第140話 魔の森の報償品
もらった報奨品を家に持ち帰って、早速品物を床に広げてじっくり見てみよう。
「チセ、そのきれいな石は宝石か?」
「多分そうだと思います。それより師匠! これですよ」
金属らしき光るものが混じった岩を見せてくる。
「もしかしたらこれ、オリハルコンの原石かもしれません。魔力に少し反応するんですよ!」
「お~、すごいな。よくそんな物がもらえたな。分からなかったのかな」
「これは後からシルマーンさんがくれた石なんですよ。もしかすると分かってて、くれたのかもしれません」
高価なオリハルコンは、普通なら領主に渡すんだろうが……。あのシルマーンなら知らないふりをして俺達にくれたのかも知れんな。
「師匠。その袋に詰めたガラスは何なんですか?」
「これか。これはダイヤモンドと言って、この世界で一番硬い石だぞ」
俺は一粒のダイヤモンドを手に取り、固そうな岩を引っ掻いてみる。岩が削れて白い線が残った。
「すごいですね。じゃあ、あたしが持ってきた、この宝石も加工できますか」
「この小さな粒を砕けば、すごい研磨剤になるからな。どんな宝石でも加工できるぞ」
小さな粒だけじゃなくて、何十カラットもあるような原石もある。これを加工すればキラキラ輝くダイヤのアクセサリーになる。これは楽しみだな。
「ただいま~」
しまった、もうアイシャ達が仕事を終えて帰って来た。夢中になって一階の居間に報奨品を広げてしまっている。前にもこんな事があってチセと、こっぴどく怒られたことがある。またアイシャを怒らせてしまうか!
「まあ、これはどうしたの!」
「じ、実はな、地滑りのあった森の調査団が戻ってきてな。それでな、持ち帰った物の一部をもらうことができたんだよ。す、すごいだろう」
慌てて、早口になって言い訳をする。
「あ、あのね。アイシャやカリンの分ももらってきたんですよ。はい、これアイシャの」
チセがアイシャ用にもらってきた白い毛皮を渡す。えらいぞチセ!
「え~、これってスノーマンの毛皮じゃないの! 実在していたのね」
アイシャは珍しい毛皮を見て驚いていたようだが、俺達が選んだ品に満足してくれたみたいだ。
「ねえ、私のはどれ」
「カリン、お前にはこの木の枝をもらって来たぞ」
「なによそれ、薪じゃない! それでオフロでも沸かせって言うの!」
「いやいや、これは魔術師が使う杖の材料なんだ。最高級品だってメルフィルさんが言っていたぞ」
「メルフィルって、誰よ!」
こいつ覚えてないのか、祝勝会の時に会っているだろう。
「黄金ランク冒険者の魔術師のメルフィルさんだよ。あの人もこの杖を使っているんだってさ」
「黄金ランク? ああ、あの女ね。仕方ないわね。私も使ってやるわよ」
どうにか、納得してくれたようだな。
「アイシャ、カリン。それとね、師匠が見つけてくれた宝石があるの」
チセがダイヤモンドをふたりに見せた。
「なにかしら、小さなガラスみたいだけど」
「これは世界で一番硬い宝石なんだって」
「世界一! これが? こんなに小さいのに」
カリン、大きさは関係ないだろう。
「そうさ。これはどんな物にも傷つけられることのない石なんだぞ」
そう言うと、アイシャとカリンが興味を持ったのか、袋から取り出し手に持って眺めている。
「へぇ~、どんな物にもって、なんだか素敵ね」
「私のファイヤーボールでも傷つかないの?」
「あ~、ダメだぞ!! そんなことしたら燃え尽きちゃうじゃないか! 絶対ダメだからな」
「なんでよ、世界一強い石なんでしょう」
「いや、強いじゃなくて、世界一硬い石だ」
カリンは負けず嫌いだが、こんな石にまで対抗意識を燃やすなよ。
「これは炭と同じで燃えるし、強く叩くと割れちゃうんだぞ」
「何だ、弱っちいのね」
いや、いや。そういう強さじゃないからな。
「でも、キラキラしてて綺麗よ。カリン」
「まあ、確かに小さいけど綺麗だわ」
「いずれ、アクセサリーに加工してプレゼントするから、それまで待っていてくれ」
「ありがとう、ユヅキさん。楽しみにしているわ」
「その前に、私の杖を先に作ってよ。こんな木のままじゃ薪に使っちゃうじゃない」
確かにカリンならやりかねん。すぐにでも杖に加工せんといかんな。
「分かった、分かった。それまでは俺の部屋に置いておくからな」
ここに置いておくとダイヤモンドまで燃やされそうだ。とっとと片付けちまおう。チセと一緒に報奨品を2階の俺の部屋まで急いで運ぶ。
後はいつものようにみんなと夕食を共にし、食後のんびりと寛ぐ。
「カリン、杖の事なんだがな。この前作った風の靴専用に作ろうと思ってるんだが」
「どんな杖?」
俺は前から考えていた杖の絵を、テーブルに広げて説明する。
「腰の左右にベルトで取り付けて、前後左右に動くようにするんだ」
「へぇ~、なかなか面白そうね。この絵だと取り外して使う事もできるのね」
風の靴を使う時は、後方への推進力と、前方のブレーキ。それに曲がるとき左右に向けられるようにする。80cm程の長さで先端を真っ直ぐにし、方向性を持たせる。
腰から外して使う時を考えて、より遠くの物を狙い撃ちできるようにライフルのような形にしている。
「持ち手を曲げて持ちやすいようにしようと思っている。それともカリンは一般的な真っ直ぐの杖の方がいいか?」
「いいえ、この絵のような形でいいわ。でも……そうだわもう1ヶ所ここにも握りを作ってくれるかしら」
「分かった。今度の休みの日にでも作ってくれるか聞きに行ってくるよ」
次の休みの日。木工職人のグラウスの工房に木を持ち込んで、杖を作ってくれるように依頼する。
「グラウス、この木でカリンの杖を作ってほしいんだが、頼めるか」
「おまえ、この木は鉄刀木じゃないか!」
「なんだ、そんなに珍しい木なのか?」
「おいそれと手に入る代物じゃねえよ。魔の森の奥深くじゃないと見つからんはずだ」
確かに、調査団が持ち帰った品だからな。グラウスは木をノックするように叩き、その音を聞いて確かめる。
「鉄のように硬くて丈夫な木材だ。これを加工するのはちと難しいな」
「グラウスでも無理か?」
「できねえことはねえが、魔術師が使う杖となると俺よりも魔術師協会に頼んだ方がいいだろう。あっちの方が専門だからな」
なるほどな。
「じゃあ、魔術師協会に行ってみるよ。すまなかったな、グラウス」
この木は15cmほどの薪に使える太さで1mの長さの枝だが、重くて1本しか持って来れなかった。鉄刀木というだけの事はあるな。
それを肩に担ぎグラウスが言うように魔術師協会に行って、杖を作れないか聞いてみる。
「すまんが、この木を杖に加工してもらいたいんだが、どこに行けばいい」
「それでしたら、右手奥の製造部門14番の部屋になります」
魔道具部門のように奥まった部屋じゃないが、少し離れた部屋に入りカウンターに木を置く。
「すまない。これを杖に加工したいんだが」
「はい、しばらくお待ちください」
待っていると、まだ若い女性の職員がやって来た。




