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第21話 港町の冒険者ギルド

 港町の冒険者ギルドは2階建ての建物で、アルヘナよりは小さいな。人口も少ないと言うから、この程度で充分なのだろう。

 俺とチセで牛の魔獣の革などを持って、奥の大きなカウンターの上に置いた。


「すまない、これを買い取ってもらいたいんだが」

「ほほう、水牛魔獣の革か、それと魔石と角だな。よくなめしてあるな。上等品じゃないか。革をうちで買い取ると手数料がかかるから、店で売るより少し安くなるがそれでいいか」


 革の質もよく見てくれているようだ。加工品の転売になるから、革の専門店に直接売るより手数料分だけ安くなるが仕方ないな。


「その牛革、1枚でいくらぐらいになりそうだ」

「そうだな、銀貨35枚程度だな」


 店で聞いた最初の値段の倍以上、牛革全部で銀貨280枚なら充分だ。


「お前達は、見慣れない顔だが、依頼書は持っているか」

「シャウラ村の者から直接依頼された。依頼書はない」

「シャウラ村からは時々依頼が来るな。緊急なら仕方ない、買取書だけ作ろう。窓口に持って行ってくれ」


 受付窓口前のテーブルで待っていた村人に、牛革が倍ほどの値段で買い取ってもらえると話をしたら、最初驚いていたが高く売れたと喜んでくれた。


 やはりあの商人は村人達を騙していたようだな。あの店だけでなく、この町の商人全体で村人に対する相場を決めているようだ。

 馴染みだからと同じ店で売っていたから、こうなってしまったんだろうが……やはりこの国の商売人は油断ならんな。


 買取書を受付窓口に出して、お金を受け取る。魔石なども含めて全部で金貨3枚と銀貨80枚になった。魔石には少々傷があり少しだけ安くなったが充分だ。

 お金を受け取った後、ギルドの受付嬢が俺達に尋ねてきた。


「今回は直接の依頼なので実績を付けられませんが、このギルドをホームとして登録されませんか」


 そういえば俺は、この共和国に来てホームギルドを登録してなかったな。アイシャ達は確か最初のドウーベの町で登録していたはずだが。


「アイシャ達も、このカイトス支部で登録しておくか?」


 冒険者はホームとして1つの支部を登録している。ホームで受ける依頼が多くなるから、優秀な冒険者の多い支部は成績が良くなる。冒険者の名前の前には支部名が付けられ、俺の場合だとアルヘナのユヅキとなる訳だ。

 もちろんホーム以外の支部でも依頼は受けられて、その成績は受けた支部の成績となるが、依頼達成者の名前にはホームの支部名が記される。ホーム支部の宣伝になるという訳だ。


「そうね。ドウーベの町にはもう行かないし、ここで登録しておきましょうか」


 ドウーベではギルドマスターがアイシャ達を熱心に引き留めていたようだが、ドウーベには縁もゆかりも無いからな。俺もアルヘナ支部の名が変わるのは寂しい気もするが、あまりにも遠く離れ過ぎた。ここでホーム登録しておくか。


 俺達は冒険者プレートを窓口にある木の板の上に置いて登録してもらう。その後、後ろのテーブルで待っていた村人にお金を渡して、ギルドを出て馬車に戻る。


 さて、次はマンドレイクを売りに行くのだが。


「ユヅキさん。すまないがマンドレイクもここの冒険者ギルドで売りたいんだが、頼めるかい。いつもの店ではもう売りたくないんだ」


 マンドレイクは今日行った店とは別の、薬草を扱っている店で売るつもりだったようだが、もうこの町の商人は信用できないようだな。


「そうだな、売れるかどうか聞いてみよう」


 マンドレイクは俺達も初めて目にする物だ。買い取ってくれるか分からんが、聞くだけ聞いてみよう。もう一度冒険者ギルドのカウンターに戻り、マンドレイクを1本だけ持ち込む。


「マンドレイクとは珍しいな。採取の依頼が来ることはあるが、ここでは買い取っていないんだ。物は全て魔術師協会で引き取っている。何でも特殊な処理がいるらしいぞ」


 そうなのか。まあ、確かに薬剤に関してはそっちの方が専門だからな。


「魔術師協会に行かないとダメなようだ。少し時間が掛かるから、マンドレイクは明日売りに行かないか」

「そうですね。じゃあ明日の朝鐘3つに城門の前に来ていただけますか」


 村人達は城門近くの広場で馬車を停めて、その中で眠ると言っている。

 いつもそうしているようで、宿屋に宿泊するお金を節約しているそうだ。

 村人には悪いが、俺達は宿屋で休ませてもらおう。


 馬車を停められる宿屋を探す。港からの積み荷を運ぶ商人が多いようで、馬車も一緒に泊まれる宿はすぐに見つかった。


「ねえ、荷物を置いたら町のレストランに行きましょうよ」

「そうだな。この町の名物料理を食べに行こうか」


 カリンはここの魚料理を楽しみにしていたからな。美味しそうな魚を出す店を見つけて、みんなと夕食を共にする。

 テーブルには、多くの新鮮な魚料理が並べられた。


「トリマンの町のお魚も美味しかったけど、ここのは格別ね」

「ほんとね、新鮮だし、こんな大きなお魚まであるのね」

「ほらチセ、この料理も美味しいぞ」

「何でしょうね、この魚。見たことない料理ばかりで楽しいです」


 ここの店は魚料理が豊富で色々な種類の料理を出しているな。もしかしたら、ここにはあるかもしれん。店員さんを呼んで尋ねてみる。


「すまんが、この店に刺身……。生の魚料理はあるか?」

「いえ、いえ。この店ではちゃんと火の通ったお料理をお出ししています。生なんて出したことはありません」

「師匠、当たり前ですよ。ここはレストランなんですから」

「ほんと、ユヅキは時々変なこと言うわね」


 やはり生魚を好んで食べるのは日本人だけか。刺身どころか醤油や米すらないこの世界で、日本食を食べるのは無理なのか。少し悲しくなるな。

 まあ、無い物ねだりしても仕方ない。今夜はここの料理を楽しもう。

 明日時間があれば、みんなでこの町の観光名所を見て回ろうということになった。


 お腹も一杯になり宿に戻る。宿はふたり部屋を2つ取っている。今夜は俺とアイシャが一緒の部屋だ。ベッドを並べて横に寝る。


「ユヅキさん。私は早く落ち着ける場所を見つけて、静かに暮らしたいわ」

「そうだな。王都を出てずいぶん経つし、馬車での移動も疲れるからな。俺もアイシャとどこかでゆっくり暮らしたいよ」

「私はユヅキさんとの子供を産んで育てるのが夢なの。そのためにもずっと暮らしていける場所が必要なの」


 前の世界では結婚すらしてなかった。そういえば同僚は幼稚園に通っている子供がいたな。俺が子供を持って育てるなど、今まで考えたこともなかった。


「俺は星でも見ながらのんびりと、誰にも邪魔されないような生活を送りたい。そこには愛するアイシャとその子供達も一緒だ。それまで俺について来てくれるか」

「はい、ユヅキさん。私達はいつまでも一緒なんですもの」


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