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第44話 カリンのエアバイク

 バイク本体を浮かせるために、風の魔道部品を6つ使う。前輪部分に2つと本体に4つだ。

 平たい底面に取り付けるのだが、平面に属性付与すると効率が悪い。そこで棒状の木に魔道部品を取り付けて底面に埋め込む事にした。魔道弓の矢を6本バイクに取り付ける形になるな。


 推進力は風魔法になるのだが、カリンの杖をそのままバイク側面に取り付ける。ハンドルを回すと杖の方向が曲がるようにすれば、スムーズにカーブできるだろう。

 ブレーキは別の杖で前方に風を吹き出させる訳だが、魔力の消費を抑えるために、ブレーキレバーを握るとエアブレーキが機械的に動作するようにした。本体後方の4枚のカバーが広がり、空気抵抗が増す仕組みだ。


 風よけに流線形のカウルをバイクの前面に取り付けたり、側面に滑らかなカバーを取り付ける。長時間乗るものだからできるだけ軽くし、魔力を使わず効率よく走れるように工夫していく。


「カリン。バイクの試運転をしようか」


 エアバイクはほぼ完成し、今日は川向こうの平原でカリンに乗ってもらう。バイクのカラーリングは、それとなく聞いたカリンの好きな色にしている。


「なかなか格好いいわね。真っ赤な色も気に入ったわ」

「そうだろう。まず大きな杖を後ろ向けに取り付けてくれ。小さい杖はこっちだ」


 日頃使っている杖をバイクにセットして、魔力を流せるように接続する。


「専用の靴を履いたな。それと兜を被っておいてくれよ」


 ヘルメット代わりに兜を被ってもらう。チセと同じティアラの飾りのついた帽子型の兜に、目を守るプレートが付いている物だ。


「椅子にまたがって足はこのステップに乗せて、両手でハンドルを握る」

「こうかな」


 ロードスポーツバイク程ではないが、少し前傾させたポジションにしてある。体全体でバイクを扱うにはこの姿勢のほうがいいだろう。

 ハンドル中央にあるスイッチキーを回して魔力を流すと、土属性の魔道部品の力でバックミラーが左右に開いていく。

 さて、これで準備完了だ。次は靴の先端に付けた銅と、バイク本体の銅を接触させて足からの魔力を流してもらう。


「ユヅキ、やってみるからしっかり押さえておいてね」


 転ばないように後ろから押さえて魔力を流すと、バイク全体が地面から少し浮かび上がる。左右のバランスも取れているし、ここまでは成功だな。


「割と上に浮いているのね」

「今はふたり用に設定しているからな。俺が後ろに乗ればちょうど良くなるはずだ」


 俺も後ろのシートに座って、足が地面に着いた状態でバイク本体を安定させる。


「ゆっくりと足のペダルを踏み込んでくれ。ゆっくりとだぞ」

「うん、やってみる」


 後方の杖から風魔法が発動して、バイクがゆっくりと進む。


「よし、上手いぞ。今度は足のペダルを戻して、ブレーキレバーに指をかけて握りながら魔力を流してくれ」


 前方の杖から風が吹き出しバイクは停止した。エアバイクとしての機能は正常に動作しているな。


「今度は左右に曲がってみようか」


 さっきより少し早く走らせる。


「ハンドルを少し回して、バイク自体を傾ける」


 後ろの座席からバイクの乗り方を教えつつ、俺も横に体重移動させてサポートする。


「なんか自然と曲がれるわね」

「靴で高速移動している感覚と似ているからな」


 何度か繰り返すとカリンはうまく操作できるようになった。バイクを停止させ、試運転の感想を聞いてみる。


「どうだった」

「うん。いい感じね」

「魔獣が出てきたら、ハンドルから手を離して、乗りながら魔法攻撃しなくちゃいけない。できそうか」

「そうね。今は右手での操作だけど、左手でも同じように操作したいわね。できるかしら」

「ああ、大丈夫だ。任せておけ」


 最初の試運転としては上手くいったな。所々改良しながら完成に近づける。


 しばらくしてエアバイクは完成し、アイシャ達にお披露目をする。スティリアさんも魔力で動く乗り物と聞いて興味があると一緒に見に来ていた。


「カリン。このエアバイクカッコいいですね」

「さすが、ユヅキさんが作っただけの事はあるわね」

「あの~、ユヅキさん。これって、ほんとに動くんですかね」


 3人ともバイクに近づいて眺めたり、ハンドルや座席などを触ったりしている。この世界には無い乗り物だからな、相当珍しがっているな。


「さあカリン、走らせようか」

「ええ、行くわよ!」


 カリンは何回か試運転で走らせているので、俺が後ろに乗った状態でも、それなりのスピードで走らせることができる。

 左右に曲がったり、川の上を走ったりと自由自在だ。


「すごいわね、カリン。靴で走るより速いんじゃない」

「師匠。あたしも乗りたいです」

「よし、次はチセな。ここに乗って、前の持ち手を掴んで体を支えてくれ」


 後ろのシートは車の後部座席のように、背もたれ付きで楽に座ることができる。もちろんシートベルト付きだ。

 急な加速減速に対応できるように、シートの前にジェットコースターのような持ち手も付けている。

 バイクのように車輪があるわけではないので、このあたりは自由に設計できて楽だったな。


 チセを乗せてカリンが軽快に走り出す。金髪のツインテールをなびかせて走るカリンの姿は、本当にかっこいいな。


「ユヅキさん。自分はあんな速く走る物を初めて見ました。あれは魔道具ですか」

「スティリアさん。あれが魔道具ということになると、王都の魔術師協会に申請したりと手続きがややこしい。魔道補助具ということにして魔術師協会には黙っていてくれるか」

「ええ、それは結構ですけど。人の手であんなものが作れるなんて驚きです」

「スティリアさんも後で乗ってみてくれ。面白いぞ」


 アイシャやスティリアさんも乗ってもらって、今日のお披露目は終了だ。今夜は、エアバイク完成のお祝いをしよう。


「完成を祝って、乾杯!」

「カリン。すごく速かったけど、ちゃんと操作できている? 怪我とかしないでね」

「風が体に当たらないから、速く走れるの。操作も簡単で扱いやすいわ」

「師匠。あれで魔の森の道も走れるんですか」

「ああ、高く浮かしてるからデコボコでも走れるし、片手や両手を離して魔法攻撃もできるようになっているぞ」

「いいな、カリンだけ。師匠にあんないいもの作ってもらって」

「でもな~。カリンの魔力量がないと動かせないしな」

「ユヅキさん、ユヅキさん。魔石を使えば動かせるんじゃないのですか。自分は魔法大学の講義で、魔道具は魔石で動かせると習いましたよ」


 ほほう。大学ではそんな事も教えてくれるのか。魔石は盾や鎧に属性付与するときに使うと聞いていたが、そんな使い方もできるんだな。

 もっと詳しく聞きたいとスティリアさんに言うと、専門外で実際に使っているのを見たことは無いそうだ。


「今度魔術師協会へ行った時に、魔道具部門の人に詳しく聞いておきますね」と、応えてくれた。


 何はともあれ、これで一応の完成は見た。めでたい、めでたい。


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