第61話 超音波振動1
どうも最近、剣の調子がおかしい。柄を強く握ると超音波振動が起動して唸るはずなのだが。
――ブ ブゥ ブゥ~ン ブゥ……
動作する時と、しない時がある。
「ずっと、使い続けているものな」
女神様からこの剣をもらって以降、色々と便利に使い続けている。
岩を切ったり、最近は村の木の壁を作るために、この剣で大量の樹木を伐り倒したしな。
そういえば俺は、この剣の事について何も知らない。説明もされずに、この世界に放り出されちゃったからな。
だが超音波振動している事は間違いない。するとそのエネルギーは何だ?
魔法か? いや俺は魔力を流していないし、俺が魔法を知る前から超音波振動していた。
すると科学的なエネルギーか?
今まで、あまり疑問に思わなかったが、こんな動作をするには相当なエネルギーが必要だ。外部から燃料を入れたり、電気で充電したりなどしていない。この剣にはそのエネルギーを生み出す何かがあるはずだ。
「少し調べてみるか」
内燃機関があるとすると柄の部分だろう。だがこんな太さの握りの中にそんな装置があるのか?
まずは使い込んで手になじんだ柄の鹿革を解いて、金属の柄本体を見てみる。
「あら、ユヅキさん。剣の手入れ」
「ん~、そうなんだが。革の汚れがなかなか取れなくてな」
「それならこの油を使うといいわよ」
アイシャにもらった油を布に染み込ませて柄の部分を拭いて綺麗にすると、女神様にもらった当時のようにピカピカになった。
日本刀のように目釘のような物で刀身と固定されていれば、分解できるんじゃないかと丹念に柄を調べていく。
目釘のような丸い筋が2ヶ所ある。日本刀と同じ作りならこれがピンになっているはずなんだが。
「これを叩けば、ピンが抜けてくれるか?」
試しに細い木を当てて軽く叩いてみたが動く気配はない。
よく見ると丸い筋に1ヵ所小さな溝がある。キャップを外すときにドライバーを差し込んで開けるような溝だ。
「だがこれは、細すぎるな~。精密ドライバーでも入るかどうかの溝だな」
確か魔道弓の試作品を作った時、木に穴を開けるためのキリを作ってもらったことがある。あの先ならこの溝に入るかもしれないな。
「確か鞄の中に入れておいたはずだが。おっ、あった、あった。このキリの先端を引っ掛けて開けてみるか」
キリの先は溝に入ったが、これも動く気配がない。キリの先端が潰れそうだ。上に開けるのではなく回すのか? 先端を入れたまま左右に動かしてみる。
「おっ、動きそうだぞ」
左回りに力を入れるとキャップのような物が回ってくれた。本来は専用の工具がいるのだろうがキリでもなんとかなりそうだ。
慎重に回すと、その丸い物は確かに蓋だった。蓋が外れて中を見ると六角穴のネジがある。
「六角ネジだと。これは工業製品か?」
この剣は女神様からもらった物だから、チートでこの世界に無い物ではあるが……こんな工業製品のような物だとは思ってもいなかった。
「だがこのネジは厄介だな」
ネジに合った六角レンチが必要になってくる。しかも小さい。俺の知っている規格の物とは少し違うようだ。
これは、鍛冶師のレトゥナさんに作ってもらうしかないな。
「レトゥナさん、すまない」
「あら、ユヅキさん。何か御用でしょうか」
「キリの先端が、こんな六角形の物を作ってもらいたいんだが」
「それだと、穴が開かなくなりますよ。それに持ち手は横向きですか。変わってますね」
力を入れて回しやすいようにTの字で持ち手を付ける。確かにキリではないが先端が尖っているし、キリと言った方が分かりやすいだろう。
「それでいいよ。先端のここからここまでを正確に六角形にしてほしい。焼き入れも頼みたい」
先端は柄にあった六角ネジより細くし、徐々に太くしてもらう。どこかの部分で太さが合う所があるはずだ。
「すごく細かな作業になりますね」
「できそうか」
「何とかやってみます」
「そうだ、レトゥナさん。材料の板金を貸してくれるか。キリの部品が作りやすいように細く切っておこう」
レトゥナさんは鋼鉄の板金を熱してハンマーで叩いて鉄製品を作っている。
作業をやり易くするため、俺のナイフで板金を細長く切る。ナイフの方はまだ超音波振動が動作しているからこれを使えば簡単だ。
「鋼鉄を切るなんて、すごいですね。これが剣技と言うものですか」
まあ、ちょっと違うんだがな。ついでに剣の柄の部分にある蓋に合う精密ドライバーも作ってもらおう。
工具を作ってもらっている間、俺は自分の部屋に帰ってナイフを手にする。
「このナイフも、調べておくか」
剣と同様にこれも超音波振動するから、同じような作りになっているはずだ。
女神様からもらったナイフはサバイバルナイフ型で、刃は黒く包丁ぐらいの刃渡りだ。一体となっている金属の柄の部分を、油で綺麗に洗って調べてみる。
やはり剣と同じような丸い蓋が2ヵ所ある。手持ちのキリを溝に入れると回るようだが、キリの先端が潰れてもう使い物にならない。新しい工具を使って後でこちらも分解するようにしよう。
さて、そろそろ工具ができた頃か。夕方、レトゥナさんの工房へ行く。
「どうだい、できたかい」
「はい、多分これで大丈夫だと思うのですが」
先端から徐々に太く、正確な六角形に仕上がっている。なかなかにいい精度じゃないか。手作業でよくこんな製品を作れるものだな。頼んだのは俺だが、その技術力には感嘆する。
「ありがとう、苦労をかけたな」
「いえ、いい勉強になりました」
笑顔で応えてくれたレトゥナさんに礼を言って、作ってもらった物を家に持ち帰った。じゃあ、早速剣を分解してみようか。




