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第62話 超音波振動2

 作ってもらったキリ型の六角レンチを、剣の六角ネジの穴に合わせて切断する。

 先端から徐々に太くなっているキリを超音波振動のナイフで切るのだが、切りすぎると穴に合わず使えなくなる。

 レトゥナさんが苦労して作った物だ。ここで失敗する訳にはいかない。慎重に何回か切断してネジの穴に合った六角レンチを作る。


「おっ、この大きさで入りそうだ」


 六角レンチを差し込んで左に回す。少し硬いがネジに油を付けて徐々に回していくと、やっと細長い黒いネジが抜けた。材質は鉄ではなくカーボンか?


「すごい精密なネジだな」


 遊びの少ない鋭いネジ山だ。この世界で製造することのできない部品だな。これを壊したり無くさないように、小さな木の箱に保管する。もう1ヶ所も同じようにしてネジを外す。


「これで柄が分解できるはずだが……」


 柄を色々な方向に動かしてみるが、なかなか外れない。上下に引っ張らずに、横にスライドするように引き抜くと、無事柄を上下に分解でき、その柄に隠されていた刀身部分が現れた。

 日本刀なら製作者の名が刻まれている部分だ。


「んっ、何だこれは?」


 その刀身の柄頭(つかがしら)側、3分の1ほどの部分に透明なガラス容器が埋め込まれていて、中に透明な液体が少しだけ残っている。

 これが燃料か?


 そのガラス管は長さ5cm程で平たく、上下を柄に押さえられ刀身部分をくり抜いた形で収まっている。よく見ると左右二つの部屋に分かれていて、底には電極が見える。他の装置も刀身に埋め込まれているようだが、見る事はできんな。


「電気分解で水素を得ているのか?」


 水素であれば燃料として使えるが、単なる燃料電池では電気分解するためのエネルギーの方が多くなるからダメなはずだ。


「すると常温核融合か?」


 4重螺旋のナノチューブ内に電離水素を送り込み、亜光速に加速させた原子核をぶつけて核融合させる方法だ。

 理論的には確立されていたが、それを使っているのか?


 4つの水素原子から1つのヘリウム原子、または2つの重水素を作る。どちらの核融合になるかは2分の1の確立だが、その際の電子の対消滅による熱エネルギーや質量変換によるエネルギーを利用する。核分裂のような放射能が出ることはなく、普通に太陽の中で起こっている現象が再現される。


 常温核融合なら効率よくエネルギーを得られる。必要な時に必要な電力を得るシステムだから、燃料となる水素も少なくて済む。このガラス容器程度の水があれば今まで使ったエネルギーを賄うには充分じゃないか。


「すげ~技術だな女神様。あんたはファンタジー系の神様じゃなく、未来系の神様だったのかよ」


 それならガラス管に水を注入するための穴があるはずだが。調べると底面に穴を塞いでいる六角ネジがあり外すことができた。


「中の液体が水か確かめないとな」


 ネジを外して中の液体を器に移す。少量だったがアルコールのような臭いはしない。無色透明な液体で触ってみたが、粘りも無く油ではないようだ。


 どのみちこのままでは超音波振動は起動しない。水を入れて確かめよう。

 口が小さいので苦労したが、なんとかガラス容器に水を入れることができた。

 水タンクのガラス管のネジを締めて、しばらく様子を見る。確かに電極に泡が付いている。水素と酸素だろうが思ったより少ないな。


「電気分解ならもっと泡が出るはずだが」


 川の水を入れたが、綺麗すぎたか? ある程度の不純物が無いと電気は通らんからな。


「塩でも入れてみるか」


 ガラス管のネジを開けて塩を少し振り掛けてネジを締める。


「おっ、泡が出ているぞ」


 さっきと違って電極から大きな泡が出て上に昇っていく。やはり電気分解で水素を発生させているようだ。これなら大丈夫そうだな。

 柄を元に戻してネジを締める。柄を両手でギュッと握ってみる。


 ――ブゥ~ン


「おおっ、復活したぞ!」


 あれだけの水をタンクに入れたから、これから先当分の間動作し続けるだろう。

 その後、ナイフも同じように分解して、水を追加しておいた。



 女神様も人が悪い。こんな技術があるなら、もっと強力なポジトロンライフルやビームソードをくれても良かったんじゃないか。


「まあ、モフモフのこの世界では、剣の形が一番いいか」


 何にしても、女神様にもらった唯一のチート武器だ。大事に使わんとな。

 鹿革の帯を柄に巻き付けて元通りにする。


「まあ、綺麗に仕上がったわね」


 アイシャが声をかけてきてくれた。


「ああ、俺の大事な剣だからな」

「そうよね。私をサーベルタイガーから守ってくれた剣だものね」


 そうだな。この剣があったからアイシャを助けることができた。何も分からずこの世界に来て、この剣のお陰でアイシャに出会えた。そう思うとこの剣が愛おしくなってくる。


「これからも、この剣でアイシャを守っていくよ」

「ええ、お願いしますね」


 俺の手の届く範囲だけでいい、それを守れる力があればいい。俺にはこの武器が一番合っているのだろう。ありがとう女神様。今の幸福をくれた女神様に感謝した。


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