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第75話 カリンの弟子7

 洞窟に野営の荷物を置いて、朝日が昇ると同時に泉を出発する。身軽になり鬱蒼と続く森を行き、小さな滝を越えて鐘半分、第3の泉に俺達は到着した。


「ここが第3の泉……。ほんとにキレイなところですね」


 木漏れ日が水面に映り、透明な水がこんこんと湧き出している。3つの泉の中で一番大きな泉だ。

 休憩しつつ、目的の鉄刀木を探す。


「タティナ。あそこにある黒い枝の木が鉄刀木だ」

「なるほど。叩くと金属のような音がするな」

「タティナの剣にするんだったら、これぐらいの長さか?」

「そうだな。それを2本切ってくれるか」


 これくらいなら、チセひとりでも持って帰れそうだな。後はセルン用の木だが、少し長い物が要るな。木の吟味をしていたら対岸の方からセルンの声が聞こえた。


「お師匠様。こっちに珍しい花がありますよ」

「キーエ!」


 それと同時にキイエが警戒の声で鳴く。


「セルン! 伏せなさい!」

「キャー」


 セルンの悲鳴だ。その方向を向くと、泉の反対側まで行っていたセルンをかばいカリンが魔獣に襲われていた。あれは巨大なカメレオンの魔獣か!

 次の瞬間タティナが高速移動で泉を突っ切り、セルンとカリンの元へ向かう。カリンはセルンを抱きかかえ、土のドームを作って防御しているが大丈夫か!


 キイエが魔獣に向かって炎を吐く。しかし魔獣は水魔法で対抗し、体の色を変えて透明になった。タティナは左右の剣を抜くと同時に炎による魔法攻撃を仕掛けて、気配を頼りに剣を振るったが切れたのはシッポだけだった。


 俺とチセも駆け寄ったが、カメレオンの魔獣の姿はもうどこにもなく逃げたようだ。シッポだけでも人の大きさ位ある巨大なものだった。


「カリン、大丈夫か!」


 土のドームが崩れて、倒れているカリンが見えた。


「大丈夫よ。少し足をやられただけだわ」

「お師匠様、お師匠様、お師匠様!」


 セルンが泣きながらカリンにしがみついている。

 カリンの革の靴から白い煙が上がり、ツンとした匂いがする。魔獣の舌に足を取られたとき毒を受けたと言っているが、毒と言うより強烈な酸のようだ。靴のまま足を泉に入れてから靴を脱がして、急いで足を洗う。


 酸をかけられた左足の足先から足首辺り、黄色と黒の縞模様の毛が無くなり皮膚がただれていた。痛むのだろう、カリンは顔をしかめる。綺麗に洗った後に光魔法で治療をして、持ってきた軟膏を塗り包帯を巻くが血が滲んでいるな。


「カリン、すまなかった。あたいがセルンの傍から離れてしまった。あたいが守ると言って連れて来たのに……」

「なに言っているのよ、弟子を守るのは師匠の務めなんだから。あんたが悪いわけじゃないわよ」

「お師匠様、ごめんなさい。私が勝手に泉を見て回って……ごめんなさい、お師匠様……」


 まだ泣きじゃくっているセルンの頭をカリンが優しく撫でる。


「すまない、カリン。俺もみんなから離れて注意を怠った。歩けそうか」

「ええ、大丈夫よ。でもこの靴はもう使えないわね」


 足には肉球があり靴がなくても歩けるのだが、近くにある大きな葉っぱで靴の代用品を作ってカリンに履いてもらう。枝で足首を固定し足に負担が掛からないようにしておこう。

 必要な鉄刀木の枝を切り落とし、俺とチセそしてタティナで背中に担ぐ。


「さあ帰るわよ、セルン。そんなにしがみついてちゃ魔法が使えないでしょう。あなたもしっかり周りを警戒しなさい」

「はい、分かりました。お師匠様……」


 カリンは足を少し引きずっているが、歩けない程でもない。こういう場合、隊列を崩す方が危険だ。俺とチセを先頭に、後方にはタティナが守りに就き来た道を戻る。

 昼前には第2の泉の洞窟まで戻って来た。


「カリン、歩けないようならチセに背負ってもらって村に帰ろう」


 持ってきた鉄刀木をここに置いていけば、チセに背負ってもらえる。


「いいえ、大丈夫よ。さっき光魔法で治療してもらって楽になったわ。村まで歩けるわよ」

「そうか……無理しないでくれ。辛くなったら言ってくれよ」


 カリンの野営の荷物は俺達で持って、カリンには身軽な格好で歩いてもらう。できるだけ戦闘は避け、魔獣をやり過ごしながら村へと帰る。村へ辿り着いた時には日が暮れ暗くなっていた。


「ユヅキさん。何かあったの、心配したわ」

「すまない、アイシャ。カリンに怪我をさせてしまった」

「アイシャ、大丈夫よ。少し魔獣の毒にやられただけよ」

「まあ、カリン、その足……。さあ、ベッドで寝なさい」


 アイシャが服を着替えさせて、カリンを自室のベッドで横に寝かせる。


「カリン、この薬を飲んでおけ」

「それは前にもらった綺麗な石のお薬ね。ありがとう、ユヅキ」

「お師匠様、私がずっと看病します。だからちゃんと治ってくださいね」

「大丈夫よ、セルン。こんなんで死んだりしないんだから」

「はい、そうですよね。私のお師匠様ですもの」


 カリンはその日の夜、少し熱を出して次の日も寝込んでしまった。


「ユヅキ、すまなかった。今回ほどあたいの弱さを痛感したことはない。もうこんなに胸を締め付けられるような思いはしたくない。あたいは強くなる。だから今回は許してくれ」

「俺も油断していた。タティナのせいじゃない。元々魔の森は人を寄せ付けない場所だ。だからみんなで協力しないと守り抜けない。これからも一緒に頼むぞ」

「ああ、そうだな。よろしく頼む、ユヅキ」


 カリンはその後、順調に回復し普通に歩けるようになったが、足の傷跡は残ってしまった。その傷を見るたび俺は後悔の念を抱き、カリン達を守ろうと誓うのだった。

 3週間後、セルンが首都レグルスの魔術師学園に向かう日がやってきた。


「セルン、元気でいるのよ」

「父さん達はセルンが立派になって帰ってくるのを待っているからな」

「はい、私頑張ります」

「セルン、これが鉄刀木で作ったあなたの杖よ。でもこの杖に頼っちゃだめよ。自分の魔法に自信がついた時に使うようにしなさい」

「ありがとうございます、お師匠様。今はお師匠様からもらった小さな杖と教えてもらった魔法があります。お師匠様と同じ魔法ができるようになってからこの杖を使います。今までありがとうございました」


 トリマンの町で作ってもらっていたセルン用の杖がやっと出来上がり、ギリギリで渡すことができた。


「元気でいるんだぞ」

「はい、ユヅキおじ様もお元気で」


 セルンは馬車に乗り、村のみんなの声援を受けてシャウラ村を後にした。


「カリン、少し寂しくなるな」

「なに言っているのよ。もうすぐアイシャの子供も生まれるのよ。そんな事言っている暇はないわ」


 とは言うものの、カリンは少し涙ぐんでいるようだった。そんなカリンの肩を抱いてふたり家へと戻る。


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