第51話 村に来たダークエルフ
「武闘大会、面白かったな」
「そうね、こんな大きなお祭りだとは思わなかったわ」
「賞金ももらえたし、美味しいものも食べれたしね」
「大道芸人の人たち面白かったです。また見たいです」
俺達はトリマンの町の武闘大会を堪能して村に帰ろうと、馬車で城門へと向かった。城門は帰る人が多く混雑していたが、そこに昨日戦ったダークエルフのお姉さんがやって来た。
「あんたら旅をしてるのか?」
「あら、昨日の……。今から私達の村に帰るのよ」
「あたいを一緒に連れて行ってくれないか」
「ん~、一体どうしたんだ。金でも失くしてヒッチハイクか?」
リュックを背負い、ほとんど荷物を持たずバックパッカーのような井出達だ。ここで優勝した者は、首都のレグルスへ行って本大会に参加しないといけない。だが俺達の行く方向は逆だぞ。
「あんたらと一緒に冒険者の仕事がしたい。一緒にパーティーを組んでくれないか」
「村に行っても冒険者の仕事は無いわよ。杭打ちぐらいならあるけど」
「それでもいい、しばらく修業させてほしい」
「そうは言ってもな~」
「いいじゃない、ユヅキさん。困っているみたいだし。お乗りなさい」
「まあ、いいか。村の仕事ならいくらでもあるからな」
「すまない、あたいはタティナという」
挨拶を交わして、ダークエルフのお姉さんを乗せて村に向かう。
「タティナ、首都の本大会はどうするんだ」
「まだ1ヶ月ある。その間に修業するつもりだ」
「俺達とか?」
「そうだ、今回の大会であんたらより強い奴はいなかった」
「分かってるじゃない。私ひとりでもあんたに勝てるわ」
「あんたひとりじゃ無理だな。あたいはあんたらのチームとしての強さに関心があるだけだ」
「なによ。本気の私を知らないくせに」
「本気であろうと、1対1ではあたいには勝てないよ」
「こっの~」
「まあ、まあ。カリン。そんなに怒るなよ。だが、修業と言っても俺達は何も教えられないぞ」
タティナは強い。それは試合をした俺達がよく知っている。教えられる事など無いんだがな。
「それでもいい。あんたらと一緒にいてあたいが見取る」
「師匠、あたしと同じです。近くにいてその中から、自分で学ぶんですよ」
「それなら私の事を、師匠とお呼びなさい」
「あんたはお師匠様じゃない」
「いちいち腹立つわね。村ではちゃんと仕事すんのよ」
「宿代と食料のお金は支払う。あんたらと一緒の仕事ならしよう」
「一時的でも村に住むなら、村長に聞いてからになるが、俺達の仕事を手伝うと言うなら許してくれるだろう」
「ところでタティナはどこに住んでるの」
「あたいはだな、旅をして……」
こうしてダークエルフのお姉さんと知り合いになれたんだが、この世界に来て初めて見るダークエルフ族である。
美人でムフフなお姉さんだし、スタイルもいい。胸はアイシャより少し大きいか。モフモフではないがこういうのもいいなと思っていたら、アイシャが俺の腕をつねってきた。アイシャ! なんで俺が思っていることが分かる!
村に着いて村長に話すと、村に滞在しても良いと言ってくれた。
住まいは寄合所に簡易部屋を作って、そこに住むようだ。村の食材を買って食事も自分で作ると言っている。
「ここじゃなくても、俺の家に泊まってもいいんだぞ」
「いや、あたいは修業のためにここに来ただけだ。ここで充分だ」
「首都レグルスの本大会もあるんだろう、いつまでこの村にいるんだ」
「そうだな、大会の数日前にはレグルスに着きたい。移動を考えるとこの村には4週間ほどの滞在となるな。その間、世話になる」
こちらの世界の1週間は8日だ。修業するには充分な時間だろうが、俺達といて修業になるのか? ここでは人相手の戦闘など無いんだがな。
「早速だが、明日は村の周りの壁を作る。タティナも手伝ってくれるか?」
「ああ、分かった」
翌日は村の人達と一緒に村を守る壁作りをする。壁と言っても魔獣が越える事のできない高さ7mぐらいの木の杭を埋める。町の城壁代わりとなる木の壁だ。
「じゃあ俺が木を切るから、穴を掘っておいてくれ」
カリンが魔法で人の背丈ほどの穴を掘り、村人が底に石を詰める。俺はいつものように超音波振動を起動させた剣で木を倒して縦半分に切っていく。
「それが、お前の剣技なのか」
「剣技と言う程のものではないさ。自分にできる事で村の仕事をしているだけだ。タティナも炎が使えるなら乾燥の手伝いをしてやってくれ」
切った木の根元だけ炎を使って乾燥させ、土より上の部分はそのまま自然乾燥させる。
タティナも剣で木を伐り倒したいようで、俺と同じ太さの木に剣を振るったが、半分程しか切れていないようだな。
「何やってんのよ。こうやんのよ」
カリンが風魔法で伐り倒すが、タティナは火魔法しか使えないと言う。
「それなら試合の時みたいに、剣に炎を纏わせなさい。風の刃のように刃先を薄く集中させるのよ」
「そうだな。それと剣を2本操れるなら、全く同じ所を斬れないか」
「よし、やってみよう」
俺とカリンからのアドバイスを聞き両手の剣に炎を纏わせる。全く同じ剣筋で木を斬りつけると、今度は杭に使えそうな太い木が斜めにずれて倒れていく。
さすがだな。少しの助言でできなかった事をすぐに習得するとは。
「こら、タティナ。そっちじゃなくて、こっち側に倒しなさい」
まあ、まだ慣れていないのだから仕方無いか、木こりの仕事などしたことは無いだろうからな。その後は、大勢の村人と共に木の壁を築いていく。
壁とする木の杭は成獣の魔獣が通れない程度に間隔を空けている。城壁のように完璧でなくとも、村の周りに早く壁を設置したい。
それに壁の向こう側にある魔の森の様子を見るためにも、杭の間隔は開けておいた方がいいしな。
川の西側、新しく作った畑の壁はかなり完成に近づいてきた。この調子で村全部を囲うのだが、まだ時間は掛かりそうだな。
「今日はこの辺りまでにしようか。みんなお疲れ様」
「そうね。今日一日で大分進んだし、後はゆっくりオフロに入りましょう」
「オフロ?」
王国を旅していたと聞いたから、知っているかと思ったが風呂に入ったことは無いようだな。ここの風呂は広くて気持ちいいぞ。
「公衆浴場があるから入るといい。アイシャ達も一緒に入って風呂の入り方を教えてやってくれ」
「そうね。初めてだと分からないでしょうからね」
「師匠その後、寄合所でタティナの歓迎会をしませんか」
「おお、そうだな。風呂上がりに酒を飲んで、一緒に飯を食おう」
「それはいいわね。さあ、タティナも早く行きましょう」
村の壁づくりを終えて、俺は歓迎会の準備をする。タティナも初めて入った風呂が気に入ってくれたようだ。
この村にいて修業になるかは分からんが、村に馴染んでみんなと仲良く過ごしてくれればいい。俺達やタティナ、村人と共に行なった歓迎会は楽しく、いつしか夜が更けていった。
お読みいただき、ありがとうございます。タティナのイラストを投稿しました。
【設定集】目指せ遥かなるスローライフ! を更新しています。
(第2部 第2章 51話以降) イメージイラスト(タティナ)
小説の参考にしていただけたら幸いです。




