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第72話 カリンの弟子4

 セルンも、ある程度魔法が使えるようになった。この成果をご両親にも見てもらおうと、家の横の平原で発表会を行なう。


「セルン、火魔法を飛ばしてみなさい」

「はい。ファイヤーボール!」


 手には以前カリンが使っていたタクト型の杖を持ち、小さな火の玉を遠くに飛ばした。セルンも魔力が大きいから、魔力を制限する杖が必要になりカリンの杖を1本譲り受けた。

 その後もご両親に見せるため、セルンは風魔法と土魔法を飛ばす。


「セルン、すごいわ。こんなにも魔法が使えるなんて」

「ほんとだ。セルンのこんな姿を見ることができるとは思ってもいなかったよ」


 ご両親はセルンを抱きしめ、セルンも嬉しそうに笑う。


「カリンさん。本当にありがとうごさいました。娘にこんな素晴らしい魔法を授けてくれて」

「ほんと、何て感謝すればいいのかしら」

「まあ、私にかかればこれぐらい朝飯前よ」


 村では大魔術師と思われているからな。面目躍如と言ったところか。カリンに教えた方法がそのまま通用してくれて、ほんと良かった。俺もほっと胸をなでおろす。


「お父さん、お母さん。私まだお師匠様の所で修業がしたいです。お師匠様の家にいてもいいですか」

「まあ、まだこれ以上上達できるの。カリンさん。セルンを預けてもいいですか」

「ええ、私はいいわよ。ユヅキ、いいわよね」

「ああ、セルンがいいなら俺はいいさ」

「ありがとうございます。娘をよろしくお願いします」


 引き続きセルンを預かって魔法の練習をすることになったんだが……今のままでいいのか? ご両親が家に帰っていくのを見送りカリンに意見する。


「カリン。なんでファイヤーボールって叫ばせて魔法使わせるんだよ」

「だってあれはファイヤーボールじゃない。魔法の名前を言ったっていいでしょう」

「いや、だからな、そんな詠唱はいらないだろうが。セルンも魔法の名前を叫びながら魔法使うのって恥ずかしいよな」

「私、お師匠様みたいになりたいです」


 これは、だめだ。最初にカリンから教わったのが悪かったか。こんな二世が誕生しちまうとは。


「セルン、いい。これがウインドカッターよ」

「はい、ウインドカッター!」


 その後もふたりそろって、魔法の名前を連呼しながら魔法を撃って練習……いや遊んでいやがる。


「ねえ~、そろそろ夕飯の準備をしますよ~」

「は~い」


 薬草採取に行っていたアイシャとチセも帰って来た。俺達は家に戻り食事の用意をしていく。


「アイシャ姉さま、チセ姉さま。私、またこの家で修業することになりました」

「まあ、そうなの。それは良かったわ」

「セルン。またあたしの部屋でおしゃべりしましょうね」

「はい」


 アイシャもチセも嬉しそうだ。それにセルンも笑顔で応える。この家にも馴染んで、みんなで食事するのが当たり前になってきたな。


「それでな、今日平原で魔法を見せたんだが、セルンも魔法の名前を叫びながら魔法を撃っていたんだぞ」

「カリンは最初からだったし、もう慣れたわね。別に気にしなくてもいいんじゃないかしら」

「そうですよ、師匠。セルンの好きなようにやらせてあげればいいと思います」

「そうは言ってもな~」


 この歳から中二病というのも困る。


「なに言ってんのよ。名前を口に出して魔法を撃つと、タイミングよく撃てるから狙いがつけやすいのよ」

「お師匠様がそう言っているんですから、私もそれでいいと思います」


 こんな能天気なカリンに付き合っていると、セルンまで頭が悪くなっちまうぞ。


「仕方がない、俺が魔法の神髄を見せてやろう。セルンこっちに顔を向けてみろ」

「なんですか、ユヅキおじ様」


 俺はセルンの顔に向けてドライヤー魔法を使った。


「あれ、これってドライヤーの魔道具と同じですよ。あれ、なんでですか」

「ユヅキさんはね、ドライヤーの魔道具の生みの親なのよ」

「すごいです。確か火と風は反発して発動しないはずですよね」


 魔法を使えるようになって日も浅いが、魔法の基本的な事は理解しているようだな。


「これは俺のオリジナル魔法だ。どうだセルンもやってみるか」

「はい、教えてください」

「もう、ユヅキったら。私の弟子を取らないでよ」

「セルンにも、カリンの魔法だけがすごいんじゃないって事を教えとかないとな」


 その後、セルンに動作原理を教えて練習したが、やはり難しいようだ。すぐにはできんだろう、何日か様子を見てみるか。

 1週間後。


「ユヅキおじ様。ドライヤーの魔法できるようになりました」

「ほぉ~、すごいじゃないか。やって見せてくれ」

「はい」

「うわ~、何だこれは」


 突風のような温風がセルンの指から出てくる。

 まだ親指を添えないとできないようで、杖を使って発動することは難しいそうだ。素手だとこうなってしまうのか。

 半端ね~な。


「でも、すごいな。ちゃんとできてるじゃないか」

「はい、すごく難しかったですけど、ユヅキおじ様の言った通りにしていたらできました。ありがとうございます」

「世の中は広いからな。カリン以外にもいろんな魔術を学べばいいさ」

「はい」


 素直ないい子じゃないか。

 次の日の朝。カリンが俺と裏山で狩りがしたいと言ってきた。セルンに実践的な魔法の使い方を教えるようだ。


「セルン。今日はここで鹿を狩るわよ」

「はい」

「向こうでユヅキが鹿を追い立ててこちらに誘導してくれるわ。その鹿に風魔法を使ってあなたが仕留めるのよ」


 いつもアイシャ達とやっている狩りの方法だな。セルンにはカリンがついているし危険はないだろう。6頭程の群れを追い立てる。


「カリン、そっちに行ったぞ」

「セルン。鹿が見えたらすぐに魔法を撃ちなさい」

「はい! み、見えました。ウインドカッター!」


 しかし林の木々に阻まれて鹿に命中せず、逃げられてしまったようだ。


「狙いをつけて左右から風の刃を曲げて撃ってみなさい」


 場所を移動してもう一度、俺が鹿を追い立てて狩りの練習をする。


「ウインドカッター!」


 また、木に邪魔されたようだ。


「セルン。素手で魔法を撃ちなさい」

「は、はい! ウインドカッター!」


 手に持っていた小さな杖を腰に差し、鹿に向かって手を振り上げる。巨大な風の刃が林の木をなぎ倒しながら、鹿を捉えて真っ二つにした。


「ほら、できたじゃない」


 できた、じゃね~よ。力技で鹿を仕留めやがって。魔法の練習に来てるんじゃないのかよ。まあ、いいか。初めてセルンが仕留めた獲物だ。


「セルン、獲物を村に持ち帰るぞ」


 内臓だけは取り出して、真っ二つになった鹿の半分をセルンが引きずって村に帰る。


「あっ、アイシャ姉さま。これ私が仕留めた鹿なんですよ」


 嬉しそうに初めての獲物をアイシャに見せに行く。


「セルン、鹿を真っ二つにしたらダメじゃないの! 革の価値が下がるのよ。それにちゃんと血抜きもできていないし、いい肉が取れないじゃない」


 アイシャに怒られて、セルンがウルウルと涙目になっている。


「まあ、まあ。セルンも初めてだし、そんなに怒らなくても」

「ユヅキさん! あなたが付いていて、これじゃダメでしょう」

「はい、すみません。私が悪かったです」

「最初が肝心なのよ。明日私が一緒に行って狩りのやり方を教えます」


 アイシャはお腹も大きくなってきているが、翌日俺やカリンと一緒に裏山に入り、狩りの方法をセルンにみっちりと教え込んだ。


「アイシャを怒らせると恐いんだからな」

「は、はい。私頑張ります」


 セルンも昨日のように木を切り倒すような大きな魔法は使わず、風の刃を曲げて鹿の首から上だけを狙って倒す。昨日とは違って魔法の名前を叫ぶこともなく、真剣に魔法を操っている。


 解体の方法も教えてもらい、血抜きをして獲物を村に持ち帰った。スパルタ教育ではあるがこれもいい勉強になっただろう。

 その後もセルンは実戦で経験を積んで、魔術の習得に努めていった。


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