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第14話 トリマンの魔道弓店

「やっぱり広いわね、この街」


 翌日も、ゴーエンさんを探して街の鍛冶屋を訪ねる。昨日みたいに暴漢に襲われるかもしれない、今日は4人分かれることなく一緒に行動する。

 今日キイエは町の外の森に居てもらっている。これまでも街中で驚かれたり騒がれるときは、森に居てもらい夕方に迎えに行く事もあった。鎖を付けて不自由になるよりもいいだろう。


「キイエには悪い事をしましたね、師匠。アルヘナではこんな事無かったのに……」

「そうだな。キイエには辛抱してもらう他ないな」


 昨日は色々とあって、二手に分かれても4軒の鍛冶屋しか見つけられなかった。今日も昼を過ぎても3軒しか探せていない。

 これは後何日も掛かりそうだな。


「ねえ、ユヅキさん。昨日私達を襲って来た人達。魔道弓を持っていたわよね」

「そうだな。この国にも輸出しているんだな」

「私も昨日、魔道弓を持っている冒険者を何人か見かけたわよ。こっちでも流行っているのね」


 アルヘナの町で職人達と作った物が、こんな遠くまで広がっているとは思ってもいなかった。


「師匠。この近くに武器屋街がありますよ。その輸出されている魔道弓を見に行きませんか」


 そうだな。鍛冶屋を探して狭い路地ばかりを見て回っているからな。気分を変えて大通りの武器屋街に行ってみるのもいいか。アルヘナの魔道弓がどんなふうに売られているか興味があるしな。



「すまないが、ここにこんな弓、魔道弓はあるか」

「魔道弓なら専門店でしか売っていないな。この2筋向こうの店だ」


 俺の持っている弓を見せて聞いたが、ちゃんと魔道弓という名前で売っているようだな。正式にアルヘナと契約しているのだろう。


「ユヅキさん、この店みたいよ」


 3階建ての建物の1階を武器屋として営業しているようだ。それほど大きくない店だが綺麗で、門の上には魔道弓をかたどった真新しい看板が掲げられている。まだ建てたばかりの新しい店のようだな。


「いらっしゃいませ。魔道弓の購入でしょうか」


 若い猫族の娘さんが、明るく声をかけてきてくれる。


「少し魔道弓を見せてくれるか」

「はい、どうぞ。3種類の弓の強さがあります。お手に取って見てください」


 やはりこうやって、陳列されている物を見るとかっこいいな。俺は職人が作ったのをそのまま使っているから、商品として見るのは新鮮だ。


「お客様も魔道弓を持っていらっしゃるのですね。年季の入った物のようですが」

「ああ、かなり前から使っているからな」

「お客様は、王国の方ですか。このあたりで魔道弓を販売したのは最近ですので」

「そうだ、アルヘナの町から来たんだ」

「あの、失礼ですが、あなたはユヅキ様でしょうか」


 なぜ俺の事を知っている? 俺はこの猫族の人は知らないのだが。どこかで会ったか? 三毛猫のような斑の髪色や、三角の耳の中までモフモフなこの娘なら忘れるはずはないのだが……。

 繁々と顔を見つつ尋ねる 


「そうだが、よく俺の事を知っているな」

「やっぱりそうですか。ユヅキさんの事はお義父さんからよく聞いています。どうぞこちらに上がってください。あなた、ユヅキさんが来てくれたわよ」

「えっ、あのユヅキさんかい。どうぞこちらへ、こんな遠くまでよく来てくれましたね」


 奥からドワーフ族のまだ若い男性が顔を出した。笑顔で俺達を歓迎してくれる。


「あなた方の事は、父さんから聞いています。ハダルの町で命を助けてもらい世話になったと」

「すると君はゴーエンさんの息子さんか?」

「はい。父さんは今、商業ギルドに出かけていて、もうすぐ帰ってくると思います」


 俺達は店の奥の、接客用なのか打ち合わせの部屋なのか、少し広い部屋に通された。お茶とお茶菓子もテーブルに用意してくれて、俺達も椅子に腰かける。


「ゴーエンさんからは、息子夫婦に日用品を作る工房を譲ったと聞いていたんだが」

「前の工房と家は、魔道弓を専門に製造するための工房に変えました」

「ほほう、製造までしているのか」

「はい。父さんがアルヘナの職人ギルドから製造許可と商業ギルドから販売許可を取って、この町で製造販売しています」


 主要部品はアルヘナから送ってもらって、ここで組み立てを行なっているそうだ。前の世界でいうOEMというやつだな。

 この町での販売が順調で、工房に人を雇いこの販売所を新しく開いたという。


「この販売店の2階を私達が、3階に父さんと母さんが住んでいるんです」


 2世帯住宅というやつだな。半年ほど前に買った新築の家だそうだ。それで店も新しく綺麗だったんだな。


「あっ、父さんが帰って来たようです。父さん、父さん。ユヅキさん達が来てくれたよ」


 店の方から入って来たのは、まぎれもなく探していたゴーエンさんだ。懐かしい顔に出会えて、立ち上がり両手を広げ握手を求めた。


「やあ、ゴーエンさん久しぶりだな」

「おお、ユヅキ君にアイシャさん、カリンさん、チセちゃんまでよく来てくれたな」


 俺達はゴーエンさんと奥さんが住む3階に案内された。そこでゴーエンさんと別れた後のいきさつや、アルヘナでの動乱について詳しく話をした。


「アルヘナの町でそんな事があったとはな。ワシもあれ以来、王国へは行っとらんから知らなかったよ」

「俺達は共和国内で、のんびりと暮らせる場所を探している」

「それならワシにも役に立てる事はあるな」


 そう言って立ち上がったゴーエンさんは、机の引き出しから簡単な共和国の地図を持ってテーブルに置き説明してくれる。


「今君達がいるこのトリマンの町は、ハマル共和国の中でも王国側に寄ったこの位置にある」


 王国との国境から南に3分の1程の位置にある、町の絵を指差し説明する。


「この国の中央付近には首都レグルスがある。首都と言っても共和国内で一番大きな都市というだけのものなんだがね」

「ここが、首都レグルスに支配されているという訳ではないんだな」


 共和国は、それぞれの商業都市が集まり国という形を作っていると聞いている。ゴーエンさんの説明では、軍事的な連携などは国全体でやっていて、外交はレグルスでしているそうだ。


「我々は縛られている訳ではない。応分の負担をしていれば文句を言われることはないんじゃよ」

「決まり事などはどうしている。王国では町の領主が決めて平民はそれに従っていたが」


 この町では5人の代表者が色々な事柄を決めているらしい。町の豪商だが、5年に一度その代表者は交代する。国全体の商売の基本的な事は、首都の商業ギルドが決めて各都市のギルドに通達しているようだな。


 俺達はあまり支配されない、のんびりした所で暮らしたい。それはアイシャ達も同じで、自由のある暮らしがいいと言っている。


「そうなると、田舎の小さな村か町になるんだが、魔獣の脅威も大きくなる。この町のような城壁が無いからな」

「大抵の魔獣なら、私の魔法やみんなで倒せるし大丈夫だと思うわ」

「そうだな、カリンさん達は充分強いから大丈夫かもしれんな。後は何かあった時に、その村なり町だけでは対応できない事があるということだ」


 ゴーエンさんは地図を見ながら説明してくれる。


「例えばこのトリマンと港町は街道で1日の距離だが、ここに街道から離れた小さな村がある。病気や怪我をした時はここか港町に行くんだが、どちらへも馬車で約2日の距離だ。生活用品の確保にも事欠いているようだ」


 前の世界でも田舎暮らしにあこがれて暮らしてみたものの、不便でまた都会に帰って来た人達もいる。それと同じになるかも知れないということか。


「ユヅキ君達はアルヘナで暮らしていたから、このトリマンでも暮らしていけると思う。もし離れるにしても、ある程度大きな町に近い所がいいと思うな」

「この町は、どんな所だ」

「それぞれの都市によって特色があってな、ワシも共和国内を旅して回ってきたが、この町は成功者にはいい町だ。だが失敗した者には厳しい町だ。何かにつけ物の値段が高いから、生活できなくなる者も出てくる」


 なるほど、都会的な生活で貧富の格差も大きいということか。俺達には冒険者として今までの経験がある。この町の大きな冒険者ギルドなら、仕事に困ることはないという。

 確かに仕事も大事なのだが、アイシャ達も俺ものんびりとした暮らしを希望している。


「そうなるとユヅキ君達には、この港町の方がいいかも知れんな。アルヘナの町と同じぐらいの広さだが、人は少ない。半分ぐらいだろうか」

「その港町に俺達ができる仕事はありそうか」

「冒険者ギルドはあるから、仕事はあると思う。じゃがこことは違って、船からの荷降ろしの倉庫が多く、住民達はその運搬か魚の漁などをして暮らしておるよ」

「ありがとう、ゴーエンさん。少し考えてみるよ」


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