第148話 抗議行動
衛兵達が職人ギルド前にやって来た。
「お前達、何をやっている!」
「俺達は何もしてないさ。仕事もなにもな。で、お前達はどうするんだ?」
「こんなに人が集まっているじゃないか。ここで何をしている!」
「だからここに垂れ幕を掲げて、座っているだけだ。俺達は何か法に触れることをしているのか?」
何もせず集まる人々にどうする事もできず、衛兵達は引き上げる。
領主からは『集まる事を禁ずる』とのお達しが出て、衛兵達がまたやってくる。
「なら、あのレストランに集まる人達も捕まえるつもりか?」
今度は『5人以上で集まる事を禁ずる』というお達しが出る。領主は法を勝手に作り、すぐに施行してくる。何という横暴な権力だ。前世では考えられんがこの世界では、まかり通るのだろう。
それならと4人に分かれて座り込む。まるで子供の喧嘩であるが、徹底して抵抗する意思を示せばいい。
領主側はとうとう実力行使に出てきた。衛兵でなく兵団、対人戦のための訓練を受けた兵士達が職人ギルドの前に集まる。
「今度はどういうお達しが出たんだい」
「領主様直々に、お前達を捕らえよとの命令が出た」
「何もしていない俺達を、住民が見ている前で捕らえるという事かい」
この職人ギルドの周りには野次馬を含め、心配そうに見つめる住民達が大勢いる。
「俺達は領主様の命令で来ているんだ。大人しく捕まってくれ」
どちらが悪いかは、兵士達も分かっているのだろう。だが俺達も引き下がる訳にはいかない。道の向こうから大勢の人が押し寄せる足音がここまで聞こえてくる。冒険者ギルドの連中が駆けつけてくれたようだ。
「おい、知っているか。この抗議行動には俺達冒険者も参加してるんだぜ」
150人近い冒険者達が兵団を取り囲む。鉄ランクや青銅ランクの者達もいる。これで数の力を見せつける。
「俺達冒険者と、この街中でやり合う気か? 前のスタンピードで俺達の実力は知っているよな」
いくら兵団とはいえ、この人数ではどうする事もできない。
「俺達は本気だ。上にそう伝えておけ」
冒険者にそう言われて、兵団が退く。ここまではお互い威嚇で終わっている。これ以上の実力行使をしてくると、暴動に発展するかもしれない、と思わせる。
実際に捕まえに来れば、抵抗せず全員で捕まるように言ってある。何もしない者を捕まえても、何もしない事に変わりはない。この人数を収容する場所もない、事実上捕まえても意味はないのだ。
そういえば貴族側についた、黄金冒険者の3人は出てこなかったな。あいつらと戦うのは勘弁してほしい。このまま静観しておいてほしいものだ。
ここの領主は賢明だった。その後、黄金冒険者や兵団を出すことなく経済封鎖の道を選んだようだ。想定通りだが、これからは長期戦となる。
翌日。
「おい、領主が町に入ってくる品に法外な関税をかけたそうだ」
「これで普通の商売もやりにくくなるな」
これで外部からの流入が止まる。貴族に対する商売だけを止めると言う事もできなくなった。この町の中だけで、物資をやりくりしないといけなくなる。想定内ではあるが厄介な事に変わりはない。
「すまんが、俺は商業ギルドに行ってくるよ」
一番打撃が大きい商業ギルドの様子を見て、今後の方針を考えないといけない。
「シェリルさんは居るか?」
俺は2階の会議室に通された。
商業ギルドの役員と職員が忙しそうに、資料を見ながら調べたり書類を作成したりしている。
「ちょうど良かったわ、少し手伝ってくれるかしら」
現在、ギルドが抱えている備蓄の分配を計算しているようだな。それなら俺も役に立てそうだ。皆と一緒に、商人への配分や1日の販売数量を算出していく。
関税を上げるのは想定されていたので、その前にギルドの商人は商品を大量に仕入れて備蓄している。無駄にならないように一定の販売数を商人に割り振る。
「それでも、15日が限度かしら。特に食料ね」
そうなのだ、この町の食料供給源である農家は、領主に従って商品を納めている。ギルドという組合もなく、農民は領主の物という認識になっている。領主に使役されている訳ではないが、農作物を領主に納める代わりに守ってもらうという昔からの慣習である。
領主は商人に対し一切の農作物の供給を止めている。町の住民にとってこれが一番効いてくる。
「住民が俺達に反感を持つ前に、なんとか納めたいな」
「我慢比べになるわね。商人達には、毎日一定量を販売するように言っているわ。これで危惧していた買い占め騒動は起きないのよね」
前世では不安に駆られた住民がパニックになり、必要のない物まで買い占める行動が起きた。そうならないためにも、今回は小売店には商品を流すように計画している。
「町の住民を不安にさせないためにも、商品を店先に並べるようにしてくれ」
反対に貴族街には、商品が無くなるとデマを流してもらっている。今は兵舎への食料や酒など町からの供給は無くなり、領主側から配給されている状態だ。
貴族街の商人に法外な関税は掛かっていないが、奴らの扱うのは美術品など贅沢品だ。通常の物資は貴族に回らず、いずれ不足する。
この配給物資を貴族が独占して、兵士には回ってこなくなると不安を煽っている。これは情報戦である。
1週間が経過した。
街中はまだ平静を保っている。しかし貴族街では混乱が起きているようだ。
「城門の衛兵の話だと、物資の横流しや買い占めなども起こっているそうだぞ」
元々我慢することを知らない貴族は、欲しい物を隣町に買いに行き、町に持ち込むが関税はかからない。その様子を見ている衛兵達に不満が溜まる。
物資が無くなった時、貴族は本当に自分達衛兵を助けてくれるのか、無茶な命令で血を流すのは自分達だと不安になっている。混乱の矢面に立つのは衛兵や兵士達である。
数日後、そろそろ町の住民にも不満が出てきた。まだ物資はあるが、領主に謝って解決してくれと、ギルドに言ってくる者も出てきた。
そんな折、冒険者ギルドに大勢の人が押し寄せてきた。全て農民である。
「お前達が、魔獣の討伐に来ないから畑が荒らされて、種付けもできなくなっている。どうしてくれるんだ」
「領主に言って、兵士を送ってもらえばいいだろう。俺達は今、領主と戦っているんだ」
「そんなことは俺達に関係ない。兵士だけで間に合うはずないじゃないか。家の近くまで魔獣が来ているんだぞ」
実際に困っているのは、農民も同じだ。自覚は無くとも領主側についている農民に対して今の状況を説明する。
「お前達農民が食料を出さないから、町の住民は満足に食べられなくて困っている。お前達が悪いんじゃないか」
「何言ってるんだ、俺達は領主様にちゃんと農作物を納めているんだぞ」
「だから、領主と戦っている俺達に食料が回ってこないんだよ。腹ペコで魔獣と戦ってられるか」
農民は町の外の耕作地帯に住んでいる者が多いから、町の様子は分からない。だが状況を理解した農民達は、農作物を町に納めると言ってきた。
農民を連れて商業ギルドへ行き、農作物の売買契約を結ぶ。代わりに冒険者が魔獣討伐へと向かう。
「これで食料が確保できた。もうすぐ領主側から交渉のテーブルに着くよう言ってくるだろう」
2日後、領主が全てのギルドマスターに話し合いをしたいと言ってきた。なんとか暴力沙汰にならずに解決できそうだ。
魔道弓などの権利はそのままに、領主とは軍事用として特別仕様の魔道弓を取引し、他の町の兵団への価格設定と販売は領主が担う事となった。軍事用を分離することで、領主側にも利益が出ることになり、交渉はまとまったようだ。
ここに領主との闘争は無事終結した。




