表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

200/352

第27話 マンドレイクの調査依頼2

【スティリア視点】


「スティリアさん、シャウラ村が見えてきましたよ」


 ようやく到着したようね。4人の冒険者に囲まれての馬車の移動だから危険はなかったけど、デコボコな道を揺られて少し辛かったわ。


「村長。マンドレイクの群生地調査のため、港町から薬師の方をお連れした」

「初めまして。自分はカイトスの魔術師協会から来ましたスティリアと言います。明日から山の調査をさせていただきます」

「わざわざ御苦労な事だね。小さな村であまりお構いもできないが、ゆっくりしていくといい」

「はい、ありがとうございます」


 今夜はここの寄合所にベッドを用意してもらえたようだわ。ユヅキさん達も一緒にここで食事をするようだけど、なんだかすごい歓迎をされているみたいね。


「スティリアさん。明日は朝早くからマンドレイクの群生地に行くが、ゆっくり歩いて鐘1つ半の距離だ。向こうでどんな調査をする?」


 日の出と共に出発して、昼までにはまだ余裕があるわね。思ったよりも遠い距離のだけど、珍しい群生地に行くのだから、できる限りの調査をしたいわ。


「現地では、群生地の広さを見たり、土を採取したりします。あと周辺の薬草の採取をしますので、鐘半分程の時間がかかります」

「それなら、明るいうちに帰って来れそうだな」

「あっ、そうだわ。川に流れる毒の水も取っておかないと」

「それなら俺がやっておくよ。川の毒は危険だからな」

「ありがとうございます。ではこれに採取しておいてもらえますか」


 持ってきているガラスの試験管を、ユヅキさんに渡しておく。上部のコルク栓を確かめ何気なく手に持っているけど、扱いに慣れているようだわ。割れないよう革袋ごと胸ポケットに入れている。


「スティリアさん、すみませんが、あたしにもガラス管を見せてくれませんか」

「ええ、結構ですよ。割れないように注意してくださいね」


 チセさんに鞄の中にある別の試験管を見てもらうと、指で弾いたり底の曲面部分を繁々と見ていた。ガラスは高価で珍しいから見たいのだと思っていたけど、どうもガラスの構造自体に興味があるようね。

 この方もガラスの扱いには慣れているようだわ。マンドレイクの栽培もしたいと言っていたし、自分の知っている怖い冒険者の人達とはどこか違う感じだわ。


 今日は疲れたわね。早めに休みましょう。明日は頑張らないと。



 ぐっすり眠った翌日。目を覚ますと既に食事の用意ができていて、食べたらすぐに出発するようだわ。急いで調査の準備をして、山の中に入って行く。


「あのですね、自分はリザードマンですが、こういう山歩きとかは苦手でして……」


 リザードマンなら体力があるだろうと、みんなからよく言われる。でも自分は部屋の中で薬剤の調合をしている方が好きなので、日頃から運動をせずあまり体力が無い。


「大丈夫ですか。これから魔獣の住む森に入ります。その前にここで休憩しましょう」

「はい、すみません」


 冷たい水をもらって休憩する。暑くなってきたから助かるわ。あれは王国の魔道具かしら、見たことない形の水筒にすごく冷たい水が入っていた。


「そろそろ、出発しましょうか」

「はい、よろしくお願いします」


 ユヅキさん達は魔の森に入っても歩く速度が変わらない。それどころか歩きながら狼や熊などの魔獣をどんどん倒していく。アイシャさんの弓やカリンさんの魔法が的確に魔獣に当たって凶暴な魔獣が倒れ逃げていくわ。


「ユヅキさん達はすごいんですね。あんな群れを一度に倒すなんて」

「そりゃ冒険者ですからね。当たり前ですよ」


 いえ、今までの護衛の人だったら、あんな群れが出てきたら逃げ返っていましたよ。この方達は凄腕の冒険者だったのですね。


 マンドレイクがいたという群生地に到着した。確かにマンドレイクが抜けた穴が沢山あるわ。

 まずはマンドレイクが生えていた土を採取しましょう。あれ? アイシャさん達は離れた所にいて近寄ってこないわね。まあ、いいわ。ついでに周辺の草も採りましょう。


「これは珍しい薬草ですね。こちらにもあるわ」


 本でしか見たことのない薬草が、そこら中に生えているわ。こんな奥地だからかしら。これはできるだけ採らないと、こんな機会はめったにないもの。


「スティリアさん、そろそろ帰りましょうか」

「はい、そうですね。すみません夢中になりすぎちゃいましたね」


 収穫は充分だわ。さあ、帰りましょう。

 だけど森を抜けて村に向かう途中、丘の近くで巨大な魔獣に出くわしてしまった。見たこともない巨大な体。人の背丈の2倍はありそうな化物だわ。

 自分のせいだわ。調査を長引かせ歩くのが遅いから陽も傾いて、こんな魔獣に出くわしてしまったのね。どうしましょう、このサンプルは持ち帰らないといけないのに。


「ユヅキさん、どうします。遠ざかるのを待ちますか」

「はぐれ魔獣だ、倒した方が早いな。キイエもいるから大丈夫だろう」

「そうね。開けた場所だしその方がいいわ」


 何を言っているの? あんな巨大な魔獣を倒すですって。殺されてしまうわ。


「スティリアさんは、チセと一緒にここにいてください。チセ頼んだぞ」

「はい、師匠」

「カリン、高速移動を使え。一気に行くぞ」

「じゃあ、私に合わせて攻撃してね」


 何がどうなったの。自分の前にはチセさんひとりだけ。みんな一斉に走り出して巨大な魔獣を取り囲んだわ。

 カリンさんが目の前からいなくなったと思ったら、魔獣の向こう側から攻撃しているわ。空からは、あのドラゴンの子供も……。


 その攻撃もすぐに終わって、巨大な魔獣が音を立てて倒れていく。あんな見たこともない巨大な魔獣が自分の目の前で……。


 ユヅキさん達は木を切り倒しツタを使って、運搬用の台をあっという間に作った。魔獣を乗せて、指示されるまま自分もそれに乗る。

 坂道をすごい速さで駆け下りて行って、何がどうなったのか分からないまま村に到着していた。

 まだ日は暮れていない。ユヅキさん達は村の人達と一緒に魔獣を解体すると言って建物の中に入って行った。


「村長さん、あの冒険者の人達はなんなのですか」

「あの方々は村を救ってくれた恩人なんじゃよ。あんたも助けてもらったのかの」


 自分は村の英雄に助けられたみたいね。こんな貴重なサンプルを取ってこれたのも、ユヅキさん達がいたからなんだわ。

 自分が足を踏み入れたのは魔の森の奥地、人が入る事のできない場所。そんな場所から無事に戻れた幸運を感謝するほかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ