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第145話 チセの鉄拳

「師匠、ほんとにこれ作れるんですか!」


 漫画のように描かれた、大きな鉄の拳で敵を殴っているシーンを見てチセが驚きの声を上げる。


「任せろ! チセのためだ、俺が絶対作ってやるさ」


 アイシャとカリンも俺が描いた絵を見に来た。


「こんなに大きな腕、重いわよ。持って振り回せるの?」

「腕だけ大きいってカッコ悪る! チセ、止めておきなさいよ」

「あたしは、これカッコイイと思います!」


 チセとカリンが睨み合っているが、チセが気に入ったと言うなら、俺がそれを叶えてあげないとな。


「チセ専用のオーダーメイド武器だ。まあ、作れん事はないだろ」

「師匠、あたしも一緒に頑張りますね。絶対に作ってみせましょう!」


 うん、うん。いつもの元気なチセに戻ったようで俺も嬉しいぞ。


 翌日、エギルの工房に行って大きな鉄アレイを2つ作ってもらった。これは練習用だ。俺の思っている武器が本当に使い物になるのか、試験も兼ねた試作品になる。


「チセ。今度は拳を正面に連続で打ち出す!」

「はい、師匠!」


 俺とチセは、家の裏庭で空手の練習をしている。チセは筋がいい。剣術より体術の方が合っているのか、基本の型はすぐに覚えた。


「次は上げ突きだ。相手の顎を狙え」

「はい、師匠!」


 次に鉄アレイを両手に持ってもらったが、綺麗なフォームのまま突きを繰り出す。

 剣とは違い2発、3発と連続で左右の拳を叩きつける事ができている。これなら、あの大きな武器も使いこなせそうだ。


 チセにはそのまま練習を続けてもらい、俺は食堂のテーブルに戻って鉄拳武器の設計をする。

 鉄アレイのような握りの前面に鉄の拳を作る。そこから肘までは腕を覆い肘を曲げられるようにするが、外側を少し伸ばして肩付近を防御させよう。近接戦闘だから胴体や足なども防御しないと駄目だが、それは市販の鎧でカバーすればいいか。


「あんた、いつにもましてニヤケてるわね」

「うわっ! カリンか。びっくりさせるなよ」

「チセにあまり変な物、持たせないでよね。あれでも女の子なんだから」


 変な物ではないのだが、確かに無骨すぎるか……。そうだなデザインにも凝って、飾りや宝石なども付けてみるか。特注品なんだから何とでもできる。


「チセ。武器を描いてみたが、これはどうかな」

「かっこいいです、師匠」


 気に入ってくれたようだな。装飾部分の宝石は、この前もらった魔の森で採れた赤や青の宝石を付けたいと言ってきた。


「それと師匠、これに魔弾銃を付けることはできますか?」


 そういえば、巨大ロボも腕から弾丸を飛ばしていたな。こいつならそれも可能か。


「いい発想だ。よし、魔弾銃も装備してみよう」


 だが腕の外側に付けると、殴った時にすぐ壊れてしまう。外側には射出口だけを付けて内蔵型にしてみるか。


「腕の中に小型の魔弾銃を内蔵しよう。だがこれだと魔弾は1発しか撃てなくなるが、どうかなチセ?」

「接近するときに使いますから、1発撃てれば充分です」


 左右1発もあれば接近する敵の足止めや牽制にはなるか。魔獣との戦いを想定したら、近接戦闘では爪や牙からしっかりと身を守れないとダメだよな。


「チセ用の鎧を見に行こうか。アイシャ、カリン一緒に来てくれないか」


 防具屋で俺は銀色のフルプレートの甲冑がいいと言ったが、みんなに却下された。


「ユヅキさん、それはないわね」

「師匠。あたしも、それは可愛くないと思います!」


 カッコイイと思うんだがな。その後もみんなで店を見て回る。


「チセ、小っちゃいから、合う大きさのものが少ないわね」


 結局、スカート型のプレートアーマーのパーツと鉄のブーツ、頭はティアラのような飾りのついた帽子型の兜に落ち着いた。胸当てや膝当てなどチセの身体にい合うパーツを組み合わせる。確かにこちらの方が動きやすいか。

 兜には目を守るプレートが収納されているし、これで防御は完璧だな。主な防具の塗装は、濃い紫色に赤と金色の線があしらわれていて、なかなか美しいじゃないか。

 そうだ、防具なら肝心なことを聞かないとダメだった。


「店員さん、これに魔法耐性は付いているか?」

「いいえ、付いていません。別料金とはなりますが、耐性付与は可能です」


 聞くところによると、1属性の魔法耐性は安くてすぐできるが、全属性ともなると時間もかかり金貨数枚が必要だという。


「それなら、火と水の2つの耐性を付けておいてくれ」


 他の土と風は鎧の物理的な防護でカバーできるだろう。


「耐性付与とサイズ調整で1週間ほど時間を頂きます。サイズを測りますので、こちらへどうぞ」


 後はアイシャ達に任せておこう。サイズの測定などは一緒に行けないしな。俺は腕の武器をエギルの工房に頼みに行くとしよう。


「本体はうちでできるが、装飾は別の専門の工房に頼むから、少し時間がかかるな」

「魔法耐性も火と水を付けたいんだが」

「それは、魔術師協会か防具屋だな。こっちで一緒に依頼しておこう」

「この内部に魔弾銃を組み込みたいんだが、それは大丈夫か?」

「ああ、任せておけ。魔弾銃の開発には俺も関わってよく分かっている。大丈夫だ」


 エギルには図面を見せて、重さの指定と丈夫に作ってもらうように頼む。チセから預かった宝石の原石を渡して、装飾は大体のデザインと防具に合わせた色を指定する。

 今回は図面通りでなくてもいい。後は本職に任せて自由に作ってもらおう。どうも俺のセンスはダメなようだからな。



 1週間後、チセの防具の調整が終わって試着している。「カワイイわよ」とカリンが言っているが、おしゃれ着じゃないんだぞ。

 だが、腰の鉄プレートの隙間から見える肌はなかなかいいものだ。チラリズムというのか、健康的なお色気がいい感じだ。

 だが接近戦で肌が露出するのは怪我の元になる。俺からは防具の下に着る、メイド服をプレゼントしよう。メイド服に鎧、これで完璧だ!


 その5日後、待望のチセ専用の鉄拳武器が出来上がった。


「師匠、ありがとうございます。こんな立派な武器を作ってもらって」

「チセ。重くないか? 動きはどうだ?」

「はい、大丈夫です。中の魔弾銃の操作もちゃんとできますよ」


 中の握り手の横に引き金用の押しボタンが付いている。ちゃんと動作するようだし、操作も簡単にできると言っている。


「思ってたより、かっこいいわね~」

「そうね。この金色の装飾と手首に付いている、赤と青の宝石が綺麗ね」


 やはり専門家に任せて良かった。シンプルなデザインだが凝った彫刻と綺麗な色遣いだ。前面の鉄拳ももっと大きなものを想像していたが、ボクサーの小さなグローブ程の拳から腕のカバーにつながる曲線が美しい。


「よし明日、早速魔獣討伐に行ってみようか」



 翌日。魔の森で灰色熊の討伐をチセひとりでしてもらう。


「俺達が後ろについてるからな、危なくなったら逃げるんだぞ」

「師匠の作ってくれた、この武器があれば大丈夫ですよ」


 チセは元から魔獣などに対して恐怖心を抱かない。見つけた灰色熊に向かって淡々と歩いていく。

 ガチャガチャという鎧の音に気がついたか、熊がチセに向かって走り出した。チセも熊に向かって走り出す。魔法の射程に入って熊が立ち上がり、両手から岩を投げつける。

 その岩をチセの鉄拳が砕く。なおも岩を投げつけてくるが、チセは走りながらことごとく叩き割る。

 魔法攻撃を諦めた熊が四つん這いになり、牙をむいてチセに突進してきた。


「せ~のっ!」


 チセが渾身の一撃を熊の顔めがけて打ち込むと、血しぶきを上げて灰色熊が倒れ動かなくなった。

 チセは無事かと走り駆け寄ったが、ザクロのように頭がつぶれて真っ赤になった熊が転がっている。これは即死だな。鉄拳が返り血で赤くなっているが、チセには傷ひとつ無い。

 ドワーフは肩から背中にかけて鉄のような鱗がある。鍛冶屋などはそれを利用してハンマーを振るうという。チセもその鱗を利用して強烈な一撃を放ったのだろう。


「すごい威力ね。一撃で倒すなんて」

「岩も上手く避けたり、叩き落としていたわね。やるわね、チセ」

「えへへ、師匠に教わった体術のお陰です。あっ、あっちにも熊がいます。行ってきます」

「キーエ」


 今度はキイエがチセの肩に乗って、一緒に魔法の岩を砕いていく。キイエは一緒に遊んでもらっていると思っているのか、次々に飛んで来る岩を撃ち落としていく。接近したチセが、またしても一撃で灰色熊を倒している。

 これはすごいな、想像以上だ。倒した2頭の灰色熊をギルドの大きなカウンターに持っていく。


「これを嬢ちゃんが倒したのか?」

「はい、師匠の作ってくれたこの武器で」


 チセが自慢げにニッコリと、背中に担いだ鉄拳武器を見せる。


「なるほど、それで頭だけ無くなっているのか。体に傷が無いし優良にしとくか」


 依頼完了の紙を持って受付窓口へ行く。


「チセちゃんひとりで、灰色熊2頭を倒したの? まだ青銅ランクだよね」

「はい、新しい武器のお陰です」

「そ、そうなの……すごいわね。そうだチセちゃん、今回のでレベルが4に上がったのよ。おめでとう! もうすぐ鉄ランクだね。頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」


 その後、チセに『血まみれの鉄拳娘』との異名が付いて、ギルドのみんなから恐れられる存在になったという。


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