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第65話 レグルスの武闘大会

「メロウ様、奴は何者でしょうね」

「さあな、俺も初めて見る顔だ」

「たったひとりで、しかも女がここまで上がってくるとは」


 首都レグルスの本大会。今、準決勝で戦っているのはダークエルフの女だ。女だからと侮ったり驚いたりしているお前はそれまでだな。

 女剣士でも強い奴はいる。力では男に勝てないが、その速さ、剣技で凌駕してくる。俺の技のいくつかは女剣士の技を習得したものだ。


「それにしても、あの異常に速い走りは何なんでしょうか」

「あれは縮地という足技だな」


 噂で聞いたことがある。間合いを一瞬で縮める足技があると。初めて見るがあれは警戒しないとダメだな。


「この試合は、あのダークエルフが勝つだろう。あの女の情報は集めているか」

「はい、白銀の冒険者で旅をしながら国を巡っているようです」


 実力があっても国の仕事に関わるのを嫌い、黄金ランクにならず白銀のままでいる者もいる。

 だが、それでは強くなれんだろう。俺はミスリルランクだが、まだ上がいるのだからな。


「どんな戦い方をする」

「配下の者に全ての試合を見させています。あの女の魔法は火魔法しかありません」

「私は初戦の試合を見ましたが、その火魔法で相手3人を圧倒していました」


 二刀流で火魔法の使い手か。何年か前にそのような冒険者がいると聞いたことがあるが、最近は姿を現していないようだ。


「あの縮地は、初戦から使っていたか」

「はい、最初見たときは驚きました」


 習得した技を見せびらかして喜んでいるとは、若いのだな。そんな技は最後まで取っておくものだ。


「決勝戦は俺の他に2名を加える。準備しておくように」


 今までの試合では3人が一緒に出ることはなかった。体力を温存するため3人のうち2人が出て勝ってきている。

 それに引き換え奴はひとりで全ての試合を戦い続けている。決勝は明日だが今までの疲労が溜まっているだろう、俺の勝利は確実だ。


「なぜ奴は笑いながら戦いをしている」

「えっ、そうなのですか。私には必死に戦っているようにしか見えませんが」


 あの女は戦いのさなか時々笑っている。それが狂気なのか相手を見下しているのか分からんが、俺との戦いでその笑みを消してやる。



 今日の午前中には3位決定戦が行なわれて、決勝は午後、昼の鐘4つの後だ。今回も観客が満員だな。前回は大会を盛り上げるために参加してくれと依頼され戦ったが、日頃の任務とは違ってこういう雰囲気もいいものだ。


 あの、ダークエルフが会場に現れた。聞いていた今までの様子と変わることはない。昨日見た同じ2本の剣を腰に差し、決勝用の特別な武器を持ってこの試合に臨んでいるという感じではないな。


「さて、2年に1度となります今回の武闘大会も、いよいよ決勝戦となりました。

 決勝を戦うのは前回の優勝者でミスリルランクのメロウ様率いる剣士と槍使いの3人チーム。

 それに挑むは今大会のダークホース、魔法剣士のタティナ様。

 この戦い、今までにない素晴らしい戦いになるでしょう、観客の皆様も心ゆくまで御堪能ください」


 割れんばかりの大きな歓声がコロシアムに響き渡る。これほどの観客を集められる会場は地方都市にはないからな。初めて来る奴はこの雰囲気に飲まれてしまうものだが、目の前のダークエルフが俺を見てかすかに笑っている。


「その余裕、俺が消してやるよ」


 試合開始を告げるドラの音が鳴った。

 俺の横にいる剣士と槍使いが前に出てあの女とやり合う。まずは小手調べだ。

 このふたりは俺が見つけ出した黄金ランク冒険者で、俺の配下に加えた者だ。そこそこはやり合えるだろう。


 あの女が走り出したと思った瞬間、前のふたりが倒された。縮地を使ったのは分かったが、ふたり同時に攻撃を仕掛けたはずだ。だが左右の剣で受け止められ、体を回転させた瞬間に首元に剣を叩きこまれていた。

 前方のふたりを抜け、俺にも縮地を使って急接近してくる。


「速いな」


 観客席から見ていたが、実際目の前で見るとその速度は尋常ではない。だが昨日も見、今も前衛のふたりに見せた技だ。この俺には通用しない。

 奴の左右の剣を受け止め、体を斜めに開いて躱し入れ替わる。奴はそのスピードのまま離れ距離を取る。


 奴は火魔法を撃ってきたが俺の鎧は全魔法属性に対して耐性がある。強度をそのままに軽量化して動き易くした俺専用の鎧だ。


「その程度の魔法攻撃ではダメージはないぞ」


 魔法攻撃を受けながら俺は前に進み奴に迫る。


()うっ!」


 剣を持った右肘の部分に痛みが走る。鎧の薄い肘に集中して魔法を撃ってきているのか! 俺も止まっている訳ではない。その動きに合わせて弱い部分に攻撃を仕掛けるとはな。足首にも痛みがある。


「離れていては不利か……」


 一気に駆け寄り剣で勝負だ。間合いに入った瞬間、俺の剣技4連撃を食らわす。女剣士より習得した俺の必殺技だ。

 だが奴は上下左右の俺の攻撃を2本の剣で受け流し、あまつさえ俺の首に剣を打ち込もうとしてきた。

 体を沈めかろうじて逃れ、転がるようにして距離を取った。

 俺の技を凌いだだと……そんなはずはない!! この技は今まで見せていない。決勝のために取っておいた技だ。いや2年前の決勝で一度見せたか。その技で俺は優勝した。

 しかし一度見ただけで受け止められるほど、俺の剣は軟ではないはずだ。


「こいつは、それほどの剣士なのか……」


 俺がこの女の力量を見誤っていたと言うのか。距離を取った俺にまた魔法攻撃を仕掛けてきた。


「何だこれは!」


 奴の左右の剣から鞭のような連なった炎が俺を襲う。炎の鞭で鎧の関節部分を狙って巻きついてくる。集中的に狙われた腕の鎧が壊れた。そして横に振るわれたもう一方の炎の鞭が俺の目を狙ってくる。どんな鎧であれ目の部分は開いている。剣を持った右腕の鎧で目を防御する。


「ウッ!」


 防御した瞬間、縮地で間合いを詰められ鎧の無い左腕と足を強打された。片腕を上げた一瞬でここまでの攻撃を受けるとは。これではもう左腕は使えんな。

 だがこの程度で倒れる訳にはいかない。俺はミスリルランク冒険者だ。この国を守る連合騎士団所属の団長だ。


 奴に向かって剣を振り下ろすが最小の動きで剣を弾き、もう片方の剣で攻撃してくる。

 厄介な二刀流だ。フェイントも仕掛けてきて捉えどころがない。剣をまともに受けずに受け流すタイプだ。


「そういつまでも逃げ切れると思うな」


 俺は4連撃の剣技を仕掛ける。また左右の剣で受け流された。俺の技が完全に見切られているのか。大振りになるが力任せの横なぎで奴の胴を狙う。


「俺の剣を受け止めただと!」


 女だから碗力が無くて受け流していると思ったが、俺の剣を片手で受け止めて、カウンターで踏み込み俺の首を狙ってきた。僅かに躱したが兜が吹っ飛んでしまった。


 今のは俺の力量を測ったのか? 隙があったのに仕掛けず、俺の剣の重さを知るためにあえて受け止めたというのか!!


「うぉ~」


 俺は混乱し力任せの攻撃を続けた。4連撃を何度も仕掛け奴に撃ち込ませないよう連続で攻撃をする。

 何度も鎧の上から撃たれたが、頑丈な鎧に守られそれほどのダメージはない。何度目かの攻撃で、奴は足の踏ん張りがきかずよろけた。


 これを逃すか! 渾身の一撃を振り下ろす。奴は2本の剣で受け止めたが後ろに吹っ飛び背中を地面につける。

 試合終了のドラの音が響いて、観客の歓声が沸き起こった。


「武闘大会の優勝者はメロウ様! すごい戦いでしたが、やはり前回も優勝しているだけあってお強い。準優勝者のタティナ様もよく健闘されました。皆様、拍手をお願いいたします」


 割れんばかりの歓声の渦の中、ダークエルフの女も俺の隣に立ちその歓喜の声に応える。

 この後の表彰式まで、俺達は一旦このコロシアムの闘技場を降り控室へ向かう。その通路で俺と戦った女が声をかけて来た。


「いい試合ができたよ。ありがとう」

「負けたのに何をヘラヘラ笑っているんだ」

「そうか笑っているように見えたか。ユヅキのが移ったようだな」

「ユヅキ? 負けて悔しくはないのか」

「面白い試合ができて楽しかったよ」

「お前は俺と同類の上を目指す者だと思ったのだがな。それではいつまでも俺には勝てんだろう」


 そうだ、この試合で勝ったのは俺だ。


「あんたは、そうやって手に入れた力を何に使う?」

「何を言っている。俺は今もこの力を、この国を守るために使っている。この国の人々を守るためだ」

「そうかい。あたいは、あたいのために、あたいの好きなように力を使う。あんたの目指す力とは違うだろうな」

「だからお前はそこまでなんだ。自分の好きにだと……」


 俺は国のために力を使っている。だがそれは、俺が望んだことじゃないと言っているのか……。


「あたいは、どこの誰だか分からない者のためではなく、仲間のために力を使う。自分の手の届く信頼できる人達のためにだ」


 俺の上にはアダマンタイトランクの者がいる。その者に付き従う者はいるが仲間ではない。俺もそうだ、配下はいる。力を得るためには孤独に耐えなければならない、それが当たり前だと思っていた。奴の言う信頼できる者達とはどんな奴だ……。


 今回は俺の体力のお陰で勝てたようなものだ。こいつは俺と同じ高みを目指す者だというのは分かる。それを仲間の元で得ようとしているのか……。

 確かにこいつと戦っていた最中も、俺じゃない誰かを見ていたような気がする。


 通路を抜けて控室に入る。そこには俺の配下の者達が大勢いる。俺は控室の椅子に深く腰掛け、その者達の祝いの言葉を受ける。仲間ではない者達の中、俺は孤独に耐える。


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