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第33話 家作り2

 今日からは村の人に集まってもらい、俺達の家を建てる手伝いをしてもらう。まずは土台となる外壁内部に土を盛って平らにする。「やっと、俺達も手伝える」と村人達はやる気満々だ。


「土台部分には岩を多く使いたい」

「林の川側の岩場にめぼしい場所を見つけている。その岩を荷馬車で運ぼう」

「土は私が魔法で埋めていくわ。その時に岩を固める粉を撒いてちょうだい」


 外壁の内側、家の土台となる部分は岩を積み、その隙間を土とセメントで固めていく。事前に村人には相談していて、資材など用意してくれている。

 広い土地だが村の男達が手伝ってくれて、土台が徐々に積み上がっていく。


「これが俺達の家の設計図だ」

「壁用の岩や木材も用意できているぞ。どの部分から造る」

「まずは地下室から作っていく。今の土台に地下室用の岩の壁を作ってほしい」

「おう、任せておけ」


 土台造りと同時に地下室の壁と階段を造っていく。ここからは寸法通りに造っていくことになるが、村人達は慣れたものだ。

 人の肩ぐらいまで壁が積み上がったところで、アイシャ達にも地下室を見てもらおう。


「地下室、すごく広いわね」

「ここが1階の食堂の下になるのよね」

「ちゃんとトイレもありますよ、すごいですね」

「魔獣に襲われた時でも、1週間ここで生活できるようにしているからな」


 水瓶を置いたり、食料を備蓄する場所も確保している。

 ここはスタンピードが起きて完全に閉じ込められても、救助が来るまでの間生き残るためのシェルターとなる空間だ。上部には雨水を溜めたタンクも作ってトイレは水洗式になっている。風呂までは無理だが快適に過ごせる空間だ。


「広さ的にはこれぐらいいあれば、食料も置いておけると思うが」

「そうね、これなら大丈夫だと思うわ。日頃から食料庫として使った方がいいわね」

「それならこっちの階段だけでも、もっと広くした方が良くないですか」

「そうだな、食料や水瓶などふたりで運び込めるようにしておいた方がいいか」


 地下室を造ってくれている村人が一緒に話を聞いていて、それは無理じゃないかと言ってきた。


「こっちの部分は家の土台と一緒に固めているぞ。今から階段を広くするのは無理じゃないか?」

「え~、大丈夫ですよね。師匠」

「そうだな。食堂部分の開口部も余裕がある。広げられるだろう」

「いや、いや。だからな土台が固まっていてだな……」


 そんな事を言っている村人を尻目に、チセが武器を持ってきてくれた。


「師匠。ここの壁を斬ってくれますか」

「よし任せろ」


 俺は超音波振動を起動させて、階段に合わせて壁を縦と斜めに切り裂く。その部分にチセが鉄拳を叩きこみ、岩を粉々に粉砕した。


「こら、こら。折角キレイに床を作ってくれたのに、瓦礫だらけじゃない」


 カリンが崩れた岩や土を魔法で外に吹き飛ばす。

 腰を抜かしそうになっている村人が目を見張り、何とか言葉を口にした。


「あ、あんたらすげ~な。これが一流冒険者の技というものなのか」

「すまんが、この階段部分だけ造り直してくれるか。悪いな」


 多少の設計変更はあったが、順調に家はできていく。



「ここに物見やぐらを作るから、木材を運搬してほしんだ」

「分かった。運搬用の馬車もあるから、すぐに運ぶよ」


 家の近くに建てる物見やぐらは丸太を組み合わせて造っていく。村の人達は石垣などは得意だが、木造建築となると専門外だ。そう言う俺も詳しくはないが、木を加工してほぞや溝を作って木を組み合わせる事はできる。


「チセ、すまんが材木をこの台の上においてくれるか」


 組もうとしている物見やぐらは、6本の柱で組んだ約10mほどの高さで屋根付きの物だ。柱に使う木は、樹木の枝を落として皮をはいだ丸太の形のままで使う。森を焼いた時に材木となる木をある程度乾燥させている。

 組む横木などは四角い角材に加工してから、ほぞ用の穴を開け柱と組み合わせる。

 これだけ大きな物になるとナイフだけでは無理で、ショートソードも使って加工していった。


 6本の柱を立てる基礎の穴は既にできている。まず2本の柱と横木を組み合わせて門状となった柱を立ち上げ、土台の穴の中に入れる訳だが、村人総出での作業になる。


「お~い、そっちのロープは緩めるなよ。一斉に引っ張るぞ!」


 今まで村には2階以上の建物など無い。みんな初めての経験だが、力を貸してくれる。別の木で作った小型の門型を隣の基礎穴に入れて、準備はできている。その高い位置にロープを引っ掛け、本体の柱上部にロープを巻き付けて人力で引っ張る。


「せ~のっ! せ~のっ!」


 柱の下部を土台の穴に入るようにロープで固定し、声を掛け合い一斉にロープを引っ張る。


「よ~し! もう少しだ」


 ある程度柱が立ち上がると、基礎の穴に落ち込んで真っ直ぐに立ち上がってくれる。これを3回繰り返して、6本の柱全部を立ち上げた。


「みんな、ありがとう」

「俺達の村に、こんな高い建物ができるとは思ってもいなかったぞ」

「何だか祭りみたいで楽しかったな」


 作業を終え、村人達が立ち上がった柱を見上げ、ワイワイと笑顔で話している。

 大掛かりな人力作業はこれで終わり、後は数人の人手があれば組み上げられるな。柱の上に滑車を取り付けてあるから、横木などの角材を持ち上げるのも楽になる。


 3階部分に床を作るが、横木などを組めば鉄骨構造のように、自重で立つことができる安定した建物になる。この世界ではほとんど地震が無いそうだ。穴を埋めて固めれば嵐や少々の魔獣では倒れない、立派な建造物ができるぞ。


 1週間後、アイシャ達に完成した物見やぐらに登ってもらう。4人登っても余裕のある広さだ。


「うわ~。遠くまでよく見えますよ、師匠」

「元々高い位置に建てているからな。見晴らしがいいだろう」

「弓を使うのも、これだけ広ければ動きやすいわね」

「部屋みたいになっていて、かっこいいわね」

「そうだろう。雨や日差しが強い日でも、チセが監視しやすいようにしてるからな」

「ありがとうございます、師匠」


 好評のようだな。キイエも屋根の上で楽しそうに鳴いている。苦労して造り上げたかいがあると言うものだ。


 俺が物見やぐらを組み上げている間にも、家の方は村人が作ってくれている。

 数日後には家も完成した。いや、まだ完成とは言えないか。玄関はあるが各部屋に扉もないし、ベッドは新しく作ったが寝具は借りものだ。第一まだ風呂ができていない。

 釘とか金具とかタイルなど、足りない部材がまだまだ必要だ。しかしこれで生活はできるようになった。


「ひとまず完成ということで、今日からここに住もう」

「そうね。いつまでも寄合所を使う訳にもいかないし」

「足りない物も、そのうち揃えていけばいいじゃない」

「そうですね。やっと落ち着けますね」

「今晩は、村の人を呼んで盛大にパーティーをしよう。みんなにはお世話になったしな」


 土台造りから、村の人達には世話になった。まさかこんな砦のような家になるとは思っていなかったようだがな。


「じゃあ、昼を過ぎた鐘5つぐらいから、新築祝いを始めましょうか」

「そうだな。村長に相談に行ってくるよ」


 村長や村の人達とも相談して、寄合所からテーブルなどを運んで立食パーティーができるように準備する。

 村長も村の倉庫から食料やお酒を出してくれた。

 お昼を過ぎ日没までまだ時間がある鐘5つ。家を囲む壁の内側なら魔獣の心配もない。家族連れで村のみんなが集まってくる。


「みんなが手伝ってくれたお陰で、立派な家ができた、ありがとう。感謝を込めてみんなと祝いたい。 乾杯!」

「乾杯!」

「大きな家だな。中に入ってもいいのかい」

「どうぞ、どうぞ」

「ここは洗い場かい。ずいぶん広いんだね」

「いずれは、ここにお風呂を作るんだよ。できたら入りに来てくれ」

「オフロ?」


 この国の人はお風呂を知らんからな。完成したらみんなにも入ってもらおう。


「俺は物見やぐらに登ってみたい。いいだろうか」

「はい、こちらに。8人ぐらいなら一度に登れますよ」


 やぐらは昇り降りがしやすいように、はしごでなく折り返しの階段を取り付けている。子供でも登りやすく、チセが家族連れを案内して登っている。


「うわ~! すごい、すごい! お父さん、あんな遠くまで見えるよ」

「すごくいい景色だ。村が一望できるじゃないか」


 展望台みたいだと好評だな。村長にも、家の中を案内したり食事を勧めたりする。


「あんたらのお陰で、川も綺麗な水が流れるようになった。川沿いの魔の森も平原になり広い土地ができた。感謝するよ、この村に住んでくれてありがとう」

「いやいや、世話になるのはこっちだよ。まだ畑もできていないしな。食料も分けてもらわないといけない」

「獣の肉を捕って来てもらっておるからのう、それで充分じゃよ。明日からはわしらで畑を作っていこうと思う」


 まだ魔の森との境界に壁はできていない。そう言うと村長は「畑の周りに簡単な柵を作ればいい」と言う。

 魔獣は少なくなり、村の東に作っている畑と同じようにするようだ。


「ではそちらにお任せしよう。経験は村人の方があるだろうからな」

「これから村は、どんどん良くなっていくじゃろう。すまんがこれからもよろしく頼むよ」

「ああ、俺達にできることはしよう。一緒に住みやすい村にしていこう」


 まだまだしないといけない事は沢山あるが、無理せず徐々に良くしていけばいいさ。ここに住んで良かったと思えるように。


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