第13話 ゴーエンさんを探して
ゴーエンさんの工房を探していくが数が多い。日用品を作っている鍛冶屋は、消費者の近くで作って売るというスタイルなんだろう、街の至る所に点在している。
「別れて探そうか。これだけ広いと何日もかかりそうだ」
カリンは方向音痴なので、チセと組ませるか。護衛にキイエを付ければ、大丈夫だろう。俺もまだ街には不慣れだ、アイシャと一緒に探そう。
「チセ。これが書き写した地図だが、大体の位置しか分からない。ゆっくりでいいから1軒ずつ探し当ててくれ」
「はい、師匠。私達は、ここからこっち半分を探しますね」
「ああ、頼む。鐘5つの夕方前には一旦この教会前に集まろう」
「チセ、どんどん探すわよ。ついてらっしゃい」
「カリン。そっちじゃなくて、あたし達はこっちでしょ!」
大丈夫か、あいつら。
俺達も近くの工房から探していくが、思ったより大変だ。知らない街の入り組んだ路地を歩いて行くと、方向感覚がずれて地図の場所になかなか辿り着けない。
行き交う人に尋ねて近くまで行くが、生活雑貨の工房は小さく路地の奥まった所にあったりと見つけるのも大変だ。
暗い路地を歩いていると、アイシャが俺の袖を引っ張る。
「ユヅキさん。さっきから誰かが跡を付けて来ているの」
「どうもそのようだな。道が分からんから巻くこともできんな」
不慣れな街中。治安の悪い地区に入ってしまったかもしれん。それならいっそおびき出したほうが早いか。わざと突き当たりになっている小道に入り、アイシャを背に待ち伏せる。
「旅の観光客かい。こんな所にふたりっきりで入ってくるとはな。金持ちなんだろう、オレ達にも分けてくれよ」
チンピラのような獣人3人組。一番前の者がナイフを片手に近寄り、後ろのふたりが逃げ道を塞ぐように路地の出口に立つ。
「あいにくだな、お前達にくれてやる金は無い。この腰の剣が見えなかったのか、そんなナイフで俺とやり合うつもりか」
ドスのきいた声で、マントから剣を相手に見えるようにする。この威嚇で引いてくれればいいんだがな。
「威勢がいいな。こっちには魔法も弓もある。そんな剣1本で何ができる。後ろのお連れさんは、恐くてうずくまっているぞ」
そう言って後ろのひとりが杖を、もうひとりが弓を構える。
「ほほう、魔道弓か。まさか共和国でそれを見るとは思わなかったぞ」
「アニキ、あいつらこの弓の事を知ってますぜ。それに奴は人族……大丈夫ですかい」
「ビビってんじゃねえ。この距離だ、まずは一発お見舞いしてやれ」
チンピラが魔道弓で狙いを付けた瞬間、俺は前に走り出す。
「は、早く撃て!!」
「ギャア~」
弓を構えたチンピラは撃つこともできず、足を射抜かれて地面に突っ伏す。後ろからアイシャが俺の持っていた魔道弓で矢を放ったようだな。
右の魔術師が氷の矢を俺に撃ってきた。水属性ならこのマントで防げる。
「べ、別属性を撃て!」
前方のチンピラが叫び、岩を撃って来たが超音波振動を起動させた剣で真っ二つにする。その魔術師にもアイシャの矢が放たれ、肩を射抜かれて叫び声と共に地面に倒れ込む。
「後は、お前だけだぞ!」
ナイフを持つ男に肉迫するとナイフを突きつけてきたが、剣で払いのけ峰打ちで胴に一撃を入れる。あばらが折れたか、息も絶え絶えに苦しみながら地面にうずくまっているが自業自得だな。
「ユヅキさん、魔道弓ありがとう。これからどうします? 衛兵の所に行きますか」
アイシャが俺の元まで来て魔道弓を返してくれる。まあ死人は出ていないから、このままでもいいんだが、一応衛兵に報告だけしておくか。チンピラの持つ魔道弓と杖も破壊しておいて、城門に駐在する衛兵の所まで行ってみる。
「あれ、なんでカリンとチセがいるんだ?」
衛兵の詰所に行くと、カリン達が椅子に座らされて何か取り調べされているようだ。
「あっ、ユヅキ。こいつらに言ってやってよ。私達悪くないもの」
「いや、いや。あんたら魔獣を街に持ち込んで、人を攻撃させちゃダメだろうが」
衛兵の話を聞くと、キイエが炎を吐いて人を襲ったという。キイエがそんな事するはずないのだが……。
「師匠。誰かがキイエを捕まえようと襲って来たんです」
チセの話を聞くと、カリンの肩に止まっていたキイエに袋を被せようと、2人組の男が後ろから襲ったようだな。キイエは飛んで逃げたが、カリンが押されて倒れ込んだそうだ。
チセがキイエに指示して、威嚇のため地面に向けて炎を吐かせたところを衛兵が見かけたようだ。
衛兵は直接キイエを見たわけでなく、通りから魔法の炎を見て駆けつけたと言っている。この町では生活魔法以外の魔法を使ってはいけないと明確なルールがあるそうだ。
「この者達は使役魔獣だと言っているが、どこに逃げたかも分からん。街中で初級以上の魔法を使う事は禁止されている。それだけでも犯罪に当たる」
「チセ達は暴漢に襲われたと言っている。魔法で反撃するのは正当防衛だろう」
「そうなのだが、魔獣はドラゴンだとかこいつらの言う事は信用できん」
そういえばここにキイエはいないな。衛兵が駆けつけた時、チセはややこしくなりそうだとキイエを空に逃したそうだ。
使役魔獣証書は宿に置いているしな。それなら直接キイエを見てもらうか。俺は外に出て、空に向かって指笛を思いっきり鳴らした。
「キ~エ」
遠くでキイエの声がして、近づいてくる姿が見えた。
「偉いぞ、キイエ」
チセの指示に従って、遠く離れた場所からカリン達を見守っていたんだな。肩に止まるキイエが頬ずりしてくる。キイエを肩に乗せたまま、衛兵たちの居る場所へと戻る。
「これがさっき言っていた、ドラゴンの子供のキイエだ。使役魔獣の印である冒険者プレートを足首に巻いている、確かめてくれ」
初めて見るドラゴンに驚きながらも、足首のプレートに刻まれた名前を確かめる。
「確かに使役魔獣ではあるが、街中で魔法を使用したことに変わりはない」
「ならば、その被害者を連れてきてくれ。カリン達に危害を加えようとしたから、ここに来る事ができないんじゃないのか」
俺達も暴漢に襲われて、ここに来ている。被害者なら訴えに来るはずだと、その衛兵に詰め寄る。
「分かった。お前達の言い分を認めよう。だが今後、その使役魔獣を連れ歩くときはくさりで繋ぐなどの対処をしてもらうぞ」
それもこの町のルールのようで、犬のように常にリードを付けた状態でないと街は歩けないそうだ。
何はともあれ、カリンとチセは解放されて一緒に宿に向かう。もう陽も傾いてきた。今日、ゴーエンさんを探すのはもう無理だな。




