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第67話 年越しのお祝い

 翌日、アイシャとタティナと一緒に家具などを買いに町へ行くと言ったら、カリンもついて来ると言う。


「タティナの服も買わないといけないでしょう。年末だし他に欲しい物もあるし」

「師匠。あたしもついて行きたいです」


 チセは昨日作った馬車のサスペンションの乗り心地を見てみたいんだな。


「まあ、いいか。じゃあみんなで町に行こうか」


 村は自警団に任せられるし、久しぶりにみんなでお買い物だ。もちろんキイエも一緒だ。


「あら、この馬車揺れが少なくなったわね」

「そうだろう。アイシャのために、昨日チセにも手伝ってもらって改造したんだ」

「馬車の下の所に、こんな大きな鉄の板があるんですよ。それがポヨンポヨンして揺れなくなってるんです」


 何かよく分からない説明だが、サスペンション付きの馬車など乗ったことないから仕方ないか。アイシャには毛布を四つ折りにしたクッションの上に座ってもらっているし、お腹の子に負担は掛からんだろう。

 作るのに少し苦労はしたが、街道までの細い地道でも馬車は静かに走ってくれる。俺はアイシャと子供のためなら、何だってするぞ! と腕の力こぶを見せてアピールした。


「ユヅキ、これなんだか変な揺れだわ。少し気分が悪くなってきた」


 カリンは車酔いなのかもしれんな。御者をしている俺の横に座らせて、風に当たらせたほうがいいか。


「アイシャは大丈夫か」

「ええ、快適だわ」


 おや、タティナも御者台に来て座るようだ。バランス感覚に鋭い者は車酔いすると言うがそのタイプだろう。すまんな。

 ドワーフの町トリマンに着く頃には、慣れてきたのか車酔いも治ったようだ。


「まず、タティナのベッドに敷く寝具を買いに行こうか」

「寝れるなら、あたいは何でもいいぞ」


 そうは言うが、寝ることは大事な事だ。フカフカの布団と枕を買った。枕には(こだわ)りがあるようで、抱き枕でも使えるんじゃないかと思える大きめの枕が気に入ったようだな。

 ひとり森の中を旅していた時は、荷物を抱きかかえて樹木を背に寝ていたらしい。その癖が抜けないようだな。


「次はタティナの服を買うわよ」


 カリンが張り切って服選びをしている。タティナはあまり服を持っていないようで、部屋着やらパジャマと村で歩く服、それと下着など色々選んでいるようだ。アイシャやチセも加わって、あれこれ見て回っている。


 これに関しては俺の出る幕はない。村人から頼まれていた買い出しでもしておくか。

 中央広場に行くと、年末のお祝いを知らせるポスターが貼り出されていた。もうすぐ年越しだ、この町でもお祭りのようなものをするらしいな。道行く人に聞くと、大晦日の夜この広場に住民達が集まるそうだ。


 トリマンの町での買い出しも終わり村に帰るが馬車の中、村での年越しのお祝いをどうしようかという話になった。この国の事はよく分からんし、帰ったら村長と相談してみるか。


「今までこの村では夜中に集まって、年越しなどの祭りはできなんだ」

「今この村の周りは木の杭で壁を築いて夜でも安心だ。しかし魔獣が襲って来る可能性はある。自警団と共に俺達が警戒をしよう」

「そうじゃな、警備の方はそちらに任せれば大丈夫かのう。じゃが、この国でどのようにお祝いしておるのか……」


 村以外で暮らした事のない村長は、町でどのようにお祝いしているか知らないと言う。最近まで町に住んでいた薬師のスティリアさんを呼んで、詳しく聞くことになった。


「この共和国では城壁の上に篝火を焚いて、真夜中の鐘8つの頃に住民が集まります。身に着けていた帽子やスカーフを空に向けて投げてお祝いをしますね」


 この国でもカウントダウンのような事をするらしい。


「その時に、『メルクメス、ジ・アベニュ』と言って投げるんですよ」

「どういう意味なんだ」

「メルクメスは1月の神様で、来てくれてありがとうと言う意味らしいです」


 なるほどな、それならこの村でもできそうだな。だが畑を含めたこの村の壁に篝火となると、すごい数になってしまうぞ。


「そうじゃのう……民家のある範囲だけで良いじゃろう。火を焚いておけば魔獣も近寄っては来ないじゃろうしな」

「それと、空に投げるガラス細工がある。俺の方からみんなに配りたいんだが」


 メルクメスの花火。あれを今年も作りたいとチセが言っていたしな。安全なガラス細工で、去年王国でも空に投げたと説明すると、スティリアさんは興味を持ってくれたようだ。


「まあ、素敵ですね。是非ともそれも空に投げましょう」



 年末、大晦日の夜。いよいよこの村始まって以来の年越しのお祝いをする。

 村の周りに煌々と焚かれた篝火の炎で広場は明るいな。俺達が警戒する中、中央広場の周辺にも篝火が焚かれ、子供達を含め集まってくる村長や村人達を照らしている。


 村長が1段高い台の上に登り挨拶する。


「今年、この村は大きく変わった。ユヅキさん達が来てくれたお陰で毒の川が綺麗になり、川向こうに広い土地ができた。村の周りを囲む壁ができてこうして年越しのお祝いをする事ができる」


 拍手が一斉に沸き起こる。


「新しい村の仲間も増えた。皆の努力が実を結んで村での生活が便利になり、快適に過ごせるようになった。伝承によればこのような時は神様に感謝を伝えるそうじゃ。皆と共に感謝を込めて年越しの祝いを行なおう」


 ――カンコ~ン カンコ~ン


 鐘8つの音が響く。

 村人が手にした、帽子やスカーフ、そしてメルクメスの花火を空に向けて投げる。


「メルクメス、ジ・アベニュ」

「メルクメス! ジ・アベニュ~」


 村人が口々に年越しのお祝いの言葉を夜空に贈る。

 俺もこの村に来れたことを感謝して呟く。


「メルクメス、ジ・アベニュ」


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