第43話 カリンの遠出
最近カリンの様子がおかしい。
この前は東の林の奥を調べにひとりで行くと言って、昼過ぎに戻って来た。
次の日は、街道までの森で魔獣を倒しに行くと言って夕方まで帰って来ない。
「アイシャ。カリンがひとりで行動しているようだが、心当たりはないか」
「そうね、最近時々いなくなることがあるわね」
今、村の周りに魔獣避けの杭を打って壁を作っている最中で、魔獣が襲ってくることも少なくなった。
村の自警団にも、魔道弓を買い与えて訓練をしているから、熊の魔獣程度なら村人だけで倒せるようになってきている。
「安全になってきたとはいえ、ひとりでいるのは危険だな」
「師匠。カリンは何か隠していると思います。聞いてもちゃんと答えないんじゃないでしょうか」
確かにカリンの性格からすると、素直に答えないだろうな。
「よし、今度こっそりと跡をつけてみよう」
ある日の朝。
「アイシャ。私、東の林を見てくるわ。夕方前には帰ってくるから心配しないでね」
「ええ、分かったわ。そうね、その前にあそこの木を1本切ってくれるかしら」
上手いぞアイシャ。時間稼ぎをしている間に、俺は東の林の奥に先回りする。
カリンが何も知らずにやって来たが、そのまま林の奥を抜けて魔の森へと向かっているぞ。
「あいつ、どこまで行く気だ?」
そっと跡をついて行くと森の樹木が左右に伐り倒され、3人程が通れる幅の真っ直ぐな道がそこにあった。カリンはその道で高速移動を使い森の奥へと走り去った。
「なんだこれは?」
カリンが風魔法で造った道のようだが、地面まで削られていて、平らで走りやすい道になっているぞ。
「これ以上、追うのは無理か。この道を使って、どこに行っているんだ?」
カリンが帰ってくる頃に、道の近くで待ち伏せしていたら、案の定カリンがその道から帰って来た。
「カリン。どこに行っていたのかな」
「ユ、ユヅキ。どうしてここにいるのよ!」
「お前、今朝ここから高速移動を使って、どこかに行っていただろう」
「えっ、何の事かしら……」
とぼけていやがる。やっぱり何か隠しているな。
「お前の髪の毛から、いつもと違う匂いがするぞ」
「えっ! お魚の匂いなんてしてないわよ!」
「魚だと!」
家に帰ってカリンを問い詰めると、時々あの道を使って港町のカイトスへ魚料理を食べに行っていたらしい。
「しかしカイトスへ馬車だと片道1日半かかるんだぞ。それを半日でどうやって行っているんだ」
「ここからカイトスまで真っ直ぐの道を作って、高速移動を使うと鐘1つかからずに着けるのよ」
確かに計算上、直線距離だと60kmもない。高速移動は原付バイク以上の速度が出るから可能ではあるな。
「カリン。そんな事しちゃ危ないでしょう。途中で魔獣が出てきたらどうするの」
「みんな私の魔法でやっつけちゃうわよ。それに林の奥を抜けると平原が多いから楽なのよ」
「途中に川があったはずだが、それも高速移動で走ったのか」
「そんなに広い川じゃないし問題ないわ」
「お前、方向音痴なのによくカイトスまで辿り着けたな」
「お魚の匂いがする方に真っ直ぐ行ったら、ちゃんと着けたわよ」
なんちゅう嗅覚をしてるんだ。
「カリンひとりだけずるいです。あたし達に黙って港町に行くなんて」
「うん、それはごめん。だけどお魚の匂いには逆らえなかったの」
「カリン。魔力切れは大丈夫なのか?」
「全然平気よ。あれぐらいなら1日中走っていても大丈夫よ」
そりゃカリンの魔力量があればな。普通の魔術師なら、連続で足と手から風魔法を使ったら鐘半分も持たないだろう。
カリンの事だ、止めろと言っても聞かんだろうしな……。しかしカリンひとりだけだと危ない事に変わりはない。
「よし、カリン。俺がふたり乗りの乗り物を作ってやる。だからこれからはひとりで港町に行くな」
「えっ、ユヅキ。何か作ってくれるの」
「ああ、少し待っていろ。そんなに時間はかからんさ」
カリンの使う高速移動は、靴の底に風魔法を付与して体を浮かせる。それと同じ機能を持ったふたり乗りのバイクを作ればいい。エアバイクだ。
魔道部品は予備で購入したものが左右3個ずつある。それを使えばできるだろう。
俺は早速木材を組み合わせて作っていく。エアバイクの本体を作っている家の庭に、カリンが興味津々とばかりにやって来た。
「ねえ、ねえ。どんなのを作るの」
車輪が不要のエアバイクの構造自体は単純でシンプルだ。
「基本的には木の板の上にふたりが座る椅子を作る。前にハンドル……、この木の棒を付けて左右に曲がれるようにするんだ」
「ふ~ん。これでうまく曲がれるの」
「全体を傾けるようにして曲がるんだが、カリンならすぐ慣れて乗りこなせるさ」
車よりバイク型の方が感覚的だから、カリンには乗りやすいだろう。魔力を流す足のステップやら風除け用のカウルなども作らんとならんが、この村にある物で作れる。
金属部品はレトゥナさんに作ってもらい、俺はカリン専用のエアバイクを作っていく。




