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第138話 ホバークラフト2

 カリンの靴に魔道部品を取り付けて練習していると、チセも同じ靴が欲しいと言ってきた。少しの力で滑り、移動する俺を見て興味が湧いたようだ。この際だ、アイシャの靴にも取り付けて、みんなお揃いにしてしまおう。


 今日は休みだし、3人の靴を全部改造しようと街に出る。

 まずは、肝心の魔道部品だが、風属性で中魔力の部品が必要になってくる。よく考えると風は右回転と左回転があったことを思い出した。左右の部品を片足ずつ使えば立ち上がった時に安定するんじゃないか?


 手持ちの部品は俺の靴を含めて通常の右回転が4個ある。後は左回転の部品が4個あればいい。だが左回転はあまり出回っていないと聞いている。魔道具店に在庫があればいいんだがな。


 店に行くと、いつもの女性店員じゃない、男性のヤギ獣人が対応してくれた。この人が店長か? どこかで見たような気がするが。


「珍しい物をお求めになりますね。中魔力の左回転が4個ですか……在庫は3個しかありませんが、中古が1つあったはずです」

「それじゃあ、それを用意してくれ。後は予備もいるから、左右4個ずつを後日取り寄せておいてくれるか」

「はい、承りました。中古品はお安くなりますので、銀貨15枚になります。注文の品は2週間後の到着となりますので、その時にお支払いください」


 お金を支払って店を出る。そうだあの店長、ここの魔術師協会の魔道具部門で働いていた職員だった人だ。王都の魔道具研究員になったシルスさんも、あそこで働いてから店長になったと言っていたが、代々受け継がれているのか。


 さて、次は鍛冶屋のエギルの工房だな。


「エギル、居るか。注文してた物を取りに来たぞ」

「おう、できてるぜ」


 足の指からの魔力を通りやすくするために、靴の先端に銅板を付けるつもりだった。エギルに相談すると、足なら板より銅の網を使った方がいいと言われた。

 目の細かい薄い網で実際に踏んでみたが痛くないし、足に合わせてよく曲がる。


「怪我しないように、端は綺麗に処理してくれよ」

「分かった、ありがとよ」


 俺は銀貨8枚を支払って、次は靴屋へ向かう。


「この靴の中敷きを加工してもらいたいんだが」

「靴が足に合いませんでしたか?」

「いや違うんだ。足先にこの銅の網を付けてもらいたい。それと靴底にも穴を開けたいんだが、できるか?」

「この金属の網は足を守る防具でしょうか? できるとは思いますが職人に確認してきます」


 エギルに言われたことを伝え職人に聞いてもらうと、手数料は掛かるが今日の夕方までには仕上がると言っている。今日中にできるのなら充分だ。靴を預けて家に戻るか。

 今日カリン達には、おしゃれ用の靴を履いて街に出てもらっている。家で留守番していたキイエと遊んでいると、カリン達が何やら買い物袋を持って帰って来た。


「ただいま。靴はもうできたの」

「おかえり。そろそろできる頃だな。靴屋に行ってみるか」


 おしゃれ着に興味が無かったチセも新しい帽子を買ったようで、いそいそと自分の部屋に荷物を置きに行った。さて、キイエも一緒に靴屋に出向くか。

 靴の調整をしてもらっている間、店の外でキイエと遊んでいると、物珍しそうに子供達が寄ってきた。


「見てろよ、こうすると飛んで餌を食べるからな」


 俺は干し肉を空に放り上げてキイエを飛ばせると、歓声を上げて拍手をしてくる。余りベタベタ触らないように言ってから撫でさせると、キイエは大人しく丸まって背中を子供達に預けている。

 キイエも町の住民も慣れてきて、一緒に生活していく仲間と認められたようで嬉しい。おっと、靴の調整が終わって3人が店を出て来た。後は家に帰って魔道部品を取り付ければ完成だな。



 風の魔道部品付きの靴、俺は単純に風の靴と呼んでいるが、カリン達は家の中で何日か練習してある程度滑れるようになった。結局俺の靴も足で操作できるように改造して、今日は休日だ。西門の外の川を越えたあたりの平原に行って、屋外で滑ってみようと言う事になった。


 平原はうっすらと雪が積もっていたが、今日はよく晴れていてアイススケート日和じゃないか。

 まずはゆっくりと移動する事からだ。俺はカリンの体を支えて後ろに付く。靴に取り付けたスイッチを入れて、カリンに魔力を流してもらい体を浮かせる。


「カリン、この状態で後ろ向きに小さな風魔法を使ってみろ」

「足に魔力を流したまま手から風ね。こうかしら」


 杖を持った手を腰にあて、後ろに向けて風魔法を発動させた反動でカリンが少し前に進む。俺はブレーキ役だ、少し進んでから足を踏ん張って止める。


「よし、うまいぞ。もう少し風を強くしてみろ」


 今度は俺も一緒に雪の平原をスーッと滑って走っていく。


「どうだカリン、バランスを取る感じが掴めたか?」

「うん、何となく分かってきたわ」

「ユヅキさん、それ面白そうね」

「師匠、あたしも、あたしも」


 アイシャとチセも魔力量が少ないから、自分だけで進むことができない。カリンを先頭に4人腰を掴んで電車ごっこのように並んで中腰になる。


「行くわよ~」


 カリンが後方に風を送ると、走るぐらいのスピードで4人一緒に進んでいく。


「よしカリン、少し体を傾けて斜めに風を送れ」


 カリンの腰をひねって左に曲がる。カリンはまだバランスを取るのが精一杯のようだが、ちゃんと曲がっているぞ。俺は後ろでブレーキを掛けつつバランスを取る。よし、次は反対にひねって右旋回だ。


「うわー、師匠。これ面白いです」


 キイエも俺達の真上で左右に飛んで楽しんでいるようだ。


「ねえ、カリン。もっと速く走れる?」

「大丈夫よ、チセ。この草原ならスピードを上げて滑れるわよ」

「それなら曲がるときは、片足を横に出して曲がってみよう。スピードを落とさずにスムーズに曲がれるぞ」


 腰を持ったまま、さっきよりも速いスピードで進んでいく。


「よし左に曲がるぞ、右足を外に出して、それ~」


 カリンが腰をひねって俺達も一斉に足を外に出し体を傾けると、そのままのスピードで、ギュンと曲がっていく。


「よし、次は右に曲がるぞ」

「なんだか、これ気持ちいいわね」


 カリンも楽しむ余裕が出てきたようだな。スケートをするように風を受け、広い平原をみんなで滑る。その後も丸く回ったり、左右に細かく曲がったりと楽しんだ。

 少し休憩を取って、次は川だな。


「これはな、川の上も走れるんだぞ」

「えっ! ほんとなの。ユヅキさん」

「大丈夫さ、アイシャ。今は川の水も少ないから一度やってみよう」


 4人しっかりと腰にしがみつくようにして、足に魔力を通して体を浮かせる。


「よし、カリンいいぞ。少し強めの風を後ろに送れ!」

「う、うん」


 川岸から川に向かって結構なスピードで川に突入する。左右に水しぶきを上げながら川の上をスーッと滑っていく。


「キャー、すごい、すごい。川の上を滑ってる」


 チセがキャッキャッ言いながら対岸まで到着した。急流すべりをしているみたいで楽しいぞ。


「すごいです、師匠。もう一回しましょう」


 よしもう一度、川の上を滑り対岸に渡ってみよう。水しぶきを上げ川の上を滑りきると、そろそろカリンも慣れてきたようだな。


「今度は私ひとりでやってみる」

「川は危ないから、こっちの平原でやりなよ」

「うん、見ててよ」


 カリンは中腰の姿勢でスーッと滑りだす。なかなか上達したじゃないか。

 左右に曲がろうとしている。あっ! こけた。


「ふぇ~ん。痛かったよ~」


 ほんとに不器用な子だ。

「よし、よし」と、俺は擦りむいた膝に光魔法で治療をする。

 その後、何回か練習をして、カリンもひとりでなんとか滑れるようになった。

 みんなと楽しく過ごせた冬のいい一日だった。


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