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第39話 村に来た薬師

「ユヅキさん。私と一緒に住んでください」


 港町の魔術師協会のスティリアさんが、急に家にやって来てそんな事を言った。

 これが押しかけ女房と言うやつか!!


「いや、スティリアさん。俺にはアイシャとカリンという妻がいてだな」

「そこを何とか、お願いします。またユヅキさんと一緒にいきたいんです」

「ユヅキさん、どういうこと!」

「ユヅキ、あんた浮気してたの!」


 一緒にいた、アイシャとカリンが怒り出す。


「何言ってんだよ。俺はいつもお前達と一緒にいただろ。浮気なんてする暇なんかなかったじゃないか」

「じゃあ、私達がいなかったら浮気してたってこと」

「ユヅキさんがそんな人だったなんて」


 アイシャは泣きそうな顔になり、カリンは真っ赤な顔で怒り心頭だ。


「あの~、何のお話をされているのですか?」


 キョトンとするスティリアさんの後ろから村長がやって来た。


「実はな、スティリアさんが薬草の研究者としてこの村に来てな。しばらくあんたらの所に住まわせてほしいんじゃよ」


 それを早く言えよ。アイシャとカリンを怒らせたら怖いんだからな。ほんと命懸けなんだぞ。


「自分のような研究者は現地で薬草を研究して、その成果で協会から報酬をもらいます。その土地に長く住むことになりますが村で生活した事がなく、ユヅキさん達のお世話になろうとやって来ました」

「魔術師協会からの給与はいくらか出ているのか」

「いいえ。自分は駆け出しの研究者ですので、給与は無く研究成果の報酬のみです」


 脱サラしてフリーの研究者になったという事か? スティリアさんも思い切った事をするな。


「でも魔術師協会には在籍してますので、ここで薬剤を作り町で売ることはできます」


 作った薬で生活費の足しにするつもりのようだが、魔術師協会の薬師と言えば好待遇の仕事のはずだ。稼げるお金は雲泥の差だが、そんな職場を捨ててここに来たというのか。


「分かった。スティリアさんが村の生活に慣れるまで、この家に居てくれればいい」

「ありがとうございます。ユヅキさん」


 ちょうど空いている部屋もあるし、少しの間ならいいだろう。アイシャ達も納得してくれたようだ。


「スティリアさん、ベッドはあるんだが寝具がない。仮でよければ寄合所から持ってくるが」

「大丈夫です。同僚に頼んで馬車で生活用品を持ってきています」


 そういやスティリアさんは協会の宿舎に住んでいたと言っていたな。その部屋を引き払い荷物一式を家の前まで持ってきていると言う。

 玄関先に行ってみると、置いてある荷物は多くてこれじゃ部屋に入りきらないぞ。一旦倉庫に置いておくが、村には必要のない物が多い。

 今まで町でしか生活していなかったからか、何だこのおしゃれな鞄や服の数々。実家が元貴族だからか豪華なものばかりだ。


「研究用の部屋がいるのですが、どこかあるでしょうか」

「それならこの倉庫を使ってくれ。広さは十分あるし、今チセもここで調べ物をしているからな」


 ここは、家の横に別棟で建てたガラス工房予定の建物だ。今は倉庫として使っているが、チセもここに机を置いてマンドレイクの研究をしている場所だ。


 部屋の窓際にチセ用の机があり、その上に育てかけのマンドレイクやら実験用の鉢植えなどを置いている。

 スティリアさんが持ってきた机や研究機材などを倉庫に運び込んだ後は、家の中を案内していく。


「ここが食堂で、このかまどで料理をする。スティリアさんは料理が作れるのか」

「はい、単身で寮に住んでいたので」

「じゃあ一緒に作ってもらおう。そしてこっちが洗い場とお風呂だ」

「オフロ?」


 念願のお風呂も完成して、川から水も引いてある。我が家自慢の設備だ。


「後でアイシャ達に入り方を教えてもらってくれ」

「すいません、井戸はどこですか。顔を洗いたいのですが」

「それならここに水道がある。このレバーを回すと水がここから出てくる」

「えっ、魔力を流さずに、こんな小さな口から水が出るんですか」


 そうなのだ。井戸ではなく水圧がかかった水道を作っている。少し上流に造った池から、配水管をこの家まで引いている。

 今は実験段階でこの家だけだが、間もなく村の各家にも水道を引く予定だ。


「今夜はスティリアさんが村に来てくれた歓迎会を開くと村長が言っていた。荷物を整理したら一緒に寄合所へ行こうか」

「はい、ありがとうございます」


 寄合所の食堂には既に多くの村人が集まっていて、歓迎会の準備も整ったようだ。


「前に一度来られたので知っている者もおるじゃろうが、薬師のスティリアさんじゃ。この村に住んでくださることになった。みんなもよろしく頼む」


 村長の紹介に続き、スティリアさんが挨拶する。


「カイトス魔術師協会の研究者として、この村に来ましたスティリアです。よろしくお願いいたします」

「スティリアさんは今、ユヅキさんの所に住んでいるが、この村に家を持ってもらう。すまんが明日から家を建てる手伝いを頼む」


 長くこの村で研究をするなら、家が必要だと新しく建てるようだな。俺の家に居るのはそれまでの1週間ぐらいになるか。


「任せておけ。ちょうど今、みんなが入れるオフロを作っている最中だ。ついでに作ればいい」

「では、スティリアさんが仲間になってくれたことを祝して、乾杯じゃ」

「乾杯!」


 歓迎会が始まり、スティリアさんの話を聞こうと村人達が集まって来た。おや、スティリアさんが席を立って、村長の元へと行ったぞ。何だ?


「あの~、村長さん。新しい家を建てるとおっしゃってましたが、自分にはそんなお金がなくてですね。空き家があればそれをお借りしようと思っていたのですが」


 前はこの寄合所で数日寝泊まりしていただけだから、村の詳しい事は知らないんだな。俺の方から助言しておくか。


「スティリアさん。村に住む人の家は、村人みんなで建ててそこに住むんだ。お金も要らない」

「そうなんですか、ユヅキさん」

「その代わり、自分にできる仕事をしてみんなの役に立てばいい」


 この村では経済活動というものがない。お金自体も使わない。食料は農家が作り村全体に配る。山で狩りをする者、山菜や薬草を採る者、日用品を作る者などが共同し村人全員を養っている。


「俺も最初は驚いたが、それでちゃんとみんなが生活できている。お金は外から冒険者を呼んだり、町で医者にかかる時に使う。そのお金や食料の在庫などの管理を村長がしているんだ」

「じゃあ自分は何をすればいいんでしょうか、村長さん」

「そうじゃな。あんたは薬に詳しいようじゃしな。研究で採って来た薬草の一部をわしの所に持ってきてもらうか、薬を作ってくれると助かるのう」


 そうだな。薬草以外の薬は今まで町に行って買っていたからな。村で作れるなら助かる。スティリアさんも、ここで薬を作って町で売ると言っていた。それを村人のためにしてくれれば充分だ。


「そんな事でいいんですか? 家まで建ててもらえるのに」

「ここでする研究もあるじゃろうが、あんたにできる事で村のためになる事をしてくれればそれでいい」

「はい、分かりました。自分も頑張ります」


 まだ村の生活には慣れていないだろうが、村のみんなも歓迎してくれている。みんなと仲良く、ここに長く住んでくれたらいいと願う。

 彼女自身に何があったのかよく知らんが、多分スティリアさんも一大決心をしてこの村に来たのだろう。その決意が無駄にならないように俺も協力しよう。


「スティリアさん。一緒に住む仲間として、これからも頑張ろうな」


「はい」と満面の笑みを俺に返してくれた。


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