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第69話 カリンの弟子1

「あの、カリンお姉さん。私に魔法を教えてください」


 村の女の子が家にやって来た。まだ幼い羊獣人の女の子だ。10歳ぐらいだろうか。魔法を教えてほしい? カリンにか。


「この私に教えを乞いに来るとは、あなた見込みがあるわね」


 数日前この村に、子供の魔力量を測りに魔術師協会から職員が訪れている。

 普通の町では、毎年子供の魔力量を測定するそうだが、シャウラ村のような辺鄙(へんぴ)な村には数年に一度しか来ないらしい。

 この子はその測定で大魔力があると測定され、魔術師学園に来るようにと案内状を渡されたという。


「それであなたは何の属性に適性があったの?」

「はい、私は火と風と土の属性が使えると言われました」


 この子の両親も来ていて、娘の事について話してくれた。


「実はこの子、小さい頃から魔法が使えなくて。魔力は無いものだと思っていたのです」


 大きな魔力はあるものの、魔法が発動しない……なるほど、カリンと同じ症状だな。


「カリンさん。是非娘を弟子にして魔法を教えてやってくれませんか」


 両親も娘を弟子にしてほしいと、祈るような尊敬のまなざしをカリンに向ける。

 カリンはこの村に来て大魔法を連発している。それを見ている村人は、カリンの事を名のある大魔術師だと思っているからな。

 実は成人しても生活魔法すらまともに使えなかった、落ちこぼれだとは知らないのだろう。


「お前、人に魔法を教えられるのか」

「何言っているのかしら。この大魔術師カリン様に不可能はないのよ」

「それでは娘に魔法を教えてもらえると。ありがとうございます」


 だがこの子は以前のカリンと同じで、今は魔法が全く使えない。じっくりと教えないとダメだろうな。


「カリン。この子に基礎から教えるんだったら、俺達の家に来てもらった方がいいんじゃないか」

「そうね。弟子にするって言うなら、一緒に生活した方がいいわね」

「うちで娘さんを預かってもいいですかね?」


 俺の問いに、ご両親は二つ返事で答える。


「それはもう。セルン、お前もいいかい」

「はい。私、カリンお姉さんの所で修業します」


 まあ、同じ村の中だ。家はすぐ近くだし問題ないだろう。

 ご両親が帰った後、食堂のテーブルを囲み改めて挨拶する。


「私はセルンと言います。10歳です。よろしくお願いします」


 クルッと丸まった羊の角が頭の横から生えていて、細長い耳が頭上から横に垂れている。髪の毛は灰色のクルクルのカールで、肩まで伸びていて暖かそうだ。

 俺達を見つめる目はクリッとしていて、その赤みを帯びたピンクの撫子(なでしこ)色の瞳が愛らしい。なかなか可愛い子じゃないか。


「俺はユヅキだ」

「私はアイシャよ。よろしく」

「あたしはチセです。よろしくね」

「ユヅキおじ様に、アイシャ姉さま、チセ姉さまですね。よろしくお願いします」


 俺はおじ様かよ。とほほ。


「私の事はお師匠様と呼びなさい」

「はい、お師匠様。まずは何をすればいいですか」

「外に出なさい。私の魔法を見て真似をすればいいわ」

「はい」


 元気よく外に出て行ったが、カリンの奴大丈夫かよ。


「見てなさい。ファイヤーボール!」


 カリンが人差し指をパチンと鳴らして火の魔法を空に放つ。


「やってみなさい」

「はい、こうですか」


 セルンが人差し指を鳴らしたが、何も起こらない。


「ファイヤーボールって言いながらやってみなさい」

「はい。ファイヤーボール!」


 やはり何も起こらない。当たり前だ。さっきお母さんが小さい頃から魔法が使えないと言ってたじゃないか。それに魔法を発動するのに詠唱は要らんだろうが。


「だからね、こうファイヤーボールって言ってね……」

「こら、カリン! おまえそうやって最初から魔法が使えたか」

「そういえば最初ユヅキに教えてもらったのは、こんなんじゃなかったわね」

「えっ、ユヅキおじ様に教えてもらったのですか」

「あ、いえ。こっちの話よ。え~と、セルン。まずは深呼吸してみなさい」

「はい、こうですか」

「そうじゃなくてね、両手をお腹に当ててお腹を前に膨らませて息を吸うの。え~と、何て言いうんだっけ」

「腹式呼吸な」

「そう、それ。セルン、やってみなさい」

「こうですか」


 言う事をよく聞く、素直でいい子じゃないか。カリンとは正反対だな。

 だが、セルンにとっては最初の呼吸の練習も難しいようだ。


「カリン。今日は初日なんだからそのくらいにして、家や部屋の案内をしてやれよ」

「そうね。セルン、あなたの部屋はこっちよ。来なさい」


 部屋は前にスティリアさんが使っていた部屋で、ベッドには寝具もあるし机も椅子もある。

 セルンには少し広すぎるかもしれんが、ひとりで暮らせる部屋だ。

 家の中を一通り案内して夕暮れ時、カリンはセルンに食事の準備を手伝わせる。どうも同じ家に住むなら、家の仕事もやりなさいと言う事らしい。


「セルン。あなたは今まで食事を作ったことはあるの」

「簡単なお手伝いならあります。でも火やナイフを扱うのは危ないって、触らせてくれませんでした」

「私の弟子になったのなら、全ての事が完璧にできないとダメなのよ」


 嘘つけ、お前の作る飯はまずいじゃないか。最近はアイシャに教えられて上手くなってきているが、最初は食えたものじゃなかったぞ。


「食事を作るのも、掃除、洗濯もちゃんと覚えなさい」

「はい、お師匠様」

「カリン。そんなこと言っても最初からできないでしょう。ねえセルン、ちょっとずつ覚えていきましょうね」

「はい、アイシャ姉さま」


 食事を終えて部屋に戻るセルンだが、なんだか不安そうだ。今まで家族と過ごしてきていたし、急にひとり部屋では寂しいかもしれんな。


「アイシャ。セルンと一緒にいてやってくれんか」

「そうね。あの部屋にひとりは可哀想ね。今日は添い寝をしてあげましょう」

「ああ、頼むよ」


 弟子ができたのはいいが、あのカリンが本当に教えられるのだろうか。俺には不安の2文字しか浮かばなかった。


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