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第143話 カリンの杖

「これが、魔石内臓の魔鉄刀木の杖だ。俺の最高傑作の品だ」

「とうとう、できたか! ありがとう、ギザイラ。カリンも喜んでくれるよ」

「これは、使い込むほど真価を発揮する。うまく使ってやってくれ」


 メラクの林で倒した魔獣の魔石を内蔵した、カリン用の杖が2本とも完成した。

 最初は風の靴専用の杖として、遊び心で作ろうとした杖だが、最高級品の杖が出来上がってしまった。

 1本の加工費だけで銀貨100枚かかったが、王都では金貨10枚以上の値で販売されている品だそうだ。貨幣価値は違うが、日本円にすると1本100万円程の高級品になってしまう。


 注文通りにこの杖は平たい持ち手で、ライフル銃のような形になっている。

 あまり重くならないように軽量化してもらったが、丈夫な木なので、これで魔獣を殴っても折れないそうだ。刃を付ければ剣としても使えるほどだと言っていたな。

 カリンの喜ぶ顔が見れると、ホクホクしながら家に帰り杖を渡す。


「カリン。杖ができたぞ」

「やっとできたのね。これで風の靴で思いっきり遊べるわね」


 元々そのつもりだったが、最高級品の杖を遊びだけに使うのはどうかと思うが、カリンの杖だ好きに使ってくれ。


「腰のベルトは着けたか。ここと杖の溝を合わせて差し込むんだが、どうだ?」


 杖を取り付けるための特注のベルトも用意している。腰の左右に小型ライフル銃を差したような姿は様になっている。なかなかカッコイイぞ。


「思ったより動きやすいわね。ちゃんと前後左右にも動くし、この握りも掴みやすいわ。じゃ、早速平原に行きましょうか」


 寒さも和らいできた草原で、風の靴を走らせる。受ける風も心地いいな。みんなで昼過ぎまで遊んで、今は河原でバーベキューだ。


「どうだ、その杖の使い心地は?」

「いいわね。思った方向に曲がれるわ。素手や小さな杖よりスーッと魔力が通ってくれる感じね」

「今日のカリンは、キレッキレでしたよ。キュッキュッて曲がって面白かったです」

「そうね、最初の動き出しや止まるときも滑らかで気持ち良かったわ」


 カリンが慣れたせいもあるが、風魔法をスムーズに後方に噴出している感じだったな。カリンがこんなに楽しそうに杖を扱うところは見たことがない。


「カリン。杖を片方外して、こういう風に構えてくれんか」


 杖の端を肩の根元に当てて、ライフル銃を構えるようにカリンに持たせる。


「片膝を地面に突いて、両手で杖を持ってあの遠くの森の木を狙って撃ってみてくれ」

「ここからじゃ遠くてちょっと無理だと思うけど、やってみるわね」


 カリンが飛距離のでる氷の槍魔法で木を狙う。すごい勢いで氷の槍が飛んでいき、木をなぎ倒した。


「すごいわね。あんな遠くの木を狙い撃てるなんて。これも杖のお陰かしら」

「この杖は魔力の流れを整えてくれる。発動も抵抗なくできて狙いがつけやすくなるらしい」

「へぇ~、すごいのね。これ作るのすごく高かったものね。そういえば小さい方の杖も使いやすくなってたわ」


 あれも、同じ魔鉄刀木を使った杖だからな。それに新しい長い杖はお前が払った20倍の価値なんだぞ。

 カリンの魔法にはいつも助けられているから、杖を加工する費用を俺とカリンで半分ずつ出している。俺が全部出しても良かったんだが、カリンが使う杖だ。ちゃんと自分で金を出した方が大事にしてくれるだろう。まあ、王都での販売価格は内緒だがな。


「でも前に魔石付きの杖だと壊れたけど、これは大丈夫なの?」

「普通の魔力だと魔石の力を使わず、中級以上の時だけ働いて大魔法でも壊れないそうだ」


 カリンの大魔法にも耐えるように、魔石に魔力が流れ込むのを制限しているとギザイラが言っていた。作るのに一番苦労したところだそうだ。カリン専用に調整してくれていい杖に仕上がっている。


「じゃあ、中級魔法ならもっと飛ぶのかしら」

「どうだろうな。試してみればいいさ」

「さっきの氷と風を組み合わせて撃ってみるね」

「カリン。距離を延ばすなら上向きに、これぐらいの角度で撃ってみなさい」


 アイシャに投射角度をアドバイスされて、カリンが構える。


「じゃあ、いっくわよ~」


 カリンの言葉と同じように勢いよく撃ち出された氷の槍は、遥か彼方まで飛んでいき、どこに落ちたかも分からない。


「なんか遠くまで飛んでいっちゃいましたね」

「チ、チセ、見てくれた。こ、これが私の実力よ」


 いやいや、カリン。お前も今の威力に驚いているだろう。さすが、最高級品と言われるだけの事はあるな。



 数日後、俺達は灰色熊の討伐に向かった。少し暖かくなって冬眠から目覚めた熊が出没し始めたのだ。


「今日は、私ひとりでやっつけさせてくれるかしら」


 カリンに何か考えがあるようだ。杖を使った攻撃を試したいのかもしれない。それなら任せてみよう。

 今日はチセもいるしキイエもいる。すぐ対処できる。


「俺達は後ろから、いつでも攻撃できる体勢でいるからな。好きなようにやってみな」

「うん、ありがとう」


 森の中でうろつく灰色熊を発見し、カリンが前に出た。それに気が付いた熊がこちらに向かって来たが、その足元目掛けて魔法攻撃する。


「ファイヤーボール」


 大きくはない火の玉を飛ばしたが、あれは挑発だな。

 熊が立上り両手に岩の魔法を発動させた。キャンセル魔法の練習でもするのか?

 だがカリンは何もせず立ち尽くす。熊が魔法の岩を投げてきた。危ない!

 だが放り投げた2つの岩は空中で砕け散った。カリンは何もしてなかったように見えたが、どうなった?


 驚いた熊がまた岩を発動させて投げてくる。

 左右同時に撃ち抜き、岩が砕け散る。カリンがローブの下で腰に取り付けた杖を使って、岩を撃ち抜いたようだ。

 魔法ではだめだと、四つん這いになって走って向かってくる灰色熊の頭を、氷の槍が貫き一撃で倒した。


「すごいわ、カリン」

「杖を上手く使いこなしているな。腰に付けたまま撃つとはな」

「割と大きな岩だったから、狙いやすかったわね。もう1頭倒しましょうか」


 森をうろつく熊を見つけてカリンが前に出る。おや、今度はキイエがカリンの横にいるぞ。また挑発して灰色熊が岩を放り投げてきた。


「キーエ!」


 キイエが口から炎を出して岩を粉々にした。カリンの真似をしているようだな。

 灰色熊が次の岩を放り投げてきた瞬間カリンが撃ち落とし、その次の岩はカリンとキイエが片方ずつ撃ち落とす。曲芸でも見ているようだ。


「すごい、すごい。カリンもキイエも頑張れ~」


 チセの応援にふたりとも競い合って岩を撃ち落としていく。何度も岩を撃ち続け魔力切れを起こしたのか、熊が前のめりで倒れ込んだ。


「もう終わりなの、根性ないわね。また明日、出直しなさい」


 カリンとキイエは熊にとどめを刺さずに帰ってきた。やれやれ、俺達は討伐に来ているんだがな。

 仕方ない、今日はさっきの1頭だけを持って町に帰るか。夕日に向かって熊を引きずりながら、俺達は町に向かう。


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