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第17話 シャウラ村の復旧

 翌日、俺は村長にこの村に留まって、家の建て直しを手伝うと告げた。村長は喜んでくれて、食事は村で用意すると言ってくれた。

 家を失った人達は村の寄合所に寝泊まりしている。そこの食堂で俺達も一緒に朝食を摂る事になった。村の人達が口々にお礼を言ってくれる。


「昨日は治療してくれてありがとう。すごく楽になったよ」

「あんなに強いのに治療までできるなんて、あんたらはすごい冒険者なんだな」

「あのお空に飛んでたの、ドラゴンの子供ってホント?」

「そうだよ。噛んだりしないから、みんなも仲良くしてやってくれるか」


 寄合所にいた子供達が、キイエを見て興味を持ったようだ。その後キイエを連れて来て子供達に撫でてもらう。

 そこへ村長がやって来て、今日の予定を皆に話す。


「食事中すまんな。今日は潰れた家から家具や石垣の岩など使える物を運び出す。村の者も手伝ってくれるから、怪我した者は無理せずここで休んでくれ」

「俺達もそれに参加すればいいのか」

「ああ、お願いする。地下室は壊れていないから、その上の物を片付けてくれ」


 こんな村に城壁などない。そのため魔獣などを防ぐ石垣の塀が、各家の周りに築かれている。

 その塀が破られた時のために地下室があって、魔獣が立ち去るまで地下室に避難し、助けが来るまで待つことになる。

 いつも死と隣り合わせの暮らしをしている。それでも村人達は故郷を離れることはしないのだろう。


「一軒ずつ片付けをしていく。すまんがあんたらもこっちを手伝ってくれ」


 家の住民の指示に従って、この家具はこっちとかこの岩をどけてほしいとか、要望に応じた仕事を進めていく。災害にあった地区に行くボランティアみたいな感じだ。

 村人も総出で手伝っている。小さな村だ、いつもこうして協力し合っているようだな。


 チセには石垣に使っていた岩を運んでもらう。力持ちだしな。カリンは使えなくなった家具などを燃やしてもらったり土を移動させたりと魔法を使ってもらう。アイシャには魔獣の解体や革を作る手伝いをしてもらっている。適材適所だ。


「大体できたな」


 今日だけで2軒の潰れた家の片付けは終わり、今は更地のようになっている。アイシャも解体作業が終わったようだ。

 ここ以外に一部の石垣だけが崩れた家もあるそうだが、それは家の者だけで修復できると言っている。


「これほど早くできるとは思っていなかった。ユヅキさんだったかな。ありがとう」

「アイシャさんも、解体を手伝ってくれて助かったよ。折角の肉をダメにするところだった」


 本来この村だけでするべき事だと村長は言っていたが、外部の者の手を借りないと復旧は上手く進まない。

 俺達は今日も、寄合所の食堂で村人達と食事をする。


「この村には何人程住んでいるんだ」

「子供も含めると150人ぐらいだな」


 子供と老人を除いて成人で働けるのは半分ほど。そのうち男手はもう半分ぐらいか。やはり少ないな。


「この後、家はどうやって建てるんだ。街から職人を呼ぶのか?」

「いや、俺達でできる。岩積みや補修なんてのは慣れたものだからな」


 確かに家の周りの塀も、家の壁も岩を積み上げて固めた物だ。家の内装などに、木工職人やタイル職人が作っている物はなかったな。村長の家の中も岩がむき出しだった。

 どの家も平屋で2階建ての家はない。自給自足の生活だし、外部の手を借りず自分達で加工できる範囲に留めているのだろう。

 明日からは破壊された家の壁の石積みもしながら、家を復旧していくらしい。


「アイシャ、カリン、チセも今日はお疲れ様だったな。まだ明日もあるからゆっくり休んでくれ」

「はい、ユヅキさんも無理しないようにね」

「ユヅキは歳なんだから、筋肉痛だとかになっちゃうんじゃない」

「俺はそんな歳じゃないからな。働き盛りだぞ」

「力仕事は、あたしがやりますから、師匠は休んでくださいね」


 いや、だからそんな歳じゃないって。俺はまだ30歳になってないんだからな。あれ、この世界に来てどれくらい経つ? いやまだ大丈夫だ。


 翌日、家の石積みを手伝ったが、少し腰にきたな。

 カリンは魔法で岩を積もうとしたが制御できず、結局手で運んで体が痛いと寝込んでいる。

 お前の方が体力ねーじゃんか。1週間程で3軒の家と周りの石垣が完成した。


「今までありがとう、これは君達への報酬じゃ。受け取ってくれ」


 村長から金貨2枚と銀貨80枚を受け取った。食事付きでこれなら充分な報酬だ。


「そういえば村長、村の前に流れている川は毒の川だと言っていたが、俺達が飲んでいた水はどうしていたんだ」

「ここから川下に鐘1つ行った所に綺麗な川があってな。そこまで馬車に水瓶を積んで毎日運んでおるよ」


 それなら、俺達の馬車も使ってもらっても良かったんだが、ここの生活に干渉するのは良くないかもしれんな。俺達は一時的に滞在しているお客さんだからな。


「ユヅキさん、ここの川だけど少しおかしいわ」


 まあ、毒の川だしな。


「毒は普通、上流の毒の草が染み出して流れてくるの。その色は緑か黒色。ここの川は紫色だわ」

「実はな20年ほど前からここは毒の川になってしまってな、その前は綺麗な川じゃった。当時も原因を調べようと裏山に入って行ったんじゃが、分からなくてな」


 町の冒険者に依頼して調査してもらったそうだが、はっきりした原因は掴めなかったそうだ。


「裏山の上には木の魔物が住み着いておって、そいつが原因じゃないかという事になったんじゃが……」


 木の魔物がいる山の奥へは進むことができず、そこで調査は終了したそうだ。それを聞いたアイシャが疑問を投げかける。


「木の魔物は毒も出すんですか?」

「いや、そんなことはないと思うんじゃが……冒険者が調査した事なんでな」


 村人はその調査を信じるしかなかったようだ。その後、木の魔物を討伐しようとしたができなかったらしいな。アイシャ達はその木の魔物の事を知っているようで、村長に提案する。


「それなら私達が調べましょう。いいでしょう、ユヅキさん」

「まあ、この村には世話になったしな」

「私もその山の上にいる木の魔物の所に行きたいわ。今度はリベンジしてやるわよ」


 カリンは木の魔物に恨みでもあるのか? 討伐する気満々だな。


「村長、少し俺達に調べさせてくれんか」

「それはありがたい事なんじゃが……。すまんがもう出せる報酬も無くてな」

「じゃ、今まで通り食事を作ってくれるだけでいい。俺達から言い出したことだ」

「そうか、それなら助かる。ぜひともやってもらいたい」


 村長は明日、道案内役をひとり付けてくれると言っている。俺達は裏山の地形などを聞いて、明日から調査に行くことにした。


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