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第129話 巨大魔獣戦

 迫りくる巨大魔獣の正面には、3人の黄金ランク冒険者。銀色に光る鎧に身を固め、馬に乗ったブロックスとシルマーンのふたりが前衛で並ぶ。その後方には、黒い大きな杖を持ち、焦げ茶色のローブを着た女性魔術師。

 その左右には60人程の鎧を装備した兵士達が居並ぶ。俺達冒険者は巨大魔獣を取り囲むべく、大きく左右に展開している。


 ブロックスが腕を上げると、走っていた巨大魔獣の周りに沼が出現した。魔獣はぬかるみに足を捕らわれて動きを止める。

 沈んでいくというほどの深さはないが、これほどの広範囲で沼を出現させるにはかなりの魔力量がいるはずだ。カリンも「やるわね」と呟いていた。


 そのマンモスの魔獣に兵士の一団が、長い鉄の鎖を持って取り囲む。昔読んだガリバー旅行記のように、鎖で縛り上げ動けなくするつもりか?

 すると魔獣は口から氷のブレスを吐き、牙の先端から炎をまき散らす。動けなくなっても、この魔獣には強力な魔法攻撃がある。

 だが兵士の装備には魔法耐性があるのか、炎を受けてもびくともしない。


 事前に鎖を用意していたということは、以前この方法で巨大魔獣を捕らえた事があるのか?


 兵士たちがジワリジワリと魔獣に近づき鎖をかけようとしたその瞬間、マンモスは凄まじい咆哮(ほうこう)と共に立ち上がった。沼はさっきの氷のブレスで凍り付き、その氷を足場に沼から脱出しようとしている。わざと凍らせたのか!?

 近づいていた兵士が鼻の一振りでなぎ倒される。


「これはまずいぞ。カリン光魔法を魔獣の顔の前に飛ばせ!」


 強烈な光魔法が魔獣の目の前で弾ける。一時的に視力を奪われたマンモスが鼻を振り回して暴れるが、まだ後ろ足が沼から抜けずにジタバタしている。

 その間に、負傷した兵士は救出されたようだ。


「やはり直接攻撃しかないか」


 周りの冒険者達も魔獣に近づき弓や魔法を浴びせているが、やはり効果はない。

 すると黄金ランク冒険者のブロックスが馬で駆け寄り、大きな槍でマンモスの腹部に攻撃を仕掛けた。


「パウォ~ン」


 あの槍ならダメージを与えられるのか! 確かに普通の槍ではない、特別製の物に見えるな。シルマーンも大型の剣を持ちマンモスの足元に斬りかかる。足はかなり硬いのか金属同士がぶつかり合うような激しい音が響く。

 沼を脱出したマンモスがシルマーンに迫り、前足で踏みつぶそうとしている。


 危ない!! そう思った瞬間、再び巨大な沼が出現してマンモスが沈み込んだ。だが一時しのぎにしかならんだろう。マンモスがまた氷のブレスを吐き始める。


「カリン、ちょっと来てくれ。俺を風魔法で飛ばせ」

「ユヅキ、何言ってるのよ。そんな事できる訳ないじゃん」


 俺の靴底には風の魔道具が取り付けてある。魔道弓で矢が溝から少し浮き上がるのを見て、ホバークラフトのように浮き上がって進めないかと遊び心で付けたものだ。

 浮き上がる事はできたが、俺の風魔法では推進力がなく進む事ができなかった。地面に絵を描きカリンに説明する。


「カリン、俺の後ろから風を送り、魔獣の顔まで飛べる氷の坂をここに作ってくれ」

「そんな事できる訳……いや、私ならできるわね」


 マンモスの魔法攻撃の源である牙を攻撃したいが、高すぎて剣が届かない。ジャンプ台で俺を飛ばしてもらう一か八かの作戦だが不可能ではない。

 マンモスも今なら沼に落ちて動けず、口からブレスを吐いて足元を凍らせるのに集中している。


「ユヅキさん、これを着て」


 アイシャが着ていた、女神様からもらったローブを着せてくれた。カリンも状況を見てどの位置に坂を作るか考えてくれる。

 俺は剣を抜き、足元の風の魔道部品に指から魔力を流し続けるため、座った状態になる。今からスキージャンプをするような格好だ。


「ユヅキ、いくよ」


 後ろから風を受けて前に進み出すが、結構な加速だ。本当にジャンプ台を滑走しているみたいに横の景色が急速に流れていく。バランスを崩さないようにするだけで精一杯だ。

 魔獣の斜め後方には、魔法の氷でできたジャンプ台が既にできていた。マンモスは下にブレスを吐き続け、こちらには気が付いていない。


 勢いに乗り氷の坂を昇ってジャンプすると、目の前にマンモスの顔が迫る。俺は超音波振動を起動した剣を、下から斜めに斬り上げた。


「でぇいやー」


 マンモスの牙を1本と鼻が少し切れたか!!

 頭上を飛び越え空中にいる俺に対し、マンモスは顔を上げ鼻を振り上げ氷のブレスを吐いてきた。ローブに包まったまま、反対側にカリンが作ってくれた氷の坂を滑り降り魔法の範囲外へと逃れる。


 沼はまだ凍っておらずマンモスが動けずにいると、正面左に土の柱が立ち上がる。その柱の上には剣を抜いたシルマーンがいて、飛び降りながらもう片方のマンモスの牙を切り落とした。俺のやり方を真似たのかもしれんが無茶をする。


 着地した瞬間を狙われたか、マンモスの鼻の一撃を受けてシルマーンが吹っ飛んで地面を転がる。

 このマンモスは戦い慣れしている! 攻撃する者の動きをよく見ている。沼を凍らせるなど前に獣人と戦ったことがあるのか?

 シルマーンは、馬に乗ったブロックスに救助されたが、戦線への復帰は難しいかもしれんな。


「ユヅキさん、大丈夫」


 荷馬車に乗ったアイシャとカリンが俺の元に来てくれた。


「カリン、奴の目を狙えるか?」

「さっきもやったけど、どこが目か分かんないし、長い毛で防がれるのよ」


 さっき飛んだ時、奴と目が合った。


「鼻の付け根のすぐ横だ! そこに細い槍状の魔法で集中して攻撃できないか?」

「鼻のすぐ横ね。やってみるわ。アイシクルランス!」


 細い氷の槍が何本もマンモスの目をめがけて降り注ぐ。

 マンモスの絶叫がこだました。魔法が当たったか! 片目から血を噴き出しているぞ。さすが、カリンだ。

 氷のブレスで沼が凍ったのか、脱出したマンモスが暴れ周り冒険者たちを弾き飛ばしている。

 カリンが反対の目を狙ったが、鼻で防がれた。2度目の攻撃は確実に防いでくるのか……厄介な相手だ。


「カリン! 馬車を魔獣の右側に移動させて!」

「アイシャ、何をするつもりだ!」


 マンモスから距離を取って荷馬車を停めると、アイシャが降りて弓を構えた。

 マンモスがこちらに気づき、地響きをあげ走ってくる。


「アイシャ、無茶だ!」

「静かに!!」


 すごい気迫のアイシャに、俺は後ずさる。なおも迫るマンモスに集中するアイシャ。1対1、正面で対峙する。


 鋭い風切音がして、矢が放たれた。


 アイシャが至近距離から魔道弓を使ったのだ。マンモスはものすごい速さの矢を、鼻で防ぐこともできずに目を射抜かれた。

 その絶叫は辺り一帯の空気を震わせる。まるで目に見えない圧力で俺達を吹き飛ばそうとしているかのようだ。

 目が見えなくなったマンモスはその勢いのまま、こちらに走り続ける。


「危ない! アイシャ!」


 俺はアイシャを抱き抱え、地面に転がる。アイシャは俺が守らないと! だが土煙を上げた巨大マンモスの足がすぐ近くまで迫って来た。


「アイスシールド!!」


 目の前に巨大な氷の壁が立ち上がった。マンモスは壁に激突して滑るように横に進路をずらす。


「カリン、助かった!」


 牙を失い目の見えなくなったマンモスは、長い鼻を振り回しながら尚も走り続ける。


「まだまだ、これからよ! アイスシールド!」


 マンモスの進行方向に氷の壁が出現し、マンモスの走る進路が曲げられる。湖に追い込む気か!

 すると今度は、土の壁がマンモスの前に出現した。これは黄金ランク冒険者の魔法!


「このお~。邪魔すんじゃないわよ!」


 マンモスの左右を挟み、土と氷の壁が湖に向かって競い合うように伸びていく。その作戦に気付いたのか、他の冒険者達も後ろから攻撃してマンモスを追い立てる。


 壁の先、湖の手前には馬にまたがったブロックスが立ち塞がる。槍ではなく剣を持ってマンモスが来るのを待ち構えているぞ。何をする気だ。

 マンモスが湖に突っ込む手前、その長身の体をいっぱいに伸ばして長い鼻を切り落とした。

 そのまま湖に突っ込んだマンモスに、カリンが魔法攻撃を仕掛ける。


「ギガストーン!」


 巨大な岩をぶち当てると、マンモスは10mを越える水しぶきを上げて横倒しになる。湖の岸辺はそれほど深くないが、マンモスを沈めるには充分だ。

 他の魔術師達も岩をマンモスの頭上に降らせ山積みにしていく。湖底に押し付けられたマンモスは、長い鼻で息をする事もできず、口から泡を吐き足をばたつかせ激しく水紋が湖に広がる。

 その後、巨大魔獣の動きは静かになり口から出ていた泡も消えた。


 湖の岸辺に集まっていた冒険者から歓声が上がる。俺達は巨大魔獣に打ち勝ったんだ。


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