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第2話 国境近くの小さな町

「ユヅキさん、あそこに町が見えるわ。今日はあそこで泊まりましょうよ」

「そうだな、最近ずっと馬車での移動だったからな」


 王国内では捕まる危険もあり、あまり町に立ち寄らず馬車で寝泊まりする事が多かった。そのお陰で早く国境まで来れたのだが、ここはハマル共和国。その最初の町だし、立ち寄ってもいいか。

 それほど大きな町でもなさそうだが、城壁で守られていて門には門番もいる。


「王国も共和国もさほど変わらんな」


 国境を越えたからと言って、魔獣がいなくなるわけでもない。自分の身は自分で守るのは変わらないな。

 門に近付くと、俺達を見た門番さんが駆け寄って来た。なんだ?


「あんたらは冒険者だな、よく来てくれた。馬車はそこの広場に停めてくれ」


 馬車の中を調べられることもなく通行料も取られず、門番さんに案内された場所まで馬車を進める。


「どういうことだ?」

「もうすぐ町長が来る。すまんがそこで待っていてくれるか」


 門番さんは俺達にそう言って、急いで民家の並ぶ通りへと向かって行った。


「どうも様子が変ね」

「アイシャもそう思うか」


 アイシャはオオカミ族の獣人。黒髪のショートヘアが凛々しく、凄腕の弓の使い手だ。モフモフのシッポが素晴らしい。


「いいじゃん。お金も取られなかったし」


 そう応えたカリンはトラ族の獣人。金髪のツインテールの魔術師。気は強いが、良く動くモフモフの耳が愛らしい。


「カリンはお気楽ですね」


 チセはドワーフ族の娘で、俺が預かっている。いつも元気いっぱいの女の子で力持ちだ。


「チセは、考え過ぎなのよ。キイエもそう思うでしょ」

「キーエ」


 キイエはなぜか俺に懐いているドラゴンの子供で、馬車の幌の上がお気に入りだ。


 俺達が馬車を降りる準備をしていたら、そこに年配で恰幅のいい羊獣人の男がやってきた。さっき門番が言っていた町長か?


「やっと来てくれたか、ありがたい。君達の宿は我々が用意する。こちらに来てくれるか」

「すまない。何か勘違いされているようだが、俺達は旅の冒険者で、たまたまこの町に立ち寄っただけなんだが」

「そうなのか! ドウーベの町から派遣されてきたんじゃないのか」


 話を聞くとここはカフという町で、近隣の牧草地帯の家が魔獣に襲われ被害が続出しているそうだ。そこで隣町の冒険者ギルドに討伐を依頼していたらしい。


「既に2回冒険者達が来てくれたんだが、どちらも上手くいかなくてな。怪我をして帰ってしまったんだよ。我々は次に来てくれる冒険者を待っていたところだったんだ」


 確かにこの小さな町の街道の両脇は森に囲まれていた。魔獣も多いのだろう。こんな小さな町には冒険者ギルドが無いらしく、近くの隣町から派遣してもらっているそうだ。

 国境を越えた依頼などもあるから、冒険者ギルドは国が違っても同じシステムで動いている。俺達の冒険者プレートを見て隣町の冒険者と勘違いしても仕方ないな。

 派遣された冒険者でないと聞き、気落ちしている町長が問い掛けてきた。


「あんたらは見たところ、白銀ランクのパーティーのようだ。代わりと言っては何だが、この依頼を受けてはくれんか」


 どうしようかと悩んで後ろを振り返ると、アイシャ達が仕方ないわね、という顔をしている。


「では依頼の内容を聞かせてくれるか。受けるかどうかは、その後決めよう」

「そうか、そうか。それじゃ宿に案内しよう」

「それとすまんが、俺達には魔獣登録しているドラゴンの子供も一緒だ。町を連れ歩くが構わんか」

「ドラゴンまでいるのか! ますます心強いな。結構だ、町の中を自由にしてくれて構わんよ」


 既に、依頼を受けてもらったような口ぶりの町長に付いて宿屋に向かう。

 案内されたのは、小さな町にしては立派な2階建ての宿だ。1階の食堂でテーブルを囲み、町長が現在の状況を説明する。


「最近フレイムドッグの群れが現れてな、牧草地帯の家畜を襲っておる」

「フレイムドッグは、それほど強くはないぞ」


 去年の同じ時期にフレイムドッグの討伐をした事がある。確かにその時は単独の個体だったが、まだ青銅ランクの時に倒すことができた魔獣だ。

 群れたからと言って、それほど苦労するとは思えんが。


「そうなんだが……毎年この辺りにもはぐれフレイムドッグが来て、冒険者に討伐してもらっておる。しかし今年は10匹を超える群れで、ここら一帯を縄張りにして棲みついたようなんだ」


 なるほど、森を出て牧草地帯を含む一帯をテリトリーとしているのか。群れ全体の討伐なら白銀ランク冒険者に依頼する内容かもしれんな。


「分かった、依頼を受けよう。俺達は今日着いたばかりだ、討伐は明日からになる」

「ああ、それでいい。奴らは昼間しか行動しない。今日はまだ被害報告がないから、明日からでいいのでお願いする。頼んだよ」


 何度も襲われどうも切羽詰まっている雰囲気だが、俺達も万全の状態で臨みたい。今日はここでゆっくりさせてもらおう。


「ねえ、ユヅキ。フレイムドッグってどんな奴」

「カリンとチセは初めてだったな。火を吐く赤茶けた色の野犬の魔獣でな、とにかくすばしっこかったな」

「そうよね、正面からの攻撃だと躱されちゃったわね」

「アイシャの矢でもダメなの」

「ええ。だからユヅキさんとふたり離れて、どちらかひとりが死角から攻撃したのよ」

「じゃあ、今回もそれでいけばいいじゃん」


 まあ、そうなんだが、俺達の前に冒険者が2組失敗しているのが少し気になる。


「今日はゆっくり休んで、明日からの討伐に備えよう」


 部屋はひとり1つずつ与えられていて、綺麗で清潔な部屋だ。ベッドもフカフカだしゆっくり休めそうだ。

 ここの支払いも町長がしてくれると言っている。それも報酬のうちに入っているのだろうが、好待遇だな。

 余程、困っているんだな。早く解決してやりたいものだ。旅の疲れもあり、その日はぐっすりと眠ることができた。


 お読みいただき、ありがとうございます。

 

 【設定集】目指せ遥かなるスローライフ! を更新しています。

 (大陸地図の一部)


 小説の参考にしていただけたら幸いです。

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