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第45話 エアバイクで港町に行ってみよう

 今日は、完成したエアバイクで港町まで行ってみる。


「ユヅキさん、気を付けてね」

「カリン。無茶な運転したらダメだからね。師匠に怪我させたら許さないわよ」

「大丈夫よ。何度も練習したし、ユヅキにバイクの改良もしてもらって使いやすくなっているもの」


 俺も、自分の作ったエアバイクで遠出できるのは楽しみだ。ヘルメット代わりの兜をかぶり、後部座席に座る。


「今日の夕方前には帰ってくる。お土産も買って来るからな」


 みんなに見送られて、カリンのエアバイクは走り出す。

 しばらく東の林の道を走り、その先にある魔の森から港町に続く真っ直ぐな道に入る。


「カリン、すごいな。こんな道をお前ひとりで造るとはな」

「そんな難しくないわよ。エアカッターで木を外側に倒していくだけだもの」


 カリンの魔術は技術も向上し、精度も上がっているからな。

 この道も木の根元から倒されて、平らで真っ直ぐな道ができている。普通の魔術師にはできん技だ。

 しばらくは木が生い茂る森の道を進んでいたが、そこを抜けると草原が広がっていた。多分ここは人が誰も入ったことのない手つかずの場所だ。


「すごいな、この景色」

「そうでしょう。小さな丘があって上下するけど、ここからは見晴らしのいい平原が続くのよ」


 片側は山に続くなだらかな坂で、反対側は深い森になっている。たぶんこの森の向こうが街道になっているのだろう。

 街道や村から見えない開けた場所を港町に向かって一直線で進む。


「もう少しスピードを出してもいいんじゃないか」

「そうね。このバイクの性能を試してみましょうか」


 限界まで速度を上げることはしないが、どの程度までなら安全かを知っておくのもいい事だ。カリンはスピードを徐々に上げていく。


「風をまともに受けないから、かなり速く走れるわ。でもこれで急に曲がったりすると危ないかもしれないわね」

「そうだな、これぐらいでいいだろう」


 前世の一般道を車で走る程度の速度は出た。道路でない土の道でこれぐらい走れれば充分だ。これならどんな魔獣でも追いつく事はできないだろう。

 前方に川が見えて来た。少し速度を落とすが、そのまま水しぶきを上げながら進んでいく。


「これはいいわね。ほとんど水がかからなかったわ」


 バイクの形状もあるのだが、左右に水が分かれて乗っている者には水がかからない。風の靴だけだと、靴やローブの裾に水がかかってしまっていたそうだ。

 しばらく草原を進んで行くと、また森の中に入って行った。


「この森を抜けると、港町よ。お魚の匂いが強くなってきたでしょう」


 お魚の匂い? ああ、この潮の香か。カリンはこの匂いを頼りに港町までの最短ルートを見つけたんだな。スゲー奴だな。ただ単に食い意地が張っているだけとも言えるが。

 森の道を抜ける手前、街道と港町が見えてきた。


「エアバイクはここに隠していこう」

「そうね。珍しいからって寄ってこられても面倒だわ」


 港町までは、ここから歩いてもさほど時間はかからないが、カリンに引っ張ってもらって高速移動で港町近くまで行く。


「いつもより、早く着いたわね」

「村を出てから鐘半分ぐらいか。まだまだ昼には時間があるな」

「そうね。それに体が楽だわ。魔力をあまり使っていないのかしら」

「ふたり乗りだし普段より魔力は使っていると思うが、魔力を効率よく使うようにしてるからな。風にあまり当たってないから、体力を使わなかったんだと思うぞ」


 バイクでは直接体に風を受け続けると、それだけで体力を失う。風除けのカウルもあるし、服も肌に直接風が当たらないような物にしているから楽だったんだろう。


「今日は、どこのお店に行こうかな」

「お前、今までそうやって何回もここに来て食べ歩いていたのか」

「まあ、それは謝るけど。お魚が私を呼んでいるの、仕方のない事だと思うわ」


 ほんと、お気楽なやつだ。まあ、今さら言っても仕方ない。俺も久しぶりの港町を楽しむか。


「カリン。前来た店とは違うが、この店の魚料理も美味いな」

「そうでしょう。まだまだお店は沢山あるわ。新しいお店を開拓しないとね」


 うん、うん。お前のその執念、俺も見習わんといかんな。

 食事を終え何か珍しい物はないかと、店を見て回ると、お土産物屋さんでスルメが売られているのを見た。


「おばちゃん、これ売り物だよな」

「ああ、名物の魔物の姿干しだよ。少し硬いが美味いよ」

「すまないが、これの一夜干しはないか」

「一夜干し? それは取り扱ってないね」


 ここに無いとすると、酒場か? そういや、漁師の奥さんがギルドの酒場に売ると言っていたな。


「カリン、すまん。ギルドに行ってくる」

「それじゃ、私も一緒に行くわ」


 ギルドの酒場でイカの一夜干しの事を尋ねた。


「一夜干しならここで出しているぞ。最近漁師の人が売り込みに来てな、人気になってよく売れているよ」

「今、売ってもらえる一夜干しはあるか?」

「在庫はないが、今日の昼過ぎに漁師の奥さんが売りに来るぞ」


 だったら、直接漁師の家に行った方が早いか。

 前に刺し身をごちそうになった漁師の家に行くと、所狭しとイカが干してあった。


「うわ~、すごいわね。あのイカをこんなに沢山干してるんだ」


 浜に木の棒を何本も立てて、その間に紐を張ってイカが吊るされている。三角に広げられたイカが風になびく。

 あの時出会った奥さんが、浜の端の方から一夜干しを取り込んでいるようだ。


「こんにちは、久しぶりだな。このイカの一夜干しを売ってくれないか」

「おや、あんたはこの前の人だね。お陰で一夜干しやスルメがよく売れてね。お礼がしたかったんだよ。好きなだけ持っていっておくれ」

「そうか、すまないな。いい土産になるよ」


 一夜干しの他に、土産物屋に売られていたよく乾燥されたスルメもあるな。それぞれを5、6枚ずつもらおう。


「息子さんは元気にしてるかい」

「旦那と一緒に毎日イカ釣りをしてるよ。親子で漁ができて喜んでるさ」


 前に話した、ランプの光を海面に当てる方法でイカを大量に捕っているそうだ。イカが売れて儲かっているならいい事だ。その内レストランでもイカ刺しが食べれるようになればいいのにな。

 俺はお礼を言って漁師の家を後にする。


「カリン、まだお昼を過ぎたばかりだ。服やアクセサリーの店でも見ていくか」

「うん、やっぱりユヅキと街を見て回るのは楽しいね」


 そうだな。カリンと久しぶりのデートみたいなもんだし楽しむか。

 これだけ短時間で行き来できるならまた来れる。アイシャやチセも今度連れて来てもらおう。



 しばらくして港町の冒険者ギルドでこんな噂が立つようになった。


「知っているか。街道沿いの森の奥に新種の魔獣が現れたそうだ」

「ああ、金色のたてがみに赤く燃えるような体の馬の魔獣だろう。風のような速度で走るらしいな」

「走りながら、風の魔法で何本もの木を切り倒したそうだ」

「俺は火の魔法で、他の魔獣を倒して食っていると聞いたぞ」

「2属性の魔法を使うのか……そんな化け物に出くわしたら命がいくつあっても足らんぞ」

「あの森には近づかん方がいい」


 その魔獣は、未確認魔獣としてギルドの図鑑に登録されたと言う。


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