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第25話 港町での仕事

 翌日からは、この港町で俺達が暮らせるのか手分けして見ていくことになった。俺とアイシャは冒険者ギルドへ、カリンとチセは商業ギルドに行く。

 町で暮らすには、まず仕事ができないとどうにもならん。俺達には後3年は暮らしていける蓄えはあるが、それもいずれ底をつく。継続して働ける場所が必要だ。


 アイシャがギルドの受付窓口でどんな依頼があるか尋ねると、受付嬢が丁寧に対応してくれる。


「すみません。私達登録したばかりで、どんな仕事があるか教えてほしいんですけど」

「この町では、荷物の護衛依頼か、海の魔物の討伐などの仕事があります。トリマンの町までの街道は安全なんですが、その先へ行かれる方の護衛の仕事が多いですね」


 この町ならではの仕事と言う事のようだな。だが海の魔物の討伐とは聞いた事が無い。それはアイシャも同じだな。


「あのう、海の魔物の討伐ってどんな事をするんですか。初めて聞くんですけど」

「海の魔物の討伐自体は海洋族の方々に依頼しています。このギルドの冒険者は、そのお手伝いをしてもらう事になりますね」

「海洋族?」

「港のある町以外では会ったことがないと思いますが、マーメイド族やセイレーン族の冒険者です。湾内の内海に入ってくる魔物の討伐をしてもらっています」


 人魚か? この世界、そんな種族もいるのだな。


「外海を管理しているのは、海洋族の方々ですので、その一環として冒険者をこのギルドに派遣してもらっているんですよ」

「海洋族が管理って、それじゃあ私達は港の外には出れないの」

「沿岸の漁は大丈夫なんですが、外海は外国となります。荷物や人を船で運ぶ場合は、必ず海洋族の水先案内人が乗り込む事になっているんですよ」


 なるほど、船で自由に移動できる訳じゃないんだな。

 そういや、今までも船で旅行した人の話は聞いた事がないな。いや、人族だけは船に乗って大陸に渡っていると聞いたことがあるぞ。


「特に人の移動は厳しいので、事実上陸路しか利用できないですね」

「それじゃあ、陸の魔物討伐はありますか?」

「街道沿いに出る魔獣の討伐はありますが、少ないですね。畑などは城壁の中にあって、主な食料は船で運ばれてくるので。この町では城壁の外で畑などを魔獣から守る必要がないんですよ」


 そういえばこの町に入るとき、穀倉地帯を見掛けなかったな。魚も捕れるし城壁の中だけで生活できるんだな。

 荷物の積み下ろしをする仕事もあるそうだが、不定期みたいだ。受付嬢に聞いた限りでは、あまりいい仕事は無いようだなと、考え事をしてギルドを出ようとしたら、人と肩がぶつかってしまった。


「おっと、すまなかった。大丈夫だったか」

「いや、こちらこそ失礼した」


 すまないと謝って見たその男は、獣人ではなく海洋族の男だった。

 首にエラらしきものがあり、手には水かきがあった。尾ヒレやしっぽなどは無く、2本足で歩いている。耳は斜め上にヒレのように広がっているが、他は人間と同じような西洋風の顔立ちだ。俺からぶつかったのに、礼儀正しく言葉を交わしていたな。


「下半身が魚のような人魚を想像していたが、少し違ったようだ」


 呟きながら外にでる。その後は浜辺に行き漁師の仕事を見たり、商店で商売の様子を聞いたりした。


 夕方。宿に戻りカリン達とも話をする。


「ここはのんびりとしたいい町なんだけど、人が少ないせいか冒険者ギルドでの仕事は少なかったわね」

「私も商業ギルドで聞いてきたけど、この町で船の荷物を扱う商売は、ギルドにものすごいお金を払わないとダメなんだって」

「カリンの父親がしていたような、卸業の商売は難しいという事だな」


 チセは港にも行ったようで、荷運びしていたドワーフ族から話を聞いたそうだ。


「あの人達は、船に乗って港を渡り歩くそうです。あたしにもできるか聞いたんですけど、船の中での仕事もあって、体が小さいあたしでは無理だって言われました」


 船員のドワーフ族以外にも、港で手伝う現地の人もいるそうだが稼ぎはそれほど良くないらしいな。


「あの港には船を修理する工房があるそうです。明日行ってみるつもりです」


 職人のチセなら、そんな場所で働くことも可能か。俺は木を切ったり加工する事もできるし、一緒に行ってみるか。

 翌日、港の工房に行き話をしてみる。港の一角、船を修理するだけあって広い土地を持つ船工房だった。


「そうだな。お前達を雇えん事もないが、今は人手が足りてるな」


 船職人の親方は俺達を見て、そう言った。それにこの仕事をするなら、見習いから始める事になるとも言ってきた。職種が違うのだから当然ではあるが、2、3年は修業しないと、まともに働くこともできないそうだ。


 お昼前、宿に戻りみんなと集まって相談する。


「船工房で働くのは、無理だったよ。やはり仕事自体が少ないようだな」

「やっぱり、アルヘナぐらい大きくないとダメかしら」

「でもアイシャは、トリマンみたいに大きすぎるのは嫌なんでしょう」

「あたしはシャウラ村がいいと思います。この町には村の人を騙すような商売人もいますし」


 まあ、チセの言う事ももっともなのだが。


「あの村に住むとなると、毒の川を何とかしないと駄目だろうな。安心して住むことができない」

「将来、子供の事を考えると水やその他の安全は絶対必要だものね」


 他の地域を旅しても、状況は同じようなものだろうな。安全で便利なのは町だ。アルヘナ程度の町を探す事になるか。

 王都……ここでは首都のレグルスのような大都会も考えた。警備はしっかりしているはずだ。王都もそうだったが、中途半端な都市より治安はいい。

 大きな町では商売で稼ぐか冒険者として働く事になるのだが、支配者となる豪商が町を取り仕切っている。貴族ほどではないが、全く自由と言う訳にもいかんだろうな。


 コネが必要なそんな場所で、商売するのは嫌だとカリンは言い、貧富の差が大きな街で、生涯にわたり生活できるのか不安だとアイシャは口にする。前の世界のように働きづめの生活になる可能性もある。


「すると、やはり村での生活が一番良さそうか……」


 支配者や質の悪い商人の影響が無くなるわけではない。村が単独で存在することは無く、必ず近くに町がありその支援を受けながらの生活となるからな。それは王国でも共和国でも同じだ。自給自足の生活に近く魔獣の危険は常にあるが、自由な生活は可能だろう。


「ユヅキさん、まずはシャウラ村に戻って、やれるだけの事をしてみませんか」

「そうだな。毒の川の事も中途半端で終わらせるのは嫌だしな。シャウラ村に戻ってみるか」


 俺の求めるスローライフがそこにあるかは分からんが、あの村なら暮らしてみてもいいだろう。

 家を建てたり、魔獣を追い払ったり忙しくてのんびりと生活なんてできないかもしれんが、やってみる価値はある。


 俺がそう言うと、みんなも意見は一致した。明日にでも村に戻るか。それならとカリンはお土産が見たいと商店街に行くと言うので、みんなで行ってみる事にした。


 土産物屋を見て回って歩いていると、鹿族の若い獣人に声を掛けられた。


「すみません。あなたはユヅキさんという冒険者でしょうか」

「そうだが君は?」


 青銅ランクの冒険者のようだが、知らない顔だ。そもそもこの町に知り合いの冒険者などいない。


「良かった。僕はあなた方を探すように依頼を受けていたんです。ユヅキさんに指名依頼が入っているそうなので、ギルドまで来てくれませんか」


 俺達を探してまで、依頼をしてくるとはどんな依頼者だ。

 青銅冒険者と一緒にギルドに行くと、そこにはリザードマンの若い女性が待っていた。この人が俺達を探していた依頼者だという。

 リザードマンを見るのは初めてではないが、トリマンや他の町では馬車の上から見ただけで、こんな間近に見るのは初めてだ。


「良かったわ。まだ町を出ていなかったのですね。シャウラ村の調査依頼をしに来ました。詳しくお話ししますので来ていただけますか」


 そう言って一緒に歩くリザードマンの女性は、頬から頭上に向かって斜めに緑のとがった耳がある。魚のヒレのような耳だが、後は人間のような顔立ちで、極薄い緑のロングヘアだ。歳は二十歳前後だろうか、クリッとした薄い黄色の目で少し幼く見える。

 後ろ姿はリザードマンっぽく、緑の太い鱗のついたしっぽがある。膝から下は鱗があり靴に隠れているが、大きな爪がありそうな足だ。


 このリザードマンの女性とは初めて会うが、どこで俺達の事を知ったのか?

 ギルド職員と共に連れられて入った応接室で説明を聞く。

 シャウラ村の調査と言っていたな。どんな依頼だろうと思いつつも、言われるままソファーに向かい合わせに腰掛ける。


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