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第78話 港町の荷物

 子供が生まれて90日の時が過ぎた。こちらの世界の2ヶ月だが、バタバタしていた子育ても、徐々に生活のリズムが取れるようになってきている。

 アイシャはまだ赤ちゃんに付きっ切りだが、夜などは俺達が交代しながら哺乳瓶でお乳をあげたりしているので、よく眠れているようだ。


 だが足りない物も出てくる。俺とカリンでトリマンの町に買出しに行って、ついでにゴーエンさんにも出産の報告をしようと思う。

 店に行くと、奥からゴーエンさんが慌てた様子で出てきた。


「ユヅキ君、ちょうど良かった。すまないがこれを頼まれてくれないか」

「んっ、どうしたんだ?」

「実はな、ワシの友人が港町から変な荷物を受け取ってしまってな。これを港町まで返さんといかんのだよ」


 今日出航する船に乗せないといけない荷物のようだな。上面に伝票が貼られた30cm四方の木箱、まあまあの重さだな


「息子は出ておって、ワシももう馬を走らせる事はできん。ユヅキ君、馬を走らせる事はできるか」


 俺も旅の途中で馬の扱いはできるようになっている。馬車だけでなく、乗馬で早駆けもできるよう練習した。世話になっているゴーエンさんの頼みだ、ここは引き受けよう。


「で、この荷物の中味はなんなんだ?」


 ゴーエンさんが、木箱の上蓋を開けて中身を見せてくれた。中には水が入った丸く透明なガラス瓶、その中を見て俺は驚いた。


「これは人魚の赤ちゃんじゃないのか!」


 瓶の中で泳いでいるのは魚の稚魚のようだが、腕が2本生えている。全体の大きさは親指ほどだが、確かに腕がある。


「ニンギョ? これは魔物の子供だ。どこかの物好きが買った物だろう」


 半魚人のように見える……確かに魔物に見えなくもないが。


「これがその受取書なんじゃが、ワシは頼んでなくてな。品物を返さんとならん」


 間違って受け取った友人は既に別の町に出発していて、連絡も取れないらしい。


「分かった。俺が返しに行ってくるよ」

「すまないな」


 ガラス瓶は沢山の麦わらに包まれている。荷物を背中に担げば、割れずに運べそうだな。

 よく見るとガラス瓶の蓋には封印がしてあり密閉されている。中に空気は入っているので、窒息する事はないと思うが……。

 馬はゴーエンさんが用意してくれている。カリンにはゴーエンさんへの挨拶と買出しを続けてもらって、明日合流する事にした。


「カリン、後は頼む」

「任せなさい。慌てて落馬とかしないでよ」


 俺は背中に荷物を背負い、港町へと馬を走らせる。この街道は荷を運ぶ馬車も多いが、広くて走りやすい。門が閉まる日暮れまでには、充分港町に到着できるな。

 馬を走らせて順調に街道を行く。


「ん、あれはなんだ?」


 俺の前、街道を行く荷馬車ではあるのだが、積んでいる荷が何かおかしい。1m四方の同じ箱がいくつも積まれていて紐で荷台に縛り付けられている。


 横を追い抜く際に、壊れた木の隙間からシッポが見えた気がする。モフモフのシッポだ。箱の中は暗く一瞬だったので、はっきりとは分からないが、俺にはそれが獣人のシッポに見えた。


 御者台には狐の獣人と、両脇に護衛の厳つい男がふたり座っている。

 ここで止めて荷を見せろといっても、言い争いになるだけだ。変な物であれば門で検査されるはずだ。

 気にはなったが俺は港町に急ぎ、夕方前には町に入る事ができた。


「まずは港だな」


 港ではまだ船が停泊していて、多くのドワーフによって荷の積み込み作業が行われていた。


「すまない。ここの責任者に会いたいのだが」

「それなら、あそこにいる海洋族の水先案内人の管理官だ」


 荷を運んでいたドワーフの指差す先には、海洋族の女性が周りの者に指示を出していた。


「忙しいところすまんが、昨日受け取った荷に手違いがあり、これを返しに来た」

「それなら、船の管理者のいる建物へ行ってくれますか」


 海洋族の女性は俺より少し若い感じだが、管理官と言う事のようで積み荷の手続きや水先案内も行う責任者みたいだな。すっと背が高く理知的な顔立ちで、管理官の制服がよく似合っている。

 メガネをかければ、美人の女教師といった雰囲気だが、ここは異世界。髪の色は色鮮やかなコバルトブルーの長い髪。前世では世界中探しても居ないような髪色だ。

 耳は他の海洋族と同じヒレ型で、首にはエラもあるようだな。


「荷の中身が人魚の赤ん坊のようなのだが、確認してもらえないか?」


 昨日、荷を受けたことを示す受取書と一緒に見せる。


「その荷を預けた者は、荷の中身はなんだと言っていましたか」

「魔物の子供だと。物好きが買ったのだろうと言っていたな」

「荷を確認します。こちらへ」


 俺は海洋族の女性に従って小さな建物へ入る。そこには海洋族の冒険者風の若者3人がテーブルを囲み談笑していた。

 その奥の部屋に通されて、俺は運んできた荷をテーブルに置く。

 蓋を開け、海洋族の女性が中身を確認する。


「それは海洋族の子供ではないのか?」

「あなた方人族と、我ら海洋族の間には国交があるとはいえ、これ以上の詮索はしないでいただきたい」


 俺はこの世界の人族じゃないんで、そのあたりの事はよく分からないが、口出しできるような雰囲気ではないな。海洋族の責任者は荷を係員に手渡し、船に積み込むように指示した。


「わざわざ運んでくれたことには感謝します。すみませんが出港前で忙しいのでこれで失礼します」


 一応荷は届けられたので、これで良しとするか。

 建物を出た俺は、馬車から積み荷を船に運ぶ3人の男を見掛けた。ドワーフ族ではない3人に違和感を覚えよく見ると、街道で見掛けた狐獣人とその護衛だった。


「おい、船に積み込んでいるその積み荷を見せてくれんか」

「何だお前は、なんの権限があってそんな事を言っている。忙しんだ邪魔をするな」


 角の壊れた積み荷を俺が叩くと、木の隙間からシッポが動くのが見えた。俺がこのモフモフを見逃すはずはない。

 積み荷の上部を剣で切りつけ、箱を破壊する。


「これは何だ!!」


 箱の中には鉄製の檻があり、囚われていた幼い少年が後ろ手に縛られ猿ぐつわを噛ませられている。


 いきなり護衛のふたりが剣を抜き、俺に斬り掛かってきた。俺も剣を抜きつつ、ひとりを躱しもうひとりの胴に峰打ちを入れる。背後から振り下ろされた剣を振り向きざまに両断し、バランスを崩し前のめりになった男の背に一撃を入れた。

 騒ぎを聞きつけ、さっきの海洋族の女性と冒険者が駆け寄って来る。


「荷の中に獣人がいる。他の荷も調べてくれ」


 俺の言葉を聞いて、海洋族の女性が周りの者に指示を出す。


「船長に連絡! 出港は中止します。荷を調べて荷主をここに連れてくるように」


 逃げ出した狐の獣人と倒れて動けない護衛の2人は、海洋族の冒険者が捕まえて縄で縛っている。


「私は、セイレーン族のナミディア。先ほどは失礼しました。あなたのお名前は何と言うのですか?」


 セイレーン族? 人魚……マーメイド族とは違うのか。そういえば腕は鱗ではなく羽毛のようなものが生えているな。


「俺はユヅキという。街道を走っている時にその男達を見掛けた。よく町に入れたものだな」


 門番が手引きした可能性もあるが、それはこの町の衛兵に任せると言っている。

 海洋族は船での人の移動を厳しく制限していると聞く。今回は誘拐だろうが、非合法であることに間違いはないだろう。


「すみませんが、あなたの身の証しを立てる意味で、私達の調べに応じてもらえますか」

「分かった、詳しく話そう」


 その後、建物の中で海洋族の調べに応じる。この世界このような子供は駄目だが、成人の奴隷売買は行われているようだな。

 帝国内では合法的に、共和国内でも富豪は奴隷という名ではないが、このような者達を何人も働かせているらしい。ただし船での移動は禁じられている。


 調べにそれほどの時間はかからなかったが、外に出ると辺りは暗くなっていた。

 とんだ事件に巻き込まれてしまったが、久しぶりの港町だ。美味い料理を食べて、アイシャ達には土産を買っていってやろう。


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