第29話 毒の川の調査1
港町から帰った昼過ぎ。この村で暮らすために一番大事な事について話し合う。
「私達がこの村で生活するには、やっぱり毒の川の原因を調査して何とかすることだと思うわ」
カリンがまともな事を言っている。
「マンドレイクの群生地から先の森を調査するんだったら、時間的に魔の森で1泊する可能性がありますよ」
チセ、もっともな意見だ。
「村と往復する森の道も危険なんだから、森の中で1泊する方が効率はいいわね」
アイシャ、的確な判断だ。
「それなら森の中の泉でお風呂を沸かして、みんなで入るのはどうだ」
俺も意見を言わないとな。だがみんなは一斉に俺を睨む。
「ユヅキさん!」
「師匠!」
「ユヅキ。真剣に話してるんだから、あんたもまともに考えなさいよ」
「はい、すみません、私が悪かったです」
ちぇっ。ちょっと雰囲気を和ませようとしただけなのに。
「食料と水、予備を含めて4日分用意した方がいいわね」
「眠るための毛布と、地面に敷くシートも必要ですね」
「薪は途中で拾うとしても、持っていく物はできるだけ軽くしないとダメね」
俺が何も言わなくても計画はまとまり、村長に話に行く。
「村長。明日から毒の川の調査に行くが、泊りがけになる」
「くれぐれも無理をしないようにしてくれ。今のままでもわしらは生活できている。怪我だけはせんようにな」
「心配しないでくれ。無茶はせんよ。2、3日で帰る予定だ」
「ああ、分かった。気をつけて行っておくれ」
翌朝早くから、俺達は川の上流の泉を目指して出発する。
「かなり暑くなってきたわね。チセ、鎧暑くない」
「はい、大丈夫ですよ。フルプレートじゃないし、背中は空いてるので涼しいです」
夏も盛りだ、山の上で少しは涼しいが、ずっと歩くとバテるな。
「無理せず、休憩しながら進もう」
マンドレイクの群生地跡まで来た。まだ昼にもなっていないが、ここで簡単な軽食を取っておこう。
これから先は俺達も踏み込んだことのない場所、相変わらず鬱蒼とした森だ。太陽の位置を確認しつつ方角を誤らないように進む。
この森では今まで見たこともないようなヘビの魔獣や、オオトカゲの魔獣などにも出くわした。さすがに魔の森の奥地だな。
さらに先に進むと、アイシャが何か発見した。
「ユヅキさん。小さな川があるわ」
源流とされる泉に続く川だろうか。近づくとそれは濃い紫色で幅1m程の水の流れ。
「これが、毒の元ね」
「多分この上流に泉があって、そこに原因があるはずだ。川に沿って行ってみよう」
上流に行くとそこには洞窟があって、川はその中に続いている。
地図にも、泉の横に岩の絵が描かれている。洞窟の奥に泉があるのは間違いないな。まだまだ、日暮れには時間がある。今から洞窟内を調査しよう。
俺達は背負っている荷物を木の陰に隠して、戦闘できる体勢で洞窟内へと入って行く。
「この奥には毒の魔物がいるかもしれない。警戒してくれ」
この紫色は通常の毒の草でない事は分かっている。草や木の魔物、あるいは別の生物がいる可能性が高い。薄暗い洞窟内、光魔法で辺りを照らしながら奥へと進む。
すると奥から「ゲコゲコ」と聞きなれた鳴き声が聞こえる。嫌な予感がする。
「カエルかしら」
アイシャ、言わないでくれ。奴は俺の天敵なんだ!
細い曲がり角から奥を覗くと、人の背丈ほどもある、巨大なガマガエルが数匹いる。前に見たカエルの倍ほどの大きさじゃないか。その背中のこぶは紫色をしていた。
「ユヅキさん、どうもあれが毒の原因のようね。かなりの大きさだわ、魔法を使う魔物かもしれないわ」
「どうやって倒す?」
「火で燃やしたらいいんじゃない」
「ここは洞窟内だ。酸欠になる。炎以外で頼む」
鳴き声からすると、奥にも相当数の魔物がいるだろう。その全てを炎で倒すと俺達が危険になる。弱点が何か確かめながら攻撃するようにカリンに言っておく。
「魔道弓なら仕留められると思うけど」
「奴の背中には、毒がある。皮膚全体が毒の可能性もある。絶対に触らないようにしたい」
「それじゃ、あたしの鉄拳はダメですね」
「ああ、チセも弓で対抗してくれ。こいつを倒さんと川が汚染されたままになる。ここで仕留めよう」
「はい」
俺達はさっきの細い曲がり角まで進んで戦闘態勢に入る。
「一気に行くぞ」
カリンの風魔法、俺やアイシャ、チセの魔道弓で総攻撃を仕掛ける。ガマガエルが炎を吐いてきやがった。やはり魔獣化したカエルだ。だが炎ならローブや鎧で防げる。俺とチセが前に出て、弓の連続攻撃を仕掛ける。
「奥からも出て来た。少し後退するぞ」
今いる細い曲がり角にガマガエルを誘導した方が倒しやすい。
4人一斉に下がって、ガマガエルを待ち構える。この細い曲がり角は1匹が通るのが精一杯だ。だが1匹が炎を吐きながら、下のガマガエルを飛び越えてきやがった。
さすがのジャンプ力だな、だが2匹なら対応できる。そう思った瞬間、ガマガエルが舌を伸ばし俺の鎧に巻き付けてきた
「うわっ!」
「ユヅキさん!」
ガマガエルの舌に引っ張られて、大口を開けた口元まで引き寄せられてしまった。俺を食う気か!
剣を持った右手は舌に巻き込まれて動かない。左手でナイフを抜き回転しながら舌を切り裂く。
地面に転がった俺に、巨大なガマガエルが圧し掛かる。身動きが取れん。こいつ重いぞ。通常の3倍はある。
「ユヅキ!」
カリンの岩魔法か! 上に乗っていたガマガエルが後ろに吹っ飛んだ。起き上がったが既に周りをガマガエルに囲まれてしまっている。
接近戦をしかけるしかないか。剣を振るってガマガエルを切り裂くが、背中の毒をまき散らされる。毒が顔や腕にかかって、火傷したように熱い。
片手で目をかばい、気配だけで近くのガマガエルにも斬りつける。柔らかいのですぐ切れるが、やはり毒を撒かれてしまう。細い通路で乱戦状態になってしまい、後方のアイシャ達も援護できないでいる。
「ウォーター・スプラッシュ」
カリンが巨大な水球を、俺とガマガエルに向けて撃ってきた。発射スピードは遅く洪水のような水でガマガエルを押し流す。俺は岩に掴まり、なんとか通路に留まった。
「助かったよ、カリン」
「ユヅキさん、毒は大丈夫!」
「ああ、今ので洗い流された」
後退して、またガマガエルが来るのを待ち構える。今度はカリンが土の壁を作ってくれて、舌に巻き取られる事もない。
やはりガマガエルはジャンプしながら、2匹同時に狭い通路に入ってくる。飛んだ瞬間を狙い魔道弓を放つ。下のガマガエルがそんな俺達を舌で狙って来るが、素早く壁の陰に隠れ反対側から攻撃する。
何匹ものカエルの死体が通路に折り重なってきた。そのうち通路が狭くなり、1匹ずつしか入ってこれなくなり確実に倒す事ができる。形勢はこちらが有利だ。
迫ってくるガマガエルを撃退していき、ようやくガマガエルの攻撃が止んだか。洞窟内が静かになった。




