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第66話 タティナ帰還

 年の瀬も迫ったある日の夕方、村にダークエルフのタティナがひょっこり現れた。村長に会い、この村で暮らしたいと言ったそうだ。

 今夜は寄合所へ村人を呼んで歓迎会だ。


「お前、レグルスの武闘大会に出場してたんじゃないのか」


 ドワーフの町トリマンの武闘大会で優勝して、共和国の首都で行なわれた本大会に出ていたはずだ。


「ああ、準優勝したよ」

「え~、タティナより強い人がいたの」


 チセは、タティナに体術を教えてもらっていたからな。師範と仰ぐ者が負けるとは思っていなかったのだろう。だが国で2位なんだ、すごい事だぞ。


「ミスリルランクの冒険者で前回も優勝した者だ」

「まあ、私なら勝てたでしょうけどね。ちゃんと風の靴は使ったんでしょうね」

「ああ、全力を出したよ。あたいはそいつと戦いたくて、今回の武闘大会に参加したんだ。満足してるさ」

「そうなのね。タティナが満足したなら結果はどうでもいいわよね」


 アイシャ達も武闘大会の事など聞きたくて、タティナの周りを囲む。タティナはポツリポツリと大会の様子をみんなに話してくれた。


「でも、本大会は1ヶ月以上前に終わってたんじゃないの。あんた今までどこに行ってたのよ」

「本大会が終わった後、帝国にある故郷のお師匠様に会いに行ってたんだ」

「へぇ~、タティナの故郷って帝国にあるんだ」

「ああ、共和国との国境近くだがな」


 ダークエルフの里か~。タティナみたいな美人でボインボインなお姉さんがいっぱいいるんだろうな~。そう思っていたらアイシャが俺の腕をつねった。

 おかしい、今回は顔に出ないようにしていたはずだ。アイシャは俺の心を読むエスパーか!


「お、お前は強い奴を探して、いろんな国を旅してたんじゃないのか。この村に住むと聞いたがそれでいいのか」


 話題を変えて、少し誤魔化す。


「ユヅキ。あたいが今まで探していた強さは、本当の強さじゃなかったようだ。この村でまた一緒にユヅキ達と過ごして、本当の強さを身に付けたい」


 タティナの言っている事はよく分らんが、この村で一緒に暮らしたいと言うならそれもいいさ。俺達と同じく自分の思うように生きればいい。


「それじゃまずは、家を建てないとダメだな。どこがいい」

「寝る場所があれば何処でもいい」

「師匠、それならあたしの工房の横に建てたらいいんじゃないですか。一緒に稽古もできますし」


 確かに工房の倉庫の横に少し狭いが、家1軒建てられるだけの場所はあったな。


「それなら、食事やオフロを私達と一緒にすればいいんじゃない」

「そうだな、それなら家も小さくて済むしな。すぐにでも建てられるぞ」


 さすがに寝るだけの家とはならないが、家を囲む石垣も要らないし村人も手伝ってくれたらすぐできるだろう。


「それじゃ明日から、土台と地下室から作ろうか」

「ユヅキ、地下室は要らんぞ。住んでいた里にそんな物は無かったし、あたいはいつでも戦えるようにしている」

「それはダメだぞ。どんな魔獣が襲って来るかも知れない。ちゃんと避難する場所は必要だ」

「そうよ、タティナ。あなたに、もしもの事があったらみんな悲しむわよ」

「そうか、そうだな。あたいは簡単に死んではダメなんだな。なるほどこれは難しいな」


 まあ、タティナも納得してもらえたようで、俺達の家の敷地内に家を建てる事にした。しばらくはこの寄合所で寝泊まりしてもらうことになるが、年内には引っ越せるだろう。


 翌日からはタティナの家づくりをカリンと村の人達がしてくれる。それとは別に室内の家具や寝具を買いに町にいかないといけないな。


 アイシャがたまには町に行きたいと言っているし、俺は前から作りかけていた馬車用のサスペンションを仕上げてそれで町へ行こうと思う。アイシャにはできるだけ振動のない静かな馬車に乗ってもらいたい。


「師匠、これで何をするんですか?」

「チセは見たことないかもしれないが、貴族が乗るような高級な馬車には鉄バネが付いていてな、乗り心地を良くしているんだ」


 俺は前にアルヘナの町に来た馬車を間近で見たことがある。装飾も綺麗だったが人が乗るカゴ部分はしなる鉄の板で吊り下げていた。1枚の鉄板で単純だったがあれがサスペンションになるのだろう。

 鍛冶工房にニルヴァ君が来てくれたお陰で、大きな鉄材も作る事ができる。湾曲した細長い鉄の板を作ってもらい、それでサスペンションを作る。


「この曲がった鉄板を重ねて、車軸に取り付けるんだ」

「なんだか、面白い形ですね」


 2枚の湾曲した鋼鉄の板の両端を蝶番でつないだ卵型だ。これは1m程の長さになるが、これより短い鉄板を重ねることで強さを調整していく。

 ニルヴァ君が鋳造で、レトゥナさんが鍛錬と加工で仕上げてくれた、ふたり一組で作ってくれた品だ。


「これを馬車に付ければ、揺れが少なくなる。チセ、すまんが村の人達を呼んできてくれないか」


 俺達の馬車は幌付きの旅馬車で大型だ。10人の村の男達を呼んで来て荷台を取り外す。


「せ~の! よし台車を移動させてくれ」

「さすがにこの馬車は重いな。この台車にその鉄を付けるのかい、ユヅキさん」

「これだけの重量だが、4組付ければ支えられるだろう」


 短い板バネを上下に3枚追加したサスペンションを、車軸側に取り付ける。台車側にも取付用の穴を開けておいて、10人の村人と共に荷台を乗せる。

 後は金具で固定するんだが、その前に硬さを調整しないとな。


「10人荷台に乗って、中で跳ねてくれるか」

「師匠、なんかポワンポワンしますね」

「そうだろう。これで地面のガタガタを吸収するんだ」


 ちゃんと板バネがしなってサスペンションの役割を果たしている。これなら重い荷物を積んでも大丈夫そうだな。板バネは底付きする事もなく動作しているが、少し硬すぎるか。もう少し乗り心地を良くしたい。


「すまん、少し調整する。荷台の後輪だけ上げてくれるか」


 後輪を上げてジャッキのように木の台を差し込んで、板バネの上1枚だけを外して荷台を戻す。前輪も同じようにして今度は金具でしっかりと固定した。


「よし、村を走らせて試運転をしよう」


 みんなに乗ってもらって試運転したが、ちゃんと機能していて乗り心地もいいな。


「でも師匠。なんだか荷台が高くなって乗りにくいです」

「そうだ、忘れていた。後ろに階段を付けないといけないんだ」


 サスペンションの分だけ高くなったので、後ろの入り口に2段の木の階段を取り付ける。

 よし、これで完璧だ。この馬車で明日は町まで買い出しに行こう。


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