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第64話 魔石2

「おはようございます、師匠。朝食を食べたらすぐに炉を立ち上げますね」

「ああ、そうだな。今からだと昼過ぎにはガラスが作れるな」


 炉に火を入れるのも、ずいぶんと慣れてきたものだ。さて炉のガラスも溶け、チセが魔弾のガラス球を作っていく。

 魔力を取り出す両端を魔石のガラス球から外に出すのだが、魔獣によって魔石の大きさは様々だ。一方、魔弾にはピークがあるから、ガラス球の大きさは段階的になってしまう。


「まあ、仕方ないですね。2種類の魔弾を作って、どちらかに合わせましょう」


 魔弾は半球の形で作られる。魔石に合わせガラスに穴を開け、魔石を組み込む。

 2つのガラス球の間に、ガラスフリットというガラスの粉を付けて低温で焼くと、ガラスの粉が溶けて半球同士が溶着する。その際に正確に張り合わせないと魔弾としての機能を失う。


 まあ今回は、1時間程度魔力が封じられればいいので、それ程の精密さは要らないのだが。ガラスを作っていると、工房に誰かが訪ねてきた。


「こんにちは。ユヅキさん、チセさん」


 ニルヴァ君が昨日依頼した銀の端子を、工房まで持ってきてくれたようだ。


「まず、この銀が使えるか試してくれますか」


 銀貨を溶かして作った銀だ。その純度が問題になってくる。魔石につないでみると、問題なく魔道部品は動作した。


「すごいもんだな。銀の純度もそうだが、銅線がちゃんとくっ付いているな」


 約2cm四方の薄い銀の板に、銅線が見事に溶着されている。銀貨から取り出せた銀は少量のはずだから薄くなるのだが、破れている箇所もなく俺の要望通りに仕上がっている。


「そうでしょう。レトゥナさんの鍛造技術はすごくて、ハンマーの扱いが上手いんですよ。銅線も適切な温度で熱して接合部分が美しいでしょう」


 ニルヴァ君はその技術に惚れ込んで、自分は鉄を溶かす事を専門にしようとこの村にやって来たんだったな。ふたりで一流の鍛冶師を目指すんだと張り切っていた。


 ニルヴァ君が帰って行く後姿を見ながら、チセが小声で俺に言ってくる。


「ねえ、ねえ、師匠。あのふたり、いい雰囲気ですよね」

「ニルヴァ君とレトゥナさんか。鍛冶工房ではいつも仲良くしているがな」

「レトゥナさんの話をしている時、顔がにやけてたと思いませんか」


 そうなのか? チセはのろけ話に聞こえたようだ。この作ってくれた端子を見ると、その技術を褒め称えたいと思っても不思議じゃないと思うんだがな。



 早速持ってきてくれた端子を魔石に取り付けよう。溶けたガラスで魔石に溶着するのだが、これなら俺にもできそうだ。


「チセ、それは俺にさせてくれんか」


 作る魔弾はまだまだあるからな、少しは手伝わんと。

 チセに教えてもらい、火傷しないように大きなピンセットの道具を使いながら、チョンチョンと溶けたガラスをくっ付けていく。


「これは、面白いな」


 ガラス細工の体験教室のようで楽しい。チセと協力し、いくつもの魔石入りの魔弾を作っていく。


「師匠、できた魔石の実験をしましょうか」


 今度は火属性の魔石で、カリンに魔力を入れてもらった。魔弾のガラス球が赤くなり、魔力が封印されているのが分かる。

 前はエアウルフで風属性だったからな。火属性は危険ではあるが、見て確かめるには都合がいい。


 魔力が吸収されるまでの時間は、砂時計と日時計で測っている。やはり1時間ぐらいは掛かりそうだな。

 魔石の位置を変えたりと、色んな形の魔弾を作り試しているが、なかなかいいデータが取れそうだ。


 魔石1つにどれくらいの魔力が吸収できるかも分かってきた。魔石の大きさで変わってくるが、小型魔獣の魔石だと吸収できるのは中級魔法が2つ分程度。それ以上は吸収できないようだ。

 色が濃くなったフレイムドッグの魔石を杖に接続してみると、杖の先に初級魔法程度の火の玉が現れた。


「いつも、フレイムドッグが撃ってくる炎と同じ大きさですね」

「これ以上は大きくならんようだ。これが最大出力の魔力みたいだな」


 魔石には中級魔法の魔力が溜まっているが、一気に放出はできないようだ。さっきヒビが入った魔石を岩に叩きつけて壊してみたが、魔法が発動することはなかった。

 この点、魔弾とは根本的に違うようだ。だがこれなら、誰もが安全に使うことができそうだ。


「ねえ、ねえ、師匠。今度はアタシの風の靴に、これを接続してみませんか」

「おお、それはいいな。魔力を使わず体が浮くかもしれんぞ」


 早速、足先の銅の網に魔石から出た銅線を接続して、風の靴のスイッチを入れてみる。


「チセ、浮かび上がったか?」

「はい、大丈夫です。背中を押してくれますか」


 チセの背中を押すとホバークラフトのように進むことができる。


「成功だな」

「師匠。スイッチを入れると足の指先がチクチクする感じがあります。魔力が逆流してきてるんでしょうか」

「そうだな。魔石は接続するとずっと魔力放出しているみたいだしな。人が触る場合は注意が必要だろうな」


 だがこれなら魔力電池のような使い方ができそうだ。充電式の魔力電池だ。


「チセ。これが実用できそうなら、この国の職人ギルドに登録した方が良さそうだな」

「そうですね。公開して広く使ってもらった方がいいですね」


 その後、魔石とガラス球の色々な形を試してみて、楕円形の魔石の中央部だけをガラス球で覆い、全体は木の筒に納める。中級魔法を2回分貯める時間は、鐘半分の1時間半までに短縮できた。


「師匠。これなら魔石で動くエアバイクも作れるんじゃないですか」

「そうだな。一度は諦めたが、できるかもしれんな。チセ、早速作ってみようか」


 前に作ったカリンのエアバイクと同じ構造だから本体はすぐにできた。エアバイクの底に6つある魔道部品にそれぞれ小さな魔石を接続する。

 推進用には火魔法ジェットを3方向にくっ付けた、スラスター型ジェットを車体の前後に取り付ける。これにはキリン牛から取った大きな魔石を接続している。

 その制御はドライヤーの中の部品を使うことにした。これで火魔法ジェットが簡単に操作でき、前後左右自由に移動することができるぞ。


「チセ、試運転だ。アイシャとカリンは見ていてくれ」


 チセが操縦席で俺が後ろに座り、メインスイッチを入れると車体が浮かぶ。次に床のペダルを踏むと前に進んでくれた。ブレーキも動作するし左右に曲がる事もできる。レバーで切り替えるとバックすることもできた。


 チセは最初ヨタヨタしていたが、慣れるとスムーズに操作している。

 ジェットスラスター型なので、左右に曲がるときも車体は傾けず自動車のように曲がる。バイクの感覚とは少し違うが、慣れればそれなりに操縦できる。


「ユヅキさん。それ面白そうね」


 アイシャはお腹が大きいので、俺が後ろに乗せてゆっくりと走らせて楽しんでもらった。カリンも乗ったがやはり感覚が違うのか、自分のバイクの方がいいと言っている。


「カリン、それなら火魔法ジェットを後ろ側だけに付けるのはいいか? 今より速く走れるぞ」

「うん、それならいいわよ」


 ついでだ、カリンのバイクも改造して空が飛べるぐらい速くしてやるぞ。改造は男のロマンだからな。



 その後、ガラス球付きの魔石は、『魔力電池』と言う名前でトリマンの職人ギルドに登録することにした。正確には電池ではないのだが語呂もいいし、商品名は開発者が自由に決めていいからな。


 大きさを統一した外枠のサイズを決めて交換も簡単にできるようにする。魔力を簡単に入れられる注入機も一緒に登録した。

 魔弾と同じで魔力電池に魔力を入れるのは魔術師だ。スティリアさんとチセについて来てもらい魔術師協会で説明する。


「なるほど、すごい発明ですね。魔石を使い捨てることなく、一定の魔力を放出する魔力電池ですか」

「これに魔力を入れるのは魔術師協会の魔術師さんになると思う。協力をお願いしたい」

「我々魔術師の雇用を生み出すことですし、それに後れを取っている王国に輸出もできます。ぜひ協力させてください」


 魔道具関連は王国からの輸入に頼っている共和国にとっても、いい事のようだ。職人ギルドと協力して製造をしてくれる事となった。


「師匠。また1つ不思議を解明することができました。ありがとうございます」

「チセが魔石の使い方に気づいてくれたお陰だ。俺も楽しかったよ」


 みんなの役に立つ研究ができて良かったとチセと共に祝う。

 その後、魔力電池は広く一般的に使われるようになり、どこにでもある商品となった。その便利な商品を開発した者の名を知る人はほとんどいない。


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