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第73話 カリンの弟子5

 今日はセルンと魔獣を倒しに川向こうの魔の森に入る。相手は魔法を使う魔獣だ。アイシャが使っていた全属性に耐性のあるローブを着る。

 女神様特製のローブなのだが、サイズが合わなくてブカブカだな。所々を紐で縛って体に合わせてやろう。


「すごくカッコ悪いわね」

「恰好より、安全が第一だろう」

「ねえ、セルン。ちゃんと動ける?」

「大丈夫ですよ、チセ姉さま。それよりチセ姉さまの方が危ない位置にいるのですから、怪我しないでくださいね」


 俺とチセが前に出て、カリンがセルンを守る。後方からセルンが魔法攻撃して、魔獣を倒していくいつもの戦法だ。


「あそこにエアウルフの群れがいるわ。ここから攻撃し私達はすぐに下がって、平原に出るわよ」

「魔獣をおびき寄せるんですね」

「そうよ。ユヅキ達は森の端でエアウルフを足止めしてくれるわ。その間にあなたが魔獣を倒していきなさい」

「はい、分かりました。お師匠様」

「しっかり走って、転ばないようにしなさい」

「はい」


 セルンが火魔法をエアウルフの群れに放り込む。攻撃された魔獣は、群れのままこちらに走って来た。俺とチセは魔道弓で数を減らし、セルンも風魔法と岩魔法で後方から撃ち倒す。

 残り4匹が俺達に迫って風魔法を放ってくるが、チセの鎧と俺の手持ちの盾で防ぐ。セルンは魔獣が横に広がらないように牽制しつつ攻撃を続けている。


「カリン、1匹そっちに行ったぞ!」


 これは予定通りの行動だ。わざと1匹後ろに逃しセルンと対峙させる。向かって来る魔獣を恐れることなく、セルンは魔法攻撃を仕掛ける。

 しかし正面からだと躱されてしまう。セルンは魔獣の風魔法を受けつつも、岩魔法で対抗している。


「高速魔法を使いなさい」

「はい。メテオストライク!」


 近づいてきたエアウルフに高速の隕石魔法を使う。


「ほほう、中級魔法も使えるのか」


 セルンの魔法を躱しきれず横に吹っ飛んだエアウルフの頭に、風の刃の集中攻撃を浴びせて止めを差したようだ。

 毛皮の事も考えて頭を狙うとは、アイシャの教育の賜物だな。


「セルン、怖くなかった」

「チセ姉さまが守ってくれていたから大丈夫でした。でももっと動けないとダメですね」


 セルンはチセと一緒にタティナから体術を学んでいる。まだ体ができていないからと、基本の足技と舞踊のような形を教えてもらっている最中だ。

 午後の鐘5つまではカリンと一緒に魔術の練習をして、その後の自由時間でタティナの体術やスティリアさんから文字を教わっているそうだ。俺もその時間に、時々算数などを教えている。


「午後は村のみんなと遊んでもいいんだぞ」

「はい、でも文字とか覚えるの楽しいですよ。チセ姉さまともおしゃべりできますし」


 確かに、武闘大会全国2位のタティナや、魔術師協会の研究員、それに魔弾の開発者に色々と教えてもらえるのは贅沢な事だな。

 俺もこの前セルン用に風の靴を作ってやったら、喜んでカリンやチセと平原で遊んでいたな。楽しく学んでいるならそれでいいか。

 ある日、セルンの両親と村長が俺の家にやって来た。


「ユヅキさん。セルンを首都の魔術師学園へ行かせようと思うんだが、どうだろうか」


 魔術師学園は魔術の事について、基礎的な事から応用までを学ぶことができる学校だと聞いているが、俺も詳しくは知らない。


「村長。授業料や向こうで暮らすお金は大丈夫なのか」


 魔術師学園の案内状によると、授業料はさほど高くはなく寮費も無料だそうだ。だが食事代は必要で、最低でも2年ほどは学園に居る事になるな。

 寮の食堂で安く食べられるようだが、それなりの費用がかかるはずだ。


「ユヅキさん達のお陰でこの村も潤っておるからのう、お金は村全体で出そうと思っておる。今までこの村から魔術師学園に行った者はおらんから、村の代表として行ってもらうつもりじゃ」

「カリンはどう思う」

「それはセルン次第じゃないの。実践的な事はこの村でもできるわ。でもそれは成人してからでもできるから、その前に基礎的なことを学びたいと言うなら、学園もいいかもしれないわね」


 確かにそうだな。学園には否定的な考えを持つカリンだが、幼いセルンの事を考えて、学べる時に学んだ方がいいと思っているのだろう。


 だが俺達は魔術師学園の事はあまり詳しくない。薬師のスティリアさんなら、魔法大学を卒業している。魔術師学園の事もよく知っているだろうと、セルンや両親達と共にスティリアさんの家を訪ねて聞いてみる事にした。


「首都レグルスの魔術師学園は初等・中等部と高等部の2つに分かれていて、それぞれ2年から3年の授業が組まれていますね」

「入学するのはいつからなんだ」

「春分の3月1日と秋分の7月1日の年2回ですね。入学する年齢も卒業する年齢もいつでもいいので、今年でなくても来年から入ってもいいんですよ。規定の単位が取れれば飛び級で上に行くこともできますし」


 義務教育的なものと違って、単位制の大学のようなシステムなんだな。


「初等・中等部では初級と中級魔法まで学べますので、冒険者になるような人はそこで卒業しますね。大魔法を使う人や魔術師協会の職員になろうとする人は高等部まで進みます」

「セルンが大魔法まで学ぼうとすると、4年から6年間この村を離れることになるな」

「私が教えているんだから、セルンならもっと早く卒業できるわよ」


 セルンは今でも中級魔法を使い熟してはいるが、学校の勉強となるとそう簡単ではないと思うが。


「セルン。長くこの村を離れて暮らすことになるかもしれないが、魔術師学園に行って勉強するつもりはあるか?」

「お師匠様が行ったことがないと言う魔術師学園なら、私が行ってどんなところか確かめてみたいと思っています。お師匠様の言うように学べるものが無いようなら途中で帰ってこようと思いますが、それでもいいですか?」


 両親は折角だから高等部まで行ってほしいようだが、セルンの言うように学ぶものが無いなら行っても無意味だな。まずは2年程通う事を考えているようだ。


「寮生活はどうなっているんだ」

「自分は実家がレグルスにあって、家から通っていたのでよくは知らないのですが、地方から来た人はほとんど寮で暮らしていましたね。管理人の方もいましたし、4人1組の部屋でみんな楽しくしてましたよ」


 下宿ではなくちゃんとした寮があるなら安心だが、セルンひとりでちゃんと暮らせるか?


「ユヅキ。今もセルンには家でいろんなことができるように教えているでしょう。大丈夫よ」

「ユヅキおじ様、私なら大丈夫です。少し寂しいですけど、村の代表として行けるなら学園に行ってみたいです」


 セルンも学園に通う事に前向きなようだな。それならと、今年の春分の日に魔術師学園へ入学させる事が決まった。


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