫だ。世話になったな」

「帝国の件、よろしくお願いする」

「ああ、分かったよ」


 ボノバに見送られながら、カリンに寄り添いタラップを降りていく。


「陸に降りたのに、まだ揺れているような気がするわ。もう私、船なんか乗らないからね」


 まあ、あれだけ酷い目にあえば仕方ないか。これからは陸路だし大丈夫だろう。


「ユヅキ、これがレグルス行きの乗り合い馬車のようだぞ」


 タティナはカリンの荷物も一緒に馬車に積み込んで俺達を呼んでいる。

 この馬車に鐘1つ乗れば首都レグルスに着けるのだが、馬車に揺られカリンとタティナはまた気分が悪くなったようだ。風に当たらせながらなんとかレグルスに到着できた。

 まだ泊まるには早いが、急いで宿を探してカリン達を休ませる。宿でパンとスープの軽い食事を頼んでふたりにはゆっくり寝てもらおう。



 翌朝。宿の食堂に降りていく。


「気分はどうだ? 朝食は食べられそうか」

「もう大丈夫よ。地面も揺れていないわ」


 揺れていたのは、お前の三半規管なんだがな。そういえば三半規管は耳の奥にあるんだっけ? 虎族の頭の上にある大きな耳ってどんな構造になってるんだ?


「カリン、ちょっと見せてくれな」


 モフモフのカリンの耳の内側の毛を分けて、耳の中を覗いてみる。


「やだ、ユヅキったら。人前で恥ずかしいじゃない」


 そんなに恥ずかしがる事なのか? 獣人達の慣習には未だ慣れないものだな。フーッと耳の中に息を吹きかけてみた。


「フッギャー! やめなさいって言ってるでしょう!!」

「オゴゥアッ」


 カリンの右フックがアゴにクリーンヒットし、一発KOになっちまった。俺も戦闘慣れしていると思っていたが、こいつの鋭いパンチは避け切れん。軽い脳振とうを起こして床から起き上がれないぞ。


「ユヅキ、いい加減にしないと殴るわよ」


 真っ赤な顔で拳を振るわせているが、殴ってから言うなよ。やれやれと言った様子のタティナに抱き起こしてもらい、何とか食堂の席に着く。カリンの奴、船酔いから完全に復調してやがる。

 まあ、今のは俺が悪かったな。「すまん、すまん」とカリンに謝りつつ、食事をしながら今後の事を話す。


「詳しくは後で話すが、このレグルスに3日程滞在しようと思う」

「そうなの? 3日か……それなら魔術師学園のセルンに会いに行ってくるわ」

「そうだな。学園に行って1年近くになるか。俺も行きたいが冒険者ギルドに行かないとダメなんだ。カリンだけで様子を見に行ってくれるか」

「ええ、弟子の成長がどんなものか見てくるわね」

「タティナはどうする」

「ここに滞在するなら、冒険者の仕事をして路銀を稼いでもいいな。ユヅキと一緒にギルドに行こう」


 まあ、金は充分持ってきているが、暇するよりはいいか。

 カリンには宿近くから出ている乗合馬車で、魔術師学園に向かってもらう。これなら迷う事もないだろう。この首都のことはタティナが詳しい。案内してもらい俺は冒険者ギルドに向かう。


「立派な建物だな」

「共和国首都のギルドだからな」


 4階建ての石造りの大きな建物だ。入り口の扉も重厚で綺麗な装飾が施してある。入り口は3ヵ所もあり人の出入りも多いな。


「ユヅキ、あたいは受けられそうな依頼を見てくる。用事が終わったら受付前のテーブルに来てくれるか」

「ああ、分かった」


 受付窓口にも人が多く、できるだけ人の少ない列に並んで順番を待つ。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件ですか?」

「ここに海洋族からの護衛依頼が来ているはずだが、知り合いから受けてくれないかと頼まれた」

「海洋族からですか? 確か昨日来ていたような……。しばらくお待ちくださいね」


 奥の職員に確認しているようだ。何か書類を持って窓口に戻って来た。


「依頼主はまだ来ていないようですが、海洋族の護衛依頼はありますね」

「依頼主が来たら、俺の名前を出して依頼内容を聞きたいと伝えてくれないか」

「はい、結構ですよ。ではここに冒険者プレートを置いてください」


 これで依頼者が来れば、指名依頼として掲示板に貼り出してくれるようだ。毎朝見に来れば、確実にここで落ち合えるな。

 受付窓口を離れて後ろに並ぶテーブルへ行くと、タティナが椅子に座って俺を待っていた。


「何かいい依頼はあったか」

「ここの軍と一緒に山でスノーウルフを討伐する依頼があった。ユヅキも一緒に行かないか」


 聞くと、年末までの間毎日、魔獣の討伐を軍と一緒にするそうだ。人が集まるこの時期恒例の討伐だそうで、参加する冒険者は魔獣の討伐数で報酬がもらえると言っている。


「魔獣はスノーウルフだけじゃないんだが、軍が撃ち漏らした魔獣をあたいら冒険者が狩るそうだ。足の速い魔獣がこちらに来ることになる」

「なるほどな。年末までと言うならちょうどいいな。俺も一緒に参加してみようか」


 タティナと一緒に兵舎のある東門の近くまで行くと、もう冒険者は集まっていてすぐに山に向かうようだ。

 列の最後尾に付いて俺達も山の中に入る。この地方は暖かな気候だが、山には雪が積もっていて寒く感じるな。


 俺達は開けた場所で待機し、兵隊達は隊列を組んで指揮官の命令で森の中へ進んで行く。雪中行軍の訓練も兼ねているのだろう。

 しばらくして森の中から戦闘の音が聞こえてきた。ちらほらと前衛を抜けて来た狼はいるが、これだけ多くの冒険者がいては俺達の出る幕はないみたいだ。獲物は早い者勝ちなので前列にいる冒険者だけで倒してしまう。


「ユヅキ、どうもこの討伐は空振りのようだな」

「そうだな。だがどんなものか分かっただけでもいいじゃないか」


 すると左手奥の森の中を10匹程のスノーウルフの群れが、麓に向かって駆け下りているのが見えた。麓は穀倉地帯で普通に人が道を歩いていた。そこにあの群れを向かわせる訳にはいかない。


「タティナ!」


 俺が手を出すとタティナも分かっているのだろう、俺の手を取り高速移動でスノーウルフの群れを追う。タティナの火魔法ジェットが火を噴き、俺達は森の木々の間を抜けて追いかける。

 俺の靴にも小型の火魔法ジェットと魔力電池を取り付けているが、タティナに引っ張ってもらった方が速い。


 タティナの炎魔法がスノーウルフの群れの前に飛んでいき、群れのスピードが落ちた。俺も片手で群れの後方の1匹を魔道弓で仕留める。スノーウルフは氷のブレスを吐きながら目標をこちらに変えて攻撃してきた。

 タティナの手を離して剣を構える。タティナも両手に剣を構え、巧みにブレスを躱しながら魔法攻撃を仕掛ける。群れをばらけさせず、麓に向かわないようにこちらに誘導する。


「あの程度のブレスなら直撃しなければ大丈夫だ。左から仕掛けるぞ!」

「おお!」


 一言応えてタティナは左手へ向かい前方から1匹1匹倒していく。俺は側面から接近戦に持ち込み剣を振り抜く。混戦になればブレスも吐けないだろう。左右からの同時攻撃で挟み撃ちにあったスノーウルフは他愛もなく倒れていった。


 兵士達が慌てた様子で俺達の所に来たが、既に全ての魔獣は倒した。兵士と冒険者の連携が取れていないのだから、このように群れで横を抜けられる事もあるか。今回は早く発見できて良かった。

 今日の報酬は倒した9匹分だけだが、宿で豪勢な食事分にはなりそうだ。


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