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第8話 ドウーベの魔獣1

【アイシャ視点】


 ユヅキさんは、旅館の大浴場を造る仕事をすると言って、今日も職人さんと打ち合わせをしている。

 この町の主な観光場所は見終わったし、ずっと旅館に居ても暇するだけだわ。今日から私達は、冒険者ギルドに行って依頼を受けようと思っている。

 宿屋の料金は要らないそうだけど、食費ぐらいはここで稼がないとね。


「アイシャ、すまないな。討伐が大変だったら、すぐに言ってくれ。応援するから」

「こっちは大丈夫よ。ユヅキさんこそ立派なオフロ造ってね」

「ユヅキ、オフロ待ってるからね。できるだけ早く造ってよね」

「ああ、任せておけ。カリンも無茶するなよ。チセ、慣れてきたからといって、あんまり前に出すぎるなよ。怪我なんかしちゃダメなんだからな」


 カリンはユヅキさんが過保護すぎだといっているけど、私達の事が心配なのよ。ユヅキさんは優しいから。


「チセ。魔弾はあまり使わないようにってユヅキさんが言ってたけど、それで大丈夫なの」

「魔弾は貴重ですからね。魔道弓なら使えるし心配しないで、アイシャ」

「でも、馬車の中にまだまだ 沢山の魔弾があったわよ。あれだけあれば少々使っても大丈夫じゃないの」

「ダメですよ、カリン。これから先何があるか分からないんですから」


 アルヘナを出る時、持てる限りの魔弾を用意してもらったけど、やっぱり数には限りがあるものね。

 チセに聞くと魔弾も自分達で作れるそうだけど、ガラスの炉がいるとか鉄を加工しないとダメだとか難しそうな事言っていたわね。


「ユヅキがいなくても、私がついてるんだから大丈夫よ」

「カリンは、大きな魔法使って森を焼かないでね」


 ほんとはカリンの方が危なっかしいんだけど。まあ、私達3人なら簡単な魔獣討伐ぐらいは、やっていけるでしょう。



「アイシャさん、来てくれたんですね。ありがとうございます」


 この人は、初めてこの冒険者ギルドに来た時に、応接室にいた事務員さんだわ。ここで受付嬢もしているのね。

 旅館に届いたデンデン貝で「冒険者ギルドで仕事をしてほしい」と言葉を入れたのもこの人のようね。ちらっと掲示板を見たけど、たくさんの依頼が貼り出されていたわ。冒険者が足りなくて忙しいのかしら。


「この町にはどれくらい滞在するんですか? できたらその間、魔獣の討伐依頼を受けてくれませんか」

「いつまでか決まっていないけど、2週間くらいはこの町に滞在することになったの。その間はここに通うつもりよ。私達にできそうな依頼を選んでくれるかしら」

「ありがとうございます。早速ですが灰色熊の討伐はできますか。最近すごく多くの熊が出没して困っているんです」


 ここら辺にも、灰色熊は居るのね。カリンが得意にしているからちょうどいいわ。


「灰色熊って、岩を投げてくる熊のことでしょう」

「そうなんですよ。強敵でこのギルドの手練れも苦労していて……」

「あいつら弱いから嫌なのよね。魔法の練習にもならないし」

「そうですよね。キイエも遊び半分で岩を砕いてますしね」

「へっ? あの灰色熊ですよ」


 受付嬢が何か妙な顔してるけど、まあいいわ。


「困ってるって言ってるんだから。私達で狩れるだけ狩りましょうか」


 この町の近くの地図を見せてもらって、まずは町の東に広がる魔の森に向かいましょう。


「初日だし、森の様子とか見ながら討伐していきましょうね」

「アイシャ、草原の端に灰色熊がいますよ」

「まあ! 森から草原に出てきているの。人に危害を加える前に倒さないと」

「それじゃ、ここから魔法撃つわね。怒って向こうからやって来てくれるわ」

「そうね、そうしましょうか。チセは一応前に出てくれるかしら。あっ、キイエも一緒に連れて行ってね」

「は~い。カリン、あたしに魔法当てないでよ」

「そんなヘマしないわよ」


 カリンが魔法を撃つと、思った通り熊がこちらに向かってきたわ。私の魔道弓とチセの魔道弓で連続攻撃する。キイエも炎を吐いて手助けしてくれる。

 距離が離れてるから、熊が魔法攻撃する前に倒せたわね。


「チセがなにか言ってるわよ」

「あっちにも熊がいるみたいね。カリンさっきと同じように魔法を撃ってくれるかしら」

「はい、はい。じゃあ、やるわよ」


 受付嬢の人が言ってたように、この森には沢山いるみたいね。1頭ずつ確実に倒すようにしていきましょう。



「キャー! チセちゃん。血まみれじゃない」

「はい、すみません。灰色熊と戦って返り血を浴びちゃって」

「えっ、チセちゃん。直接戦ったの。あなた青銅ランクよね」

「森の中、木が邪魔で矢が当たらなくて殴っちゃいました」

「殴ったの? えっ、そうなの?」

「それで熊を8頭倒したんですけど、運べなくて誰か応援してほしいんです」

「8頭も? えっ、そうなの?」

「すみません。カリンが調子に乗っちゃって、見つけるなり倒しちゃうものですから。荷車を借りたいんですけど」

「あ、はい。分かりました。す、すぐ手配するわね」




 冒険者ギルドに行っていたチセが帰ってきたようね。荷車を引いた冒険者さんも一緒に来てくれたようだわ。


「アイシャ、やっと応援が来たわ。こっちよ、こっち。これをお願いするわ」


 荷車は4台。カリンが大きな声で呼んで、森のすぐ近くまで来てくれる。


「これを全部あんたら3人で、やっつけたのか。こんなでかい奴ばかり」

「おかげで運べなくなっちゃいまして。内臓は抜いてますので、すみませんが、このままギルドまで運んでもらえますか」

「おお、分かった。後は任せときな」


 ほんとは、ちゃんと血抜きまでしたかったんだけど。血抜きできる川がどこにあるのか分からないから仕方ないわね。やっぱり慣れてない土地は不便ね。


「アイシャ、後はギルドで解体をお願いすればいいじゃん。ねっ」

「そうですよ、また明日もあるんですから。無理しちゃダメって師匠も言ってましたし」

「あんたら、明日もこの灰色熊を狩るのか?」

「そうですね、まだあっちの森の中に何頭かいましたし。すみません、明日も運搬頼むかもしれません」

「お、おう。ほどほどにな」


 今日入った森も、それ程奥に行かなくても灰色熊を見つけられた。違う森へ行って草原に近い熊を討伐した方が、人の被害が少なくなると思うの。


「それにしても、ここの熊は数が多いわね」

「カリン、ギルドの人達も苦労してるって言ってたじゃない。あたし達も少しはお手伝いしないと」


 そうね、明日はもう少し頑張ってみようかしら。


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