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第5話 フレイムドッグの報酬

 酪農家から借りた荷車に乗せ、11匹のフレイムドッグを町に持ち帰る。それを見た門番さんが驚いた様子で町長の家へと駆けて行った。


「いやあ、わしの見込んだ通りフレイムドッグを退治してくれた。さすがだな」

「これで、安心して町の外に出られる。冒険者さん、本当にありがとう」


 町の住民達も寄ってきて感謝の言葉をくれたり、荷車に乗った大量の魔獣を物珍しそうに眺めている。


「この魔獣どもは、わしら町の者で処分するよ。君達は討伐の印として、しっぽと魔石をギルドに持って行ってくれ」


 確かにこのまま運ぶことは、できないな……。


「この白いフレイムドッグは俺達に引き取らせてくれないか。解体し皮を使いたい」

「だが犬の皮は、長持ちせず、すぐダメになるぞ」

「ああ、分かっている」

「ユヅキさん、皮の処理は私がするわ。カリン達も手伝ってくれるかしら」


 白いフレイムドッグだけを引き取って俺達の手で解体する。アイシャは町の人達から道具を借りて皮をなめしてくれる。

 こいつは俺達で供養してやろう。俺達もこいつも全力で戦って命のやり取りをした。一歩間違えば殺られていたのは俺達の方かもしれない。


 殺してしまったことを後悔している訳ではない。これが自然の摂理なのだろうがお前の命、使えるところは使ってやろう。

 なめした革はみんなで分けて、思い思いの形で身に付けるつもりだ。俺はあいつの俊敏さが身に付けばいいという思いから、すね当ての裏に使う。俺に噛みついてきた牙も何かの飾りになるだろう。



 今晩はこのカフの町に泊まり、翌朝、討伐の依頼をしたというドウーベの町へ向かう。


「これは、依頼完了書だ。報酬は既に払い込んでいるので、ドウーベの冒険者ギルドで受け取ってくれるか」

「ああ、分かった」

「ドウーベはここから半日もかからんが、道中気をつけてな」


 馬車を出し、俺達が戦った牧草地帯を通る。酪農家の主人が手を振って見送ってくれている。俺達は人のためになる事をしたんだと、気を取り直して手を振り返す。


「共和国に入っても、人の生活ってあんまり変わらないわね」

「まあな。小さな山を1つ越えただけだからな。人の暮らしも魔獣もあまり変わらんさ」

「でも貴族はいないんでしょう。もうあんな奴らに振り回されるのはごめんだわ」


 そのためにこの共和国にまで来たんだからな。ここで俺達が暮らせる場所があればいいんだが。


「でもカリン、こっちにも権力者はいるんだから。あんまり無茶しちゃダメだからね」

「チセは、相変わらず心配性ね。大丈夫よ」

「カリンだから心配なんですよ。もう!」

「どんな奴がいるのか分からんが、あまり関わりたくはないな~」

「そうね、どこかのんびり過ごせる所が見つかればいいわね、ユヅキさん」


 馬車を走らせ、昼前にはドウーベの町に到着した。アルヘナの町よりは小さな町のようだな。門番もいるが軽装備でどこか商人風だ。

 銀貨で通行料を支払ったが、王国で使っているお金はそのまま使える。国境で聞いたが、共和国独自の通貨は無く、王国と帝国と両方の通貨が使えるそうだ。


 街中の建物は、石造りの3階や4階建ての建物が多いな。ゴツゴツした岩やレンガではなくて、漆喰を塗ったようなすっきりとした外壁でガラス窓も多い。ビルディングといった感じの家が並び、アパートみたいに何人もの人が住んでいるのか。

 このような建物は、国によって違ってくるものなんだな。


「あっ、ドワーフの人だ。こっちにはリザードマンもいるわよ」

「こらカリン、あんまり人を指差すなよ」


 ここには獣人以外も多いな。俺もキョロキョロしながら馬車をゆっくりと進め、目的の冒険者ギルドに到着した。


 国は違えどギルドの作りはどこも同じようにできている。冒険者はよく移動するから困らないようになっているんだろう。

 奥の大きなカウンターに、討伐したフレイムドッグのしっぽと魔石を持ち込む。


「依頼完了書と討伐した獲物の一部だ。引き取ってくれ」

「おい、こいつはカフの町に現れたっていうフレイムドッグじゃないか。ちょっと待ってろ」


 一旦奥に引っ込んだ獣人と一緒に、中年の鹿獣人の男がカウンターにやって来た。


「このフレイムドッグを討伐したというのは、君達かね」

「俺達がたまたま立ち寄った町で、町長から直接依頼を受けた。この依頼完了書を見てもらえば分かるはずだが」

「すまない、少し話を聞きたいんだが、こちらに来てもらえるか」


 その鹿獣人の男に連れられて、2階の応接室に入った。ソファーに低いテーブル、ここも他のギルドとあまり変わらんか。


「私はここのギルドマスターをしている、フォレスという」

「俺達は王国を出て、今この町に着いたばかりだ。手短に頼む」

「カフの町のフレイムドッグには手を焼いていてな、前回手練れの白銀2名を含む6人チームを送ったが、大怪我をして帰ってきている」


 俺達の前に2組がやられたと言っていたが、そいつらの事だな。


「今回、12人を組んで討伐に向かおうと準備していたところだった。どのように討伐したか参考に聞かせてくれんか」


 今回俺達は、キイエを使って上空から攻撃している。他の冒険者パーティーでは難しいだろうな。「多分、参考にはならないだろう」と前置きして、討伐した方法を説明する。


「ドラゴンを使って真上からの攻撃か……。ありがとう、参考にさせてもらうよ。報酬はここで支払おう。少し上乗せしている」


 女性の事務員が入ってきて、革袋に入った報酬をテーブルに置いた。赤字覚悟で新しいチームを送るつもりだったらしく、増額してもお互いwin-winという事のようだな。

 実績を付ける板もテーブルの上に置いて、各自のプレートに実績を付けてもらう。


「実績は均等でよろしいでしょうか」

「ああ、それで頼む」

「君達は旅をしているようだが、どこに行くのか決まっているのか」

「はっきりとは決めていない」


 俺達はドワーフの町に行くつもりだが、どうもこいつは胡散臭い。目的地は言わん方がいいな。


「疲れているところすまなかったな。近くにフロ付きの宿がある。フロは王国貴族の間で流行っているらしいじゃないか。行ってみてはどうだ」


「なに~! 風呂だと~」

「ユヅキさん、ユヅキさん!」


 思わず立ち上がって叫ぶ俺の服の袖を、アイシャに引っ張られてしまった。俺は、何事も無かったかのようにソファーに座り直す。


「失礼した。その宿の場所を教えてくれるかね」


 キリッとした笑顔を見せて、ギルドマスターに場所を教えてもらった。もうここに用はないぞ。早速ギルドを後にして、宿屋にルンルン気分で向かう。


 ◇

 ◇


「マスター、こんなことして大丈夫ですか?」

「どこの誰とも分からん流れ者だ。個人の記録を見るのは当然だろう」

「あの人達、スタンピードの巨大魔獣を倒してますよ! こんな強い人が、なんで共和国に来たんでしょうね」

「俺のギルドの精鋭が怪我して帰って来た魔獣を、簡単に倒した奴らだ。できれば取り込みたい」

「そう、上手くいきますかね」

「お前は、奴らがこのギルドで仕事してくれるよう、仕向けてくれればいい」


 マスターの薄ら笑いを、不安の思いで見つめるしかない私であった。


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