第160話 戦闘準備1
俺達4人は、冒険者ギルドの一室に集まり、領主との戦いの作戦を練る。
テーブルを挟んで俺達の前には、マスターのジルと秘書のソニアさんが座る。
「4日後に裁判が開かれる。だがユヅキ達が出廷する必要はない。既に兵団による調べは済んでいて、その調書によって裁判は進められる」
「貴族側は、出廷するのか」
「代理の者が出てきて、調書で認めた監禁が間違っていると主張するだろうな」
「どのみち出来レースなんだろう」
「そうだ、判決は既に決まっている。ユヅキが死罪、他の者が終身刑だそうだ」
死罪と聞いてアイシャ達が息を呑む。だがそんな事、俺達には関係ない。不当な判決に従うつもりはないからな。
「判決前なのによく分かったな」
「領主が、他の貴族にそう言ったそうだ。領主が口にした事で判決は確定と言うわけだ。後は形式だけの裁判をして判決を公表する。それが6日後だ」
弁護人も付けず、1審制の裁判で領主が決めた懲罰で確定とは、茶番もいいところだな。
「その判決が出るまで、領主側が手を出すことはできない。6日後までに、戦いの準備をしてくれ。俺としては、ユヅキ達にこの町から逃げてくれた方がいいと思うがな」
「すまんな。ありがとよ」
俺達は逃げるのではなく、戦うことを選択したんだ。
「相手の兵力は分かるか?」
ジルが相手の状況について詳しく説明してくれる。
「領主側の兵力は約190人。第1から第3の兵団と領主を守る近衛兵だ」
「俺達は町の外で戦うつもりだ。実際に戦場に出てくるのは、3つの兵団だな」
「そうだな。第1兵団は城壁の守りで約50、第2兵団は重装歩兵と弓と魔術師の約60、第3兵団は騎兵隊と兵士が約60だ」
これらの情報はジルの知り合いの貴族などから集めてくれているそうだ。情報収集の専門家であるソニアさんもいる。正確で詳細な今の状況を教えてくれる。
「それに比べ、ユヅキ達は4人。圧倒的に不利だ」
「だが俺達は戦場を選べる。奴らは俺達を逃がさないように追いかけてくるはずだ。誘い込みなども容易い。作戦は立てられるさ」
不利であることに変わりはないが、全く勝てない訳でもない。その準備は既に始めているしな。
「すまんが今回ギルドとして加勢はできない、それどころか黄金ランク冒険者の3名は貴族側について、各兵団長の指揮下に入っている」
「誰がどの兵団にいるか分かるか?」
「すまん、それは不明だ」
あの3人とやり合うのは骨だな。できれば出て来てほしくないが、しがらみもあるんだろう。そう言う訳にはいかんか。
「チセ。この町の近辺で敵の様子が見やすいのは、どの辺りになる」
「西の平原はダメですね。東門の外、山に続く崖あたりでしょうか」
「じゃあ、そのあたりに陣を敷くとして、ジル、兵団はどう動くと思う」
「東門を出た辺りなら、街道沿い奥に行くほど平原は狭くなっていく。3部隊同時に出ることはないな」
確かにあの辺りは山と湖に挟まれた狭い場所だ。
「動くのは第2か第3だが、初めに動くのは騎兵隊を率いる第3兵団だろうな」
「なぜだ?」
「第3兵団の団長は、領主の次男が務めている。今回は領主の意向による出兵だ。それなら第3が先鋒として出てくる」
なるほどな、親が決めた戦いに息子が大活躍するという絵を描いているんだろうな。
「それに今の騎兵隊の隊長は、前に俺達のギルドの会計責任者をしていた者が就任している。お前に恨みを持っている奴だ」
ああ、あの会計の不正処理をした奴だな。確か領主の三男だったか、領主のコネで隊長に抜擢されているようだな。
「奴らはお前達を侮っている。戦いの準備をしているのも分かっているはずだが、何も邪魔をしてこない。戦わせた方がお前達全員を殺せる口実ができると思っているのだろう」
「油断させておいた方がいい。手柄を上げたくて連携せず個別に挑んできた方がこちらとしては有利になるからな」
秘書のソニアさんが心配そうに話出す。
「今回、どこかのタイミングで暗部が、ユヅキ様達を暗殺しに来ると思われます」
そういえば暗殺部隊もいたな。
「戦闘に勝ち続ければ、領主はあの3人を使うでしょう。ユヅキ様、勝手なお願いですが、3人の命を救ってはもらえないでしょうか」
「俺達を殺しに来る相手の命を救えと」
「無理を承知で、お願いいたします」
暗部は同じ一族の者だと言っていたな。見知った者がいるのか。
「確約はできないが、頭の隅に留めておこう」
「ありがとうございます」
しかし、よくこれだけの情報を集めてくれたな。作戦が立てやすくなる。さすが冒険者ギルドのマスターと諜報を生業とする一族の秘書さんだ。
「それと領主の後ろにいる貴族の事が分かった。王都にいるここら一帯の領地を任されている、エルティーヴァ卿だ」
「エルティーヴァ? 誰だ」
「ドワーフの町にちょっかいを出した貴族だ」
盗賊団を使ってドワーフの町を支配していた黒幕か。そんな奴がなんで俺達を狙い撃ちしているんだ。
「あれ以来、権力が落ちてお前を恨んでいる。隣町のギルドマスターからの情報だ。こちらでも裏が取れている」
「たったそれだけのことで、この町にまで手を出してくるのか」
「それが貴族というものだ。平民にコケにされて、黙ってられんという面子だけで何でもする連中だ」
そんな奴らがそこら中に居るのが、この王国という国なんだろう。だが今は俺達を直接狙っている、この町の領主を何とかしないとな。
その後、細かな打ち合わせをして、俺達はギルドを後にして家に戻った。
「アイシャ、大型の弓は扱えるか?」
「使えなくはないけど、当てるのは難しいわよ」
「飛距離が出て、ある程度の場所が狙えればいいよ。一度練習しておこうか」
「そうね、相手も大型の弓を使ってくるでしょうから、やっておきましょう」
「チセも一緒に東門の外に来てくれるか、地形を見ておこう」
「はい、師匠」
俺達は武器屋から大型の弓を購入して、東門の外、山の崖近くに行く。
門番は俺達をチラッと見て、小さな声で話し掛けてくる。
「この先、街道が狭くなっている場所には、兵士達がお前らを逃がさないように待ち伏せしている。その先には行くなよ」
衛兵は貴族側だが俺達とは顔見知りだ。表には出さないが応援してくれる人もいるようだな。
「死ぬんじゃねえーぞ」
軽く手を上げ「おお」と一言だけ言って門を出る。
山の崖近くの場所で、チセには見張りがしやすい所を調べてもらおう。アイシャにはここで弓の試射をしてもらう。
「アイシャ。この上の位置から大型弓でどこまで届きそうだ?」
「魔道弓を使うわね」
アイシャが手袋をして、魔力を流す。最大射程の角度で矢を撃ち出した。
「どこまで飛んでいったか見えんな。湖に続く向こう側の崖の端を狙えるか?」
方向を変えて矢を放つ。
「充分届いているわね。手前に狙いをつけて何回か撃ってみるわ」
ここは少し高い位置になっているせいか、魔道弓を使うと戦場となる範囲全てに矢は届いているようだ。
これなら充分使い物になりそうだ。俺たちは戦いの準備を進めていく。




