第12話 ドワーフの町トリマン
「ここがドワーフの町トリマンか、アルヘナよりも随分と大きな町だな」
俺達は共和国を馬車で旅してきて、ようやく最初の目的地に到着した。アルヘナの3、4倍はありそうな都市ともいえる大きさだ。入り口の城門前には荷馬車が並び、経済も発展していそうだ。
「やっと着いたわね。どんな町なの? チセのお仲間が沢山いるのよね」
「お仲間といっても、親戚も知り合いもいませんよ」
「そうよね、私達もゴーエンさんしか知らないし。この広い町で探せるのかしら」
「まあ、まずは中に入って宿を見つけてからだな」
門番さんに馬車の中を調べられたが、やはりケージ状の箱の中に居るキイエが気になるらしい。実際にドラゴンを見た人は少ないからな。人族の俺より珍しい。使役魔獣の登録証書を見せて一緒に町の中に入れてもらう。
ドワーフの町とは聞いていたが、街中には獣人やリザードマンもいる。ドワーフ族と半分半分ぐらいじゃないだろうか。行商人が多いのか馬車が行き交える広い通りと、馬車ごと泊められる宿も多いな。適当な宿を見つけて落ち着く。
「昼もかなり過ぎている。ゴーエンさんを探すのは明日にして、街中を回ってみないか」
「ついでに外で食事もしましょうよ」
「美味しい食べ物あるかな。楽しみね」
宿屋の主人に街の簡単な地図を描いてもらい、俺達は街に繰り出す。
地図によると中心に教会があって、円形の城壁に囲まれている。その街を商業地区や兵舎、職人の工房などがいくつかに分かれて点在しているようだ。
割と複雑な町並みだな。これは地図が無いと迷ってしまいそうだ。
「師匠。真ん中の教会に行って、そこから他の場所に行きましょう」
「そうだな、目印にはちょうどいいな」
教会の塔はどこにいても見つけられそうだ。泊まっている宿屋の方向を確かめながら中心にある教会に行ってみる。
教会といっても、宗教は遥か昔に廃れていて、ここには学校や集会場、冠婚葬祭を行う建物が並ぶ。中央の塔には時を知らせる鐘があり、日の出から日の入りまで5回鐘を鳴らしている。
周りには公園や保育園のような建物もあり、ここはみんなが使う公共的な場所になっているようだ。
「初めての街だし、もし皆とはぐれたら、この場所に来るようにしような」
すると教会から鐘の音が響く。
――カンコ~ン、カンコ~ン
鐘5つ、午後3時の合図だ。立ち寄ったドウーベの町もそうだったが、共和国の鐘は軽い感じの音楽っぽい音だな。国によって音が違うようだが、これはこれていい感じじゃないか。
「じゃあ、商業地区に行って店を見たり、食事をするところを探そうか」
「は~い。どんな服があるのかしら。楽しみね」
「カリンは、おしゃれの事ばかりね」
「そりゃそうよ。『王国の服ってダサいね』なんて言われたら嫌でしょ。まずは服よ、服!」
「でも冒険者の服って、どこの町でも変わらないわよ」
「いつも仕事着ばかりじゃ、つまんないでしょう。このローブもなんだかダサいし」
カリン。お前は知らんだろうがそのローブは最高級ローブで、金貨15枚以上、日本円だと150万円は下らない価値があるんだぞ。見た目は他のと変わらんからと、雑に扱わんでほしいものだ。
アイシャとカリンは服の店に、俺とチセはガラス細工の店に入った。
「やはりドワーフの町だけあって、細かな細工のアクセサリーが多いな」
「そうですね。このガラスの色使いなんて、ちょっと真似できませんね」
「おお、風鈴もあるぞ。すごいな、こんな物まであるとは」
「師匠、何ですかそれ」
「夏の風物詩でな、風が吹くと音が鳴るんだ」
チリン、チリンと澄んだ綺麗な音が鳴っている。この世界にもこういうのがあるんだな。
「へぇ~、あたし初めて見ました。人族の国の品物ですか?」
「いや、人族だけではないと思うが。これから暑くなってくるし、1つ買っていくか」
「はい、いいですね」
俺達が店を出て商店の並ぶ道を歩いていると、アイシャが慌てた様子で俺達の元に駆けて来た。
「カリン見かけなかった。店からいなくなって、どこに行ったか分からなくなったの」
しょうがない奴だな。あいつは方向音痴のくせに、店を渡り歩いて自分の場所が分からなくなったんだろう。辺りを探したが見つからない。
仕方なく街の中心の教会に行くと、カリンがひとり不安そうな様子でウロウロしていた。初めての街だ、迷子になって心細かっただろうな。
「ユヅキ~。アイシャとはぐれちゃったの~」
俺を見つけて駆け寄り、泣きついてきた。頭を撫でて落ち着かせてやる。
「よし、よし。よくここで待っていたな」
「もう、ユヅキと離れない!」
ギュッと俺の腕を掴んで離さない。
「カリンだけなんてダメよ」
アイシャも反対の手に腕を組んでくる。
「あたしも~」
チセまで首に抱きついてきた。これじゃ歩けんだろうが。
その後は、レストランで食事をしてから宿に戻った。
「ここの料理、美味しかったわね、ユヅキさん」
「あのシュワシュワの透明な酒もうまかったな。名前何て言ったっけ」
「あの大きな魚料理。すごく美味しかった。もう一度食べに行きたい!」
「あたしはデザートが良かったです。あのアイス綺麗でしたね、師匠」
商業が発展しているのか、いろんな食材の料理があった。あの魚料理は海魚だったな。俺が持っている地図を見ると近くに港町もあるから、そこから運んでいるんだろう。料理を見ればその国の事情が分かると言うが、この国は豊かなのだろう。
お腹も満腹になり、久しぶりにベッドでゆっくり眠ることができた。
翌日からは、ゴーエンさんを探さないといけない。ゴーエンさんからは工房を息子夫婦に任せたと聞いていたが、その工房の名前を聞いていなかった。
職人ギルドに加入していれば、探してくれるはずだと、宿屋で聞いた場所へと向かう。
この町の職人ギルドは3階建ての大きな建物で、多くのメンバーがいることが窺える。
「すまないが、ゴーエンさんの工房を探している。ここで分かるか」
「ゴーエンという方の工房はありませんね」
「今は、その息子さんが継いでいて、日用品を作っている鍛冶屋なんだがな。息子さんの名前が分からないんだ」
「工房の主人の名前でしか登録していないので……日用品を製作している工房は、この町で14軒ありますね」
「そうか。すまないがその14軒全ての場所を教えてくれるか」
この広い町で1軒ずつ調べていくしかないようだ。少し骨が折れそうだな。




